(45) 魔王としての戦い ─── 魔王国舞踏会 (3)
抱っこ合戦の合間、別の方向から殺気が飛ばされるのを感じる。
それは鋭く、そして妬み、嫉妬、蔑みを含んだ強い殺気でした。
ビクッと私が反応すれば、私を抱いていたキアランさんも一瞬息を詰めるのがわかった。視線がぶつかり合うと、私は首を横に振った。
カミーユさんも心配そうに私を見ていました。カミーユさんには大丈夫と頷き返しておく。
「ちょっとぉ、いつまで私は抱っこされないといけないの?」今の私は我が儘ビッチな魔王なのだ。・・・なりきれていないけど。
注目を浴びすぎていたのでしょうか。「少し、休みます。私まだチビ助なのでっ!」と竜族王子に言ってやりました。
「おっ、おうよ。チビ助はもうお寝むか?」竜族王子はそう言って離れていった。
私は曖昧に頷いて、キアランに椅子に降ろしてもらました。「お腹が空きましたし、まだなにも食べてませんし。皆さんもどうぞ私にお構い無く。」
「そ、そうだな。」アルトも私の態度の急変に驚いています。
「・・・カミーユも令嬢達がお待ちかねだよ。少しは話し相手にならないとダメよ。」
「オルテンシア様・・・」綺麗な顔に困惑と落胆が露になる。
カミーユさんがいやがるのもわかるけど、ここは円満に、波風をたててはいけない。ここは賓客をもてなす場で、魔王としての仕事はいくらチビ助の私でも否応なしに降りかかって来る。
「お兄様、カミーユを宜しく。」すっと近寄ってきたお兄様にカミーユさんを託す。
「仕方がないな。行くぞ、カミーユ。」
カミーユさんはまだ心配そうに私を見ているけど、ここは頼ってばかりではいられない。だからあえて突き放した。
売られた喧嘩は受けてたちます‼・・といいたいところだけど、やっぱまだ無理かな。ここは大人しく見極めに徹しよう。
でも、やはりいろいろと考えてしまう。
キアランさんの願とは?あの視線はどこから?今はすっかりあの殺気は飛ばされてはいない。誰?どこから?
くくっと笑いが傍らから聞こえる。
「本当に貴方には驚かせられますね。」
キアランさんとシセロさんまで後ろにいて笑っている。
幼い私が人をあしらうなど滑稽に見えるのかしら。
「・・・今の私は我が儘ビッチなチビ助魔王なの。みんなに守られて何もできない魔王。・・・その通りなのだけど、仕方がないですね。」
「・・・貴方はよくやっている。」という返事に瞠目しそうになるけど、本当にそう思ってくれてるのか?「・・・それはどうも。」と返事をしておいた。
この人は、何を考えているのか、カミーユさん以上によく分からない。私の評価はかなり低そうですが仕方のないことです。
王城にいても感じる不穏。
サヴィン家の願も、隷属支配も、そして魔界に巣食う汚泥もいつになったら綺麗にできるかはわからないけど、ひとつひとつ潰していくしか私にはできない。
私の周りが少し人も疎らなると、今まで近寄ってこれなかった人たちが次々と挨拶に来はじめた。
これまた行列をなしそうな挨拶の列に、正直ため息を吐きたいところだけど、キアランさんとシセロさんのサヴィン兄弟に周りを固めてもらい、挨拶を受ける為に私は笑顔を張り付けた。
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まだ幼いが、魔王オルテンシア様はなかなか聡い。だが、まだまだ甘い。
カミーユも過保護で、そして甘やかしすぎのようだ。今もふてくされているように見せているが、まあ可愛らしくてビッチ魔王に見せるのはまだまだのようだ。
魔王の珠を受けとる前は、儚くてつぶれそうだった、幼き魔王。
そして賢くとも、この魔界に巣食う闇と戦うことはできない。果たして、この暁の魔王が対抗できるのだろうか。
力が全てのこの魔界で、この善良すぎる心を持つ魔王がやっていけるのか?
─── 先程の殺気は、魔王オルテンシアに対する嫉妬と殺意か。
五大爵の絶対の誓いが既に崩れているのは、明らかだ。そこに他の種族に付け入る隙を与えてはこの前の戦いと同じになってしまう。
また、魔王が弑逆される訳にはいかない。まだ王が幼すぎる。時間が・・時間が必要だ。
しかし、獣人の隷属支配廃止とは。
そう簡単にはいくまい。
理想は高いが、果たしてこの魔界の暗部に入り込めるか。ナバレの暗殺部隊でも我がサヴィンでも容易ではない。
叔父でもあった魔王マグナスを弑逆し、サヴィン当主夫妻 ─── 我らの父レイウォルトと母サファナを殺し、そしてアレキサンダー・ナバレ公のの弟ウィストリア卿をも殺した。
当時、ナバレの暗部を指揮していたのはウィストリア卿だった。ウィストリア卿は兄アレキサンダーと並び当代最高と言われる魔力を持っていた。うちの父も母も高い魔力を持っていた。
それが巧妙に罠に嵌められ、力を削がれ惨殺された。
『血の狂い』と言われる黒魔術というものがあると言う。
この三人はこれの罠にかかったらしい、と最近わかった。
『血の狂い』とはいったい何なのか。そして、それにともなって出てきた血の同盟結社の存在
血の同盟結社の全容はまだまだ掴めていない。前の戦いで突如その存在が隠され(無くなったではなく、隠されたのだと我ら兄弟は考えている。)、あの日を境に、血の同盟結社の足取りが途絶えてしまった。
やっと、我らもこの名をついこの間掴んだばかりだ。裏切り者達はわかっているが、あの『血の狂い』を使えるほどの術者とは思えぬ。
どこだ。まだ隠れている敵はどこにいる。
「キアラン?」
声をかけられ、はっとする。
魔王オルテンシアはとても無垢で、純粋な暁の瞳で私を見ていた。
「どうかしました?」
「・・・いえ。」と思考を飛ばし、あまり話を聞いていなかったのを反省する。
華やかな宴の影で蠢く闇。
天窓を仰ぎ見れば、そういえば今夜は闇夜だった。
月は出ていない。
しかし、王城は魔王オルテンシア誕生に珠が城を囲み、月の代わりのように照らしている。
その光は、未来の光になり得るのか。
希望はまだあるのだろうか。




