(44) 魔王としての戦い ─── 魔王国舞踏会 (2)
「あの、アルト?後で正式にお願いすると思うのだけど、私に治癒魔法を教えてほしいの。」
「治癒魔法?」
「ええ、魔族では珍しく私には治癒能力があるみたいなのだけど、この国では治癒魔法の使い手がいないので、教えを請うことができないの。この世には魔法があるからと薬の研究はまだまだじゃない?診断や治療法もない。例えばどこに問題があって治療しているのか、是非医聖である貴方に教えてもらいたいの。」
「・・魔王は治癒能力があるのか?」私を抱くカミーユさんにアルトが尋ねる。
「・・・あるはずだけど、力が暴走して上手く治療できないの。」恥ずかしいことに制御が上手く出来ず、治療しようとすると、表皮が熱傷のようになってしまう。例えば腹痛があればその原因の炎症部位がわかって、治療しようとすると内部は治療できても、魔法をかざした表皮に熱傷を負わせてしまう。
結局、治癒魔法をかけ治すことが出来るのだが、患者に余計な負荷をかけるのは元看護師としては納得いかない。それは治療師としては納得いかないのです。
「・・・確かに治癒能力はとても高いのですが、力加減が上手く出来ないようで。」とカミーユさんも言う。
そう、魔族は自分で怪我などは治癒することがてきるが、獣人さん達は治癒魔法を使うことが出来ないし、内蔵的なレベルになると、診断して治療できない。
その分アルトは前世はお医者様だし、看護師だった私より知識は深い。魔族の医学書などないようなものだし、人族の医学書から知識を得ても魔法での治癒方法は載っていない。
「是非、教えてほしいの!」
「それは魔王であるお前がすることなのか?」
「・・・えっ?」
「魔界に来て考えたのだが、そもそも魔族の持つ魔力と我らが使う力 ── 聖光は本質が違う。魔族はそもそも治癒魔法を必要としない、自己治癒能力に長けていて、欠けた部位の再生も早い。この魔界では、治癒魔法は"不要"ではないのか?」
「それでは、獣人を助けられない。」
「・・・・獣人?」
「この国にいるのは、魔族だけではないわ。身体能力が高くても、獣人は自己治癒は出来ない。お恥ずかしい話だけど、この国には隷属支配がまだあって、人身売買も闇で行われていて、なかなか取り締まることが出来ていないの。」
「隷属・・・?」アルトは戸惑いがちな表情を見せている。
「私たちは魔獣を使役するけど、獣人も隷属して縛り、虐げられている者が後をたたない現状で・・・まだ私の力が弱くて隷属支配が排除出来ない。」私は唇を噛み締める。まだまだ未熟なのは承知している。「・・・せめて助けられる命を、苦痛を取り除いてあげたいの。」
「・・・傷を癒しても、生きのびても置かれている環境は変わらないとしても?」
アルトの指摘はもっともで、既にカミーユさんやお父様にも言われていた。
魔王がすることではないことも。
うん、わかっている。それで現状はなにも変わらず、救われない。例えそこから救い出しても、また新たに同じように獣人が捕らえられるだけであることも。
「オルテンシア様・・・」カミーユさんも心配そうに私を見る。
「うん、わかっている。私の考えが甘いことも。でも、虐げられている者がいたら救いだして、癒してあげたい。」治癒能力が私にはあるのだから。
「・・・私からもお願いします。我が国には、まず治癒魔法を使えるものがいない。また獣人が虐げられた上での死はこの樟気で魔物化します。魔物は既に獣人ではない。他国との軋轢の原因のひとつにもなりますね。」
魔物は魔族ではないのだが、この魔界の樟気で魔物化するので、陸続きの国々に移動し、各地で被害をもたらし、魔界と各国との軋轢の原因となっている。
魔物は元は獣人だったり、魔獣だったり、魔族や人族、竜族だって魔物化する可能性はある。怨み、絶望のうちに死ぬと樟気に触れ魔物化するのだ。
「・・・わかった。しかし、魔王は魔界を離れるわけにもいかないし、俺は天界を長い間離れるわけにはいかない。」アルトもいろいろ思案してくれたみたいです。「条件もある。」
「直ぐでなくてよいのです。定期的に魔界に来て頂くか、こちらから天界へ伺います。まだ魔力制御が上手く出来ないので、暫くはこちらで制御の訓練が必要です。」
「落ち着いてからでもよい。留学という手もある。短期集中で学んでもらう。」
「・・・留学?」
「魔王が天界へ来るには、まだ天界の環境が整っていないので暫くは俺が魔界に来ることになるが、・・まあ、紫陽花に逢いに来る正当な理由が出来て嬉しい。」
「・・えっ?」アルトの前世でも見たことのない笑み。
「・・・そうなると思ったのです。熾天使が、来るとなると厄介でしかない。」
「・・・えっ?」カミーユさんが、・・黒い。メラッと音が聞こえそうなほどの殺気。よく見ると、瞳の色が赤くなってるよ!魔眼が~っ!
「っ!ダメだよ、カミーユ!」
「そうだ。魔眼使い、"狂喜の瞳"カミーユ。抑えろよ。」やっ!アルトまで黒いよ。天使の殺気、怖っ!
「・・・まさかこんなところで、殺気を露に睨み合っているとはなぁ。」突如聞き慣れない声がする。
振りかえって見ると、そこにはあの竜族王子、いやエリュシオン王太子。ここにいる人たちは、とても背が高いが、この竜族王子が1番高い。カミーユさんに抱かれていなければ、顔が全く見えないだろう。
カミーユさんの殺気も更に強まった。昨日のことがあったからね。見るとシセロさんやキアランさんまで近くに来ている。
「まあまあ、抑えてくれよ?別に争いたいわけでもない。ただ、今は舞踏会。魔王を独占するのは如何のものか?と言いたいわけ。」周りの殺気に比べて、軽い調子の竜族王子。若干つりめの瞳狭められ、ニカッって笑っている。「俺の婚約者を独占とは如何のものか?」
「「・・・婚約者!?」」
「・・・その話はお断りしてますから、オルテンシア様。ええ、永遠に有り得ません!ちょ、ちょっとオルテンシア様、離してください。」カミーユさんが仮面を外そうとしている。私は仮面を外さぬよう押さえていた。
「ダメ、カミーユ。」
「ははっ、1度は断られたが俺は諦めねぇよ。今はチビッ子だが、育てばあの姿なら悪くはねぇ。候補に入れといてくれ。」もう、カミーユさんの殺気が強くなるから、煽らないでよ~。
「魔眼は個別選択使用できるから、はずしても良いのでは?」アルトまで煽る。
「確かに独占はよくないな、カミーユ。」と言ってひょいと抱えあげられる。見ると、なんとキアランさんではないか!「サヴィン候・・・」カミーユは五大爵のひとり、キアラン・サヴィンに対し、下がり胸に手を当て目礼する。
「皆、オルテンシア様やカミーユと話したいと思っているのだ。ここは納めてくれ。」
「・・・あの~、キアラン?私を降ろして下さっても?」氷の軍師と言われるキアランさんが私を抱っこ?
「たまには私もオルテンシア様を抱っこしたいのですが、ダメですか?」えっ~!クールで大人で、えたいが知れない稀代の天才軍師と言われているキアランさんが、だっ、抱っこ・・・って。
「おい、兄貴。俺にも渡せ。俺も抱っこしたい。」横からシセロさんまで抱っこさせろという。
「お前はいつも側にいるだろう。この間、オルテンシア様を抱っこしているのを見たぞ。職務にかこつけて抱いていただろう。」
「ふ、職務だからな。知っているぞ。羨ましそうに見てたのは。」
「こんな娘がいれば可愛いなぁと思っていたのですよ。本当にナバレ公が羨ましい。」
「それには結婚しなければなぁ、キアラン。」お父様もいつのまにか側にいる。お父様の笑顔でも、目が笑ってないような?
「私には成さなければならない願がありますゆえ、結婚は当分するつもりはありませんが、娘が出来るのであれば、いいかもしれませんねぇ。」とクツクツと笑う。
「そうだろそうだろ?娘は可愛い。・・さぁ、そろそろ返してもらおうか?」
お父様殺気が出てます。
「・・・いつも親の特権で抱いているではないですか。今日は舞踏会です。無礼講なのでは?親が独占とは良くないと思いますがね。」
「・・・紫陽花も苦労しているな。」周りの大人達の様子に、流石に呆気にとられている。
「・・・アルト。」
「でも良かったな。前世は、・・その、淋しい思いをさせてしまっていたからな。」
「・・・うん。皆、とても優しいのよ。」本当、皆、優しい。
「生まれ変わって良かったんだな。」
アルトのクシャとした笑顔。
イケメンが笑うととても絵になる。でも、心からそう思ってくれてると思って、第2の人生もまだまだこれからだけど、頑張ろうと思うのでした。
話が長くなりそうなので、一旦ここで切ります。




