(41) 魔王としての戦い ── 魔王戴冠
魔王戴冠式がいよいよ始まろうとしています。
ファンファーレが流れる。
ええっ~!!競馬のG1のあのファンファーレ!?あの各馬出走前の高揚感。あのナカヤマのウオォーォゥゥォー!!なんて歓声は聞こえないけど、心は勝手に高揚します。誰の選曲なのだ?
「うう~~緊張するぅ。」ドキドキが収まらないよ。
一般ピーポー、一小市民、会議の司会でもドギマギしていたのに、まじ足が震えます。
「大丈夫ですよ、オルテンシア様。」カミーユさんが麗しい笑顔でそっと声をかけてきた。
「おっ?緊張するのか、オルテンシア?」お兄様もからかい口調ながらも、笑顔が優しい。
「オルテンシア、自信もって?オルテンシアなら、立派な魔王陛下として皆に認められるだろう。いつも通り、ありのままのオルテンシアで良いからね。」お父様はいつも優しい。周りをみると皆うんうんと頷いてくれていた。
みんな私に優しい。
でも、それに甘えてばかりではいけない。
どこからかリィーィンと鈴の音のような、トライアングルの音のような涼やかな音が聞こえる。パタパタと羽ばたく音が聞こえたと思ったら、ピーちゃん(仮)が私を目指して翔んできた。
いまの私は籠手を着けていないので、飛竜を停まらせるわけにもいかなので、代わりにシセロさんの腕に停まった。
さも嬉しいよとキュイィーと鳴く。最近のピーちゃん(仮)はキュイと鳴く。ピーじゃなく、キュウちゃんになるか、いっそのことそっかQPちゃんにするか!
「また変な名前をつけようとしてますね?」といつの間に私の隣に来ていたパリス君が呆れている。
私は何でわかるのよ?と首をかしげた。
「・・・心の声が皆に駄々漏れですよ。」
えっー、口に出してた?
「しかし、QPはないな。」「・・・ないですね。」お兄様とカミーユさんも笑っている。
キュイィー?!とピーちゃん(仮)も不満声だった。
こ、困ったな~
「ねぇ、ピーちゃん(仮)?お名前何にしようか?」私の飛竜になるので、私が命名した方がより絆が深まるのですって。魔族で飛竜を持っているのは今のところ私だけです。
誰に決められるものでもない。私と飛竜との絆を結ばなくてはならない。
リンディバルディスタ・・・"森の王者"という名に決めた。
「じゃ、・・・リンディでもいいかな?」と私の飛竜に尋ねてみる。
主従関係を魔獣と結ぶには真名で縛ることになる。「貴方はそれを望む?」だから、口に出したのは愛称である。
キュイ?と一声鳴くと、突如『良い名前だね、有難う!』とやや高めの声が頭に響いた。真名で縛ることに飛竜が同意したからだろう。
「言葉がわかるの?」とそれでも言葉が通じるとは思っていなかったので私がそう言うと、『ええ、名前を貰ったから貴方とは喋れるよ~』シセロさんの腕の上でまだ小さな羽を羽ばたかせて答える。心なしか胸を反らして威張っているようにも見えた。
「ええっ!?飛竜と意志疎通出きるのか?」と皆驚いている。真名で縛っても、他の魔獣とは会話は出来ないらしい。皆にはキュイキュイとしか聞こえないらしい。
『もう少ししたら、オルテンシアを乗せて飛べるほど大きくなると思うよ!』
後で、やはり飛竜でも特別な瑠璃種であるから会話がてきるのだろうとのことでした。
「うん、よろしくねリンディ。」私は小さな友達に微笑んだ。
じゃ、後でね。と皆、戴冠式が行われる暁の間に移って行った。
「さあ、いよいよですよ。オルテンシア様。」
今、私の傍らにはカミーユさんとシセロさん、シセロさんの腕にはリンディがいる。
扉が音もなくスーと左右に開かれた。私はカミーユさんにありったけの笑顔を返す。
「・・・いくわ!」
いよいよだ。
戴冠式が行われる暁の間に私は歩を進め、魔王としての一歩を踏み出した。
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─── 時の記術書
赤い絨毯の上を、侍従のカミーユ・アイヴァン、シセロ・サヴィンを後ろに従え、そして飛竜と共に進む。
暁の間の方々に散らばっていた珠が魔王の廻りに集まりだした。
赤い絨毯が中央に敷かれ、その先には魔王の王座が鎮座していた。珠は絨毯に沿って空中に並び、珠が柔らかな黄金色で包む。
五大爵以外の魔族は、まだ幼い魔王を初めて目にし、瞠目する。
まず目につくのは、魔族最高の貴色、漆黒の艶やかな髪、まだ身体は小さく、手足は細く弱々しい。しかし魔王のみが持つ暁色の瞳は、赤から紫、青に目まぐるしく変わり、力強く前を見つめている。
美しく力強く身の内からあふれでる魔王の魔力に魔族は魅せられ、そして長年待ち望んだ、真の魔王の誕生に感嘆の声をあげ、それはやがて大きな歓声となった。
「静粛に!」宰相の声が魔法で拡声され、暁の間を埋め尽くした隅々の者にまで鳴り響く。
魔王の王座の横に設えた台の上には白いフードを目深く被った者が立っていた。
「 ─── 魔王陛下。」声をかけたのはあの予言者マハで、マハは世界の代理でここにいた。
「・・・はい。」と言ってまた一歩進む。マハから魔王の珠を象った王笏が魔王に渡され、一度触れると後ろに控えていた侍従のカミーユ・アイヴァンに渡され、宝刀や腕輪、その他目録等をシセロ・サヴィンが受け取った。そして、最後に豪華な王冠が魔王に戴冠された。
魔王はゆっくりと王座に向かいゆっくりと階段を登った。そして、魔族達の正面に向き直った。
「魔王オルテンシア、ここに誕生したことを皆に告げる。」顔をあげ、そこ集まった魔族達を見回す。「しかし私はまだ幼いが、生まれながらの魔王であり、これからその役目を終えるまで、魔王であり続けることをここに誓おう。」
魔王オルテンシアがそう告げると大歓声に包まれた。
女王は今まで何人か誕生しているが、ここ何代かは男の王だった。そして、長い間、他種族との戦いに明け暮れていたため、このような戴冠式は本当に久しぶりである。
「こののちのお姿を是非見せてくださいませんか?」と宰相が王に尋ねる。
「・・・良いでしょう。」と魔王は答えた。
ここまではシナリオ通りである。
しかし魔族の多くは、幼くしかも身体が弱かった王、しかも女王に対して不安もあったようだ。
魔王は小さく魔法を唱えると、珠が魔王を包んだ。目まぐるしく色が代わり、光が包む。そして最後にぱあっと光り、光の中から成形の女性が光の中から浮かび上がった。
「おおっ~!!」と感嘆の声があがる。
そこには美しい女性が立っていた。
魔族最高の貴色の黒髪、そして瞳は暁色。肌は白く染みひとつなく、顔や体つきは魔族特有の妖艶さというより、天使族のような清らかさを持っており、手足は長く、腰は細かった。
魔族特有な特徴はなくとも、魔力は間違いなく魔王であり、輝く瞳は暁色 ───" 魔王オルテンシア"、"暁の魔王"と皆が親しげにそして誇らしげに呼ぶ彼女の、のちの姿だった。
─── テレシウス暦3695年魔族の国ペルラ王国に第21代魔王が誕生した。
お読みいただきありがとうございます。
できたら週末毎には更新したいと思っていますが、不定期更新です。辛抱強くお付き合い頂き有難うございます。




