(47) 絶望と希望と・2 ─── by カミーユ・クリストフ・アイヴァン
オーブリー・ナバレ
同学年とはいえ、オーブリーは私より僅かに年下で、まだ若いが自信に溢れ、それが顔に、態度に出ており尊大だった。
しかもとても強い魔力を持っていたため、最近飛び級してきた男だった。
五大爵筆頭本家ナバレ家当主は、不老不死者と言われるアレキサンダー・ナバレ。オーブリーはアレキサンダー・ナバレの一人息子ナバレ家の御曹司だった。
「宵闇の瞳」と言われるナバレ家の青紫色の瞳、それが時に赤く鈍くひかるのは、魔力が増幅されるからだ。
初めての出会いから、たびたび私の前に現れては、私の傷を回復させ、そして魔眼の効力を抑える。
私たちの間に会話は、ない。
だから、いつも強い魔力を持つ赤い瞳を見つめることになった。
「・・・・・不満か。」オーブリーの声に少し苦笑が隠る。
何をもって不満かと私に聞くのか。
私はただ、もう何も感じたくないだけだった。
魔眼は、私が感情を抑えれば幾らか抑えることが出来るようになっていた。
この時、私の魔力は弱かった。私はもともと魔力制御には長けていた。だから、この呪われた魔眼も魔力が強い上位魔族に対しては、強い効力を及ぼすほどの魔力はなかった。
憎い、痛いなど負の感情を持つと相手に逆に執着や嫌悪などの負を呼ぶ。
特に父や母、アイヴァン一族に対しては、決して許すことのできない感情を持っていた。
しかし、感情を殺せば、何も感じなくなれば、相手も狂わない。私はこの頃には、感情を持たないただの身体、いわば人形のような存在だった。
だからオーブリーにも感情を見せずにいた。
もう私にかまうこともないのに。
私にかまうなど物好きか、狂人しかいないのにと思うと、何故か可笑しくなった。
「・・・クッ、」つい、声が漏れてしまう。
「・・・なんだ?」オーブリーは訝しげに問い返す。
「・・・いや・・・物好きだな、お前は。くくっ、あっ、つっ。」とうとう私は笑ってしまった。笑うと傷が痛いことも、初めて知った。
なんだ、私はオーブリーに構って欲しかったのか、と何故かストンと自分が笑ってしまった理由がかった。
お互いの諦めの悪さに、呆れてしまう。
オーブリーは、目を瞠はり、そして不遜に笑いながら「 ───ふん、お前にも感情があるのだな。安心したよ。・・・・お前はまだ、堕ちていないようだ。」と言った。
そうして、私たちは自然と一緒にいるようになった。
「こんにちは。・・・久しぶりね、カミーユ。」
男子全寮制のこの王立学園に、まだ幼い、大人になりきれていない甲高い声が響く。
魔族の国ペルラでは、男子は王立学園の全寮制で学び、そこに所属する生徒は月、洸夜、火と年代でわかれている。
学園は月に一度、一般に開放される開放日というのがある。開放日には、学園内が特に賑わう。
その日以外は全く帰宅どころか家族に会うことさえ許されていないため、開放日に合わせて殆どの家族が面会という形で会いに来る。
私の家族は会いには来ないし、いつもはひっそりと乳母夫妻が差し入れを持って来てくれるくらいで、魔眼持ちの私は、他の魔族達が開放日に私が彷徨くのを嫌うため殆ど部屋に引っ込んでいる方が多かった。
何時からか、私はオーブリーに強引にナバレ家の面会室に連れ込まれるようになっていた。
五大爵の子息は学園内に特別にそれぞれ面会室を持っていた。もちろん我がアイヴァン家も持っている。しかし私の家族は会いに来たことはない。
甲高いまだ幼い声の主は、リシェーナといい、オーブリーの従姉妹、叔父であるウィストリア・カーネリアン伯爵の娘だった。
彼女は私の幼馴染だったが、私が魔眼の力を発揮し始めた頃からは疎遠になってはいた。
来年、王立学園に入学するらしい。まだ幼く華奢だったが、久しぶりに会うリシェーナは少女から大人の女性になりつつあり、強い魔力を感じさせた。
もちろん魔眼持ちの私にはどの親だって近づけさせたくはないだろう。だから私は無表情で感情を隠し、魔力を抑えた。
なのに、リシェーナは無邪気に私へ話しかける。オーブリーと共に会ううちに、いつしかリシェーナは何かしらの恋情を私に持ったのだと思う。
ウィストリア・カーネリアンは、いつも穏やかな笑みを浮かべて、飄々としており存在感はというと薄い方だった。兄であるアレキサンダー・ナバレとは違い、圧倒的な魔力やカリスマ性はなかったが、裏の顔は苛烈を極めるナバレ家の暗部を担う、ナバレ一族No.2の男だった。
薄い金色の髪、カーネリアンという名のごとき薄赤い瞳を持ち、時に血色増す魔性の瞳を持つ。兄ほどでなくとも、魔力は強いのはわかった。
探索に関する魔力に秀でていて、また戦闘能力も高い。暗殺部隊を率いるのに相応しいといえたが、その時私は何も知らなかった。もちろん、オーブリーは既に暗部の一人として学園に入学していた。
彼らは私の一族や私に執着する奴等のことを調べていた。
何も知らなかったのは、私とリシェーナだけだった。




