(5)私の部屋は……魔窟?
さて、魔王の珠の伝達式は明日行われることになり、私達は魔王城の一室に案内されました。
「 ……………… 。」 皆、言葉なく固まりました。
ここがこれから私の居住室となるとのことでしたが、白い猫足家具で統一されたもろにザ・お姫様ルームでした!
で、壁紙は薄い紫色、カーテンは濃い目の紫、敷かれていたムートンは、…… ふわふわピンクでした。……いったい誰の趣味だ!?
「あら、カワイーくできたわねぇ!どうどう!?オルテンシア!」
……お母様コーディネートでしたか。
どこのヤン○ーのおねーさんの部屋かと思いましたよっ。そう言えば……魔界の元ヤンだったね、お母様。
「くっっ、これじゃ落ち着けないな?オルテンシア……、かっ、可哀想に……。」
お兄様が一応同情してくれますが、笑いを堪えきれず、涙をためて肩を震わせてます。
せめてピンクムートンとカーテンは変えたい。…… 寝室は隣らしいのですが、ちょっと見るのが恐ろしい。
気を取り直して、お茶にします。
慣れ親しんだナバレ侯爵邸とはお別れ、まだ幼い私の身の回りは、ナニーのルチアとニーナが侯爵邸からついて来てくれました。
ルチアとニーナはうさぎの獣人さんでもともと生まれたときからお世話になっており、ルチアはもう一人の母と言ってもいいほど、ニーナはルチアの娘でお姉さんのように慕っております。
なんと私が生まれながらに魔王となる瞳を持っていたために、いずれ魔王城へいくことになるので、しきたりやら作法を城に習いに行っていたらしいです。
私は殆どベッドで過ごしていたので、いつのまにって感覚でした。だっていつも側にいてくれましたからね。
お父様やお母様と離れなくてはいけないので、ちょっと心細かったから、本当に一緒に来てくれて嬉しいです。
魔王城からも何人か付くらしいですが、これから相性をみるらしい。
執務はまだ幼いので、宰相やお父様、各貴族や執政官が代行し、私は少しずつ学んでいけばいいと、宰相さんが言ってくれました。
まずとにかく魔王の珠を引き継ぎ、暴走しないよう安定させ、魔力を使いこなすことが出来るようにならなくてはならない、とのことです。
「疲れたかい、オルテンシア?」お父様に抱かれていましたが、ソファーに降ろしてくれます。
それが意外に疲れていなかったので、私も驚いていたところです。
「なんか、とても身体が楽です。」
「もしかしたら、珠の近くにいるからかもねぇ。これなら魔力計測が出来るかもしれないね。」
これまで魔王の珠を受け入れることが出来るように、お父様達の魔力を少しずつ与えられていたそうです。
お父様とお兄様は吸血鬼なので、主に主食は生血ですが、長期間食事はしなくても大丈夫なんだそうです。お母様は狼族なので生肉中心ですが、皆甘党なので見てると常に甘いものを食べています。
吸血鬼ってケーキ食べるの!?って始め驚いたけど、今では当たり前の我が家の風景です。
コーヒーは嫌いなのかあまり飲みませんが、紅茶はよく飲みます。私もジュースではなく、紅茶をいただきます。
前世では、カフェオレ狂いだったので、時々飲みたいと思い出します。○ーソンのカフェオレを多い時で3杯も飲んでたからなぁ。
夜眠れなくなってよく幼馴染みに「お前、馬鹿?」って言われてましたけど、夜勤するにはカフェインの助けなく過ごせないことを身をもって知ってますからね。
若い時はいいのです。深夜勤明けでも遊びに行けました。30才目前になるとカフェインの助けが必要になり、40才前の先輩たちは、寝ないと無理と言っておりました。
また、スッピンで仕事も年々できなくなるのよ!って言ってましたっけ……。お肌の手入れは後々後悔するから、いいクリーム使えと一緒に買いに行きましたね。
うっ、懐かしい……!
「あらどうしたの、オルテンシアちゃん?えっ、衣装部屋も見たいって?」
「 …………。」ズズズと紅茶をすする。はしたないですが、そこは返事の代わりとして許してもらおう。
だから、衣装部屋とは一言も言っていませんから、お母様。
「…クリーム……。」
「ええっ!クリーム色が良かった?」
だから、そんな事一言も。
……仕方がない。「せめて、クリーム色のムートンでお願いします。」
「え~!ピンクの方が可愛いじゃない!」
やはり今日のゴシック衣装はお母様の趣味ですか。ワンピースは黒に縁がピンク、このピンクの靴とポシェットは可愛いのでまあ良い。でも猫耳は断固拒否して良かった。代わりにでかいピンクのカチューシャを着けさせられたが。
そうしてお母様に連れられて衣部部屋を見てみた。
そこは……魔窟でした。
見事なゴスロリ系衣装、…… 魔界でもあったのね。ビジュアル系のバントのライヴに来ていたお姉さん達やコスプレイヤー?の女の子達みたいなメイド服、ヒラヒラのピンク衣装もある……。まるで社交ダンスや○○歌劇団のような羽根つき衣装。いったいいつ着るんだ!って心で突っ込む。
「せめてエプロンを付けないようにと努力したのですよ、お嬢様。魔王でいらっしゃるのにメイド服では区別がつきませんから。」とそっとルチアが言う。
「だって!オルテンシアちゃんは私の手を離れて暮らさねばならないのよ、ルチア。せめて衣装を揃えて、送り出したいじゃない!お嫁に出すみたいに思っちゃて……うっうっ。」
「まあまあ、今まで外出着やデイドレスを作っても中々陽の目を見ることなかったのだよ。せめて衣装は揃えてやりたいのが親心。そうだよね、カリア?」とお母様に甘々なお父様がを慰める。
確かに今の私はゴスロリ衣装が似合う容姿ですが、回りから浮きすぎて、元慎ましやかな日本人としては、目立つことは恥ずかしいのです。元はコスプレはしない、ごく普通の女子でしたのでね。名前が個性的なキラキラネームだったので、目立つ事がとても嫌だったのです。
「イヤイヤ、オルテンシアお嬢様ここは魔界ですのよ?ゴスロリは大人しいくらいでして、皆様とても個性的な方ばかりです。」ん?ゴスロリって言った?その言葉、こちらでもあるんだ。
そう言えばまだ、魔族はうちの家族と宰相さんとカミーユさんにしかお会いできていませんでしたね。
この後、5大爵家の人達と会うらしいです……。