(52) 蒼空の夢・3 ─── by ウィストリア・カーネリアン
カミーユが王立学院から姿を消した。そう知らせがあってから、もう5日経つ。
しかし五大爵相手に、なかなか踏み込むことも出来ないのも現実だ。
オーブリーやナバレの暗部が捜索すればすぐに居場所はわかった。
ナバレの暗部、黒水仙の私が指揮する統括本部内にいると、次々とカミーユの居場所を捜索する部下から報告が入る。
報告書には、息子を地下に監禁し、貴族の相手をさせていた。また、魔眼を奴隷調教に利用して早く従順な奴隷を作って、貴族に売り付けている、と書かれていた。
賭博、奴隷調教と売買、非合法の娼館、監禁、魔薬、・・裏取引、脱税・・・
まあ、出るわ出るわ
全く息子を監禁する親などいるのか?
吸血鬼に生まれだけでここまでするか?
調べれば調べるほど──── 最低な奴等だった。
夢魔族の頂点にいる五大爵アイヴァン家を排斥するのは簡単ではない。
しかもアイヴァンは魔術院、魔術部隊のトップだ。武家の中でも軍のサヴィンや暗部のナバレに並び立つ。
特にカミーユを捕らえる右翼軍アルティオスは雷撃を扱う手練れ。雷王とも言われ、武も魔力も強い。魔王に次ぐ我が兄とも同等とも言える。
しかも奴は、糞みたいな小児性愛者だった。
アルティオスが特にカミーユに執着していた。
話を聞くだけでも胸糞悪い。
恐らく、カミーユは死にたくても死にきれないだろう。すぐ再生する魔族の身体、自尊心だけが潰されていく。
初めて会った時、大人に怯えて、でも愛に餓えた瞳。最後にもう不要だと言った何もかも諦めた絶望とそれでも渇望してしまう相反する瞳。
幼いあの子は無理に表情を作っていた。
寂しさと孤独な影を持つ者に惹かれてしまうのだろうか。だからそんなカミーユに、リシェーナは心引かれていた。
まだ幼く、恋とは言えぬが幼馴染以上の感情を持っていたことは知っている。
カミーユも少なからず思っていたはずだ。
しかし、その感情をカミーユは抑えていた。誰にも悟られないよう。決して親や親族に知られないようにしていた。
だからかカミーユは、オーブリーや私、リシェーナに夢魔たちの触手が及ばないようにしていた。
夢魔たちに遅れをとる私達ではないのだが、カミーユ自身は魔力が少なく、抵抗する力も気力も削がれてしまっていた。
むしろ逃れるつもりはとっくに失せていて、いくら説得しても首を振るばかりだった。
「・・・大丈夫です。私にはもう信じられる友がいます。例え、私の行方が知れなくとも、もう死んだものと思って捨て置いて下さい。私にとっては貴方経ちに被害が及ぶことが、彼奴らの手が廻ることの方が何よりも耐えがたいのです。」そう答えるカミーユの顔が苦しみに耐えられないと、歪む。
「カミーユ!!」
「彼奴らは決して私を諦めない。・・心底、吸血鬼で魔眼持ちの私を蔑んでいるのです。・・でも貴方やオーブリーは違った。・・・彼奴らの罪は私が背負っていかねばならないもの。既に私はその一翼なのです。」
「・・・・・」私は何も言わなかった。もう、何も言えない。
罪といえば罪だろう。魔眼で混乱に陥れているのは事実であり、魔王が、そして世界が嫌う"均衡を乱す"行為に他ならないのだから。
しかし、カミーユにそれほど罪があるというのか。
──── そこへ急な知らせが入る。
「御当主様!」バタバタと駆け込んでくる者がいる。
カーネリアン家の侍従頭のジュリアンとリシェーナ付きの侍女のクレアだ。
滅多なことがなければ、私の家の者がナバレの暗部、黒水仙に来ることはない。
「 ──── どうした?」
「御当主様。お忙しいのに申し訳ありません。リ、リシェーナ様が、ど、何処にもいらっしゃらないのです!」
「 ──── リシェーナが?」
あの子は多分何も知らないはずだ。まだ、暗部の仕事はさせていない。何れ私の後を継いでもらうかどうか、これから資質を見るつもりではあったが、如何せんまだまだ幼いし、女であった。そしてリシェーナは勝手に出歩くこともない大人しい子だった。
そこへ部下でもあり、凄腕の術者でもある影アイザックが、使い魔の黒鳥が知らせを受けたらしく、腕に使い魔を乗せて入って来るのが見えた。
「 ──── アイヴァンを見張っている影セシールからの知らせです。リシェーナ様がアイヴァンの者の手に囚われた、と。」
「 ──── クソッ!!」また、何でうちの娘が!
「叔父貴、リシェーナがアイヴァンに囚われたって聞いた。何があったんだ!?」バァーンと部屋のドアが乱暴に開けられ、甥のオーブリーが私の元に駆け込んで来た。
「行方がわからなくなったアイヴァン家のカミーユ様をリシェーナ様は捜されていたようです。」部下の一人の影のシューマーが答える。「姫様っ・・・!」クレアが悲鳴に似た声をあげ床にしゃがみ込む。
「リシェーナの護衛は?」
「・・護衛のクリシュナですが、残念ながら殺されているのを発見致しました。」これもシェーマーが答える。
彼奴らはなかなか堕ちないカミーユの弱点を責めている、ということか。
リシェーナは夢魔族だ。護衛には吸血鬼を付けていたのだが、夢魔としてはまだ年若いが、上位魔族の令嬢のリシェーナの方が魔力は強い。残念ながら守りきれなかったか、不意討ちだったのかわからないが、リシェーナがカミーユを探してクリシュナを撒いた可能性もある。
「カミーユとリシェーナを救出する。場合によってはアイヴァンをたたく。」
「はっ!」部下たちはそれぞれ準備と各部署に連絡に走る。
「叔父貴!相手はアイヴァンだぞ!」流石にオーブリーでも焦るか。
「 ─── そうとはいえ、私の娘に手を出した。」私は極力、怒りを抑えて言った。
「・・・・・」オーブリーは私を見て瞠目し、何も言わずに首肯する。
「カミーユを従わせる為にしろ、奴等はやり過ぎた。 ──── 兄に連絡を。そして王の許可をとる。」




