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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第2章 魔界の黎明
50/74

(50) 絶望と希望と・3 ─── by カミーユ・クリストフ・アイヴァン

お久しぶりです。

この回はカミーユさんにとって辛い過去の話です。それとなくRを匂わせる表現にとどめたつもりですが、気分を害されたらすいません。

 


 ウィストリア・カーネリアン


 笑うとやや垂れる朱色の瞳(カーネリアン・レッド)は、穏やかで優しげであるが、裏の顔は苛烈を極めるナバレ家の暗部を担う、ナバレ一族のNo.2の男だ。


 彼は私の一族や私に執着する奴等のことを調べ、奴等(おや)に囚われた私を助け出そうとしてくれていた。


 幼馴染のリシェーナの父親である彼は、アイヴァン家には吸血鬼(バンパイア)が居ないからと、私の種族としての教授役をかって出てくれた師の一人である。




 アイヴァンにあって、ただひとりの吸血鬼(バンパイア)として、生きていくことがどれだけ難しいか、幼い私はよくわからなかったのではないかと思う。


 なぜ親に愛されないのだろうか。淋しくていつも泣いていた。しかし私の疑問の声に答えてくれる者はいない。


「・・・ふん、その瞳、その顔、その態度。吸血鬼(バンパイア)など血生臭くて全てが厭わしい。」と血の繋がった父に投げつけられた残酷な言葉は、私の抜けない何本もの(トゲ)となって槍となってと心の臓を刺し、血を流し続けた。


「しかも『魔眼』持ちなど、本当(まこと)に穢らわしい。」


 穢らわしい、忌みじいと罵られた魔眼は、いつしか強力な魅了と意思の強制、執着、嫉妬、従属・・・と私の意思と関係なく負を呼ぶ力を持ち始めた。


「 それでも、お前は役に立つ。その魔眼で皆を魅了し狂わせろ。我らの好む世界に、─── 堕落、享楽、そして理性の崩壊、混沌。全て狂えばいい。」


 私の父は狂ったように私を鞭でなぶり、従属させ、もう許してくれと懇願させ、その情けを叫ぶ姿に、蔑み狂喜する。


 夢魔族のなかでも、淫魔は精が糧であるので、当たり前のように父と母は、多くの者たちと淫らに乱れ交わる。


 まるで、浅はかで欲を貪るだけの魔獣じみて、そこに高潔な知能などは全く感じられない。


 これは物心ついた頃よりの当たり前の日常だった。


 私は一種の催眠状態、魔薬漬けにされもう感情も何も動かされない。もう何も感じたくないと思えば、電撃を与えられ、衝撃で正気に戻る。負の感情を沸き起こし、魔眼の力を発し、周りを狂喜の渦に落とす。


 私は「夢魔の王だ」と標榜する父が支配するこの地下で囚われ続けている。


 この屈辱はいつ終わるのか、恥辱にまみれ、地に這いずり、私も享楽と狂喜、理性の崩壊を繰り返し、ひたすら、ひたすら繰り返された。


「お前の不幸はアイヴァンに生まれてしまったことだな、え?カミーユ。その我らを穢らわしい者を見る目。くっくく。そしてその狂喜の瞳。お前など!我ら夢魔の元に産まれるなど、穢らわしい。お前のような吸血鬼族(バンパイア)など生まれてきてはならないのだ。」



 しかしとうとう私も学院に通う歳となり、家から出ることを許された。



 この時ほど五大爵に生まれてたことを感謝した時はない。世間体を気にする下衆な(やつら)のお陰だ。


 なんと、ナバレ公爵やカーネリアン公が私のことを魔王に口添えしてくれていたことを知ったのは後のことだったが、とにかくあの家を出ることが出来た。


 家に帰ることはしなかった。もう新しい生活を静かで、穏やかな日々を知ってしまったからだ。



 しかし現実は私には厳しかった。


 魔眼の為に誰一人として私に声を掛ける者もいない。本で読んだ楽しいそうな学生生活はない。そのうち魔眼は周りを狂わせ始めた。



 ここでも私の居場所はなかっ。




 魔眼は周りを狂わせるが、私は代えって正気で、冷静に周りを見ている自分がいた。逆に魔眼に翻弄される奴等を滑稽だと馬鹿にしていたのかもしれない。



 でも、周りとどう話せばいいのか。距離の取り方も知らず、無防備だったと思う。度々上級生に絡まれ、閉じ込められたり、いたぶられたりした。


 この頃はまだ強い魔力もなく、抵抗する術も持っていなかった。


 魔眼は、執着とそしてその者の持つ強欲までの(さが)を浮き上がらせる。魔族は本来自分の性さがに逆らうことなく、理性など持ち合わせていない種族ではある。


 しかし私の魔眼はその本来の(さが)をまるで沸騰させるがごとく、急激にその者が持つ本能よくを極限まで沸き上がらせ狂わせるらしい。


 その"狂喜の瞳"を意図して使っているわけではない。


 王立学院でも変わらず、私は無防備に魔眼を曝してしまう。この魔眼を自力で抑えることが出来ないからだった。


 そして、私は皆から忌み嫌われ、孤立し、友もいなかった。




「・・・お前、悔しくないのか?」


 ある時、地面に這いずる私を、はるか上から見下ろす強い魔力(ちから)持つを吸血鬼(どうしゅぞく) ─── 同学年の、名門貴族の息子オーブリー・ナバレだ。


 気の許せる友、同種族(バンパイア)であり何かと気にかけて貰える喜び。



 しかし幸せとは、本当に長くは続かないものだ。



 散々なぶられ続けていた私の元に、更なる苦痛の日々が始まろうとしていた。



『ちょっと気晴らしに遠くに行こう』文にはそう書いてあった。いつもオーブリーは私を連れ出してくれる。


 今回に限ってはいつもの魔馬車(ウルト)ではなかったが、落ち合おうということだったので迎えに来た魔馬車(ウルト)に乗った。友が出来、無防備だった私は簡単に騙された。



 ──── あの日、私の最大の苦痛と試練が待っていた。


 小児偏愛者(ペドフィリア)でもあるアルティオスが、私の前に現れた。


 アルティオス・ウィドヴィクは今王の右腕として、魔王軍の精鋭部隊、右翼軍の将軍の一人だった。左翼軍にはナバレ家のアレキサンダー・ナバレ、そして主翼軍の大将軍はサヴィン家のレイウォルト・サヴィンだ。その妻サフィナも将軍の一人だ。


 アルティオスは地方魔族出身であるが、五大爵の我が一族の外戚でもあった。当然、夢魔族(インキュバス)である。



 アルティオスは、執拗に、私に執着した。何度も執拗に私を穢し抱いた。時間すらわからない淫靡な空間、何度も繰り返される。もう何度も。私はアルティオスに売られ、家に連れ戻されまたあの地下に監禁されていた。



 何で生まれてきたのだろう。どうして生きているのだろう。




 (オーブリー)にもう会えない。幼馴染のリシェーナにも、もう二度と会えないだろうと思っていた。








 

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