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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第1章 目覚めたら、魔王でした・・・
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(38) クロスロード ~時の交差点・2~

 


 俺が冠城紫陽花(かぶらぎはるか)という看護師を知ったのはこんな感じで、まあ正常な出合いではなかった。


 俺は幽体離脱していたから、手術前は正しくは話してはいない。手術覚醒後も記憶は混濁していて、ひと月位はよく覚えていない。


 頭部に衝撃を受けるとよくあるらしく、術後は大暴れして薬で眠らせられていたり手足を拘束されていたらしいが、そうこうしているうちに髪も傷口以外は元にもどって(揃えてなかったからアシンメトリー?な髪型だったけど)とにかく風呂に入ってなくて相当自分が臭かった。


 そんな俺は髪も切り揃えてもらい、手術後ばICUに入っていたものの、数週間で脳外科病棟に移り、リハビリに勤しんでいた。幽体離脱していたことも忘れていた。


 そして、病院の廊下で見覚えのある女の人とすれ違う。


 あちらは気づかず。俺もあれっ?誰だろ程度だったけど、彼女はジャージ姿で点滴していた。


 でも、その数日後、ちょっと具合悪そうなマスク姿で、彼氏?いや家族?らしき男を見送っているところを見かけた。


 彼女は頭良さそうなイケメンと一緒にいた。


 待ち合いにあるちょっと大きな植物の影で休んでいたら、会話が聞こえてきた。・・いや、聞こえてきちゃったんだ。


「悪いな、紫陽花(はるか)。具合悪いのに見送りしてもらって。」

「あはは、大丈夫だよ。たまに病室の外でないと息詰まっちゃうし、まだ精査の結果出てないから。」

「・・・明日、出るんだな?」

「うん、そうだよ、有人(あると)。」

「じゃ、明日一緒に話を聞いてもいいのか?」

「うん、ゴメンね。うちの両親来れないって言うし、医療関係が理解できるの有人(あると)しかいないの。」

「・・っていっても、俺まだ医大生だし。医療関係というならお前が一番理解できるよな。・・お袋も来るっていうから・・16時だったな。でも、明日土曜なのに、叔父さん叔母さん忙しいっていっても娘の一大事って時に・・・」

「・・・家族も来てほしいって言われてて、私だけじゃダメだっていうから。本当にゴメンね、有人(あると)。」

「・・・紫陽花(はるか)・・」


 ・・・彼氏じゃねぇのか?

 ちょっと深刻そうだなぁと思った。


 でも、あの人どっかであったことがあったか?なかなか思い出せないでいたら、「あれ、冠城さん。こんなところでどうしたの?あ、ゴメン、彼氏のお見送り?」と白衣を着た看護師が声をかけていた。


 彼女、冠城さんっていうのか・・・医療関係って言っていたし、病院の関係者なのか待ち合いにいれば、病院にいるスタッフと挨拶や言葉を交わして、彼氏なの?と聞かれていた。


 一緒にいたイケメンは顔をひきつらせていたけど、それでも最後まで、彼女に見送られるまで側に立っていた。



 そんなこんなで暫く経っていた。



「そういえばさ~竜崎君って高校は?」

「俺、中学でて働こうと思ったんですけど、親に泣きつかれて高校は出ろって言われてこれでも都立通ってんですよ~。あーでも事故って学校行ってねぇから単位落とすかなぁ。」

「ははっ、でもまだひと月くらいじゃない。まだ高1なら大丈夫でしょ?」

「そうっすけど~、俺けっこう真面目に学校行ってたから~。でも馬鹿だから赤点ばっかだし。」


 只今、萎えてしまった足やら身体やらのリハビリ中。じーさんばーさんばっかだけど、たまーに同じように事故って整形で入院している年が近い奴もいたりする。今は近藤さんというリハビリ室の27歳の理学療法士が俺の担当で股関節を揉みほぐして動かしてくれている。



 俺はずっと抱いていた疑問をぶつけてみた。


「あのさー近さん!あの、か・冠城さんって看護師さん知ってる?」

「・・・?冠城さん?・・ああ、ICUの?」突然降って湧いた話のように振る舞ってみる。


 ・・・そう、近さんは冠城(かのじょ)さんの友人であることは調査済みでの会話なわけだ。


「具合悪いの?あのさ、入院していたみたいだしさ。」

「ああ・・、そうか!ICUで看てもらってたか?」

「あー、うん。・・・この前、玄関で見かけて。イケメン彼氏と一緒にいた。」

「有人さんが来てたのか?確かにイケメンだし、頭いいしね。」やはりあのイケメンは友達公認の彼氏だったのか。


「そういえばさ、霊が見えるらしいって聞いて。」

「そうか、冠城さんね~霊感が強くて、霊が見えるって有名だね。近寄ってくる霊を慰めたり、話せるらしいけど、何故か憑かれたりはしないらしいよ。病院ってさ、こういうところだから霊がたくさんいるらしいから。・・・俺は見えないけど、なんか霊まで看てあげてるって彼女らしいっていうかねぇ。・・俺、そういえばさ、入院する前に一緒に飲んだんだよ。」


「えー!じゃ何で入院しているの?」

 俺が聞くと近さんの目が一瞬揺らいでいるように見えた。やはり、悪い病気なのだろうか。


「・・・・・悪いな、守秘義務あるし、俺の友達のことだし、べラベラしゃべれないんだ。」

「やっぱ、そうなるよね。脳外科の看護師にも言われた。」

「倫理規程ってやつだよ。で?気になるの~?彼女、救命でも遣り手のバリバリの主任だし、まぁ、見た目も悪くないしなぁ、うん、いい人だものね。」患者さんにも人気で、ドクターからのお誘いも多いらしいよ~だの、あのイケメンが側にいるからなぁなどと言っている。


「・・・俺さ、ちょっと死にかけてたからさ。手術前、自分を見下ろしてたわけ。」

「えっ?マジ?幽体離脱?覚えてるの?」


「・・うん、なんとなく。でも、冠城さんと話したのは覚えている。でも、術後のことは覚えていないんだ。」


 近さんは今度は足を少し広げて、股関節を動かし始めた。これがまた地味に痛い。

「でもさ紫陽花(はるか)ちゃん若く見えるけど大分年上だよ?竜崎君って年上が好みなの?」

「ん?ち、違うよっ!・・ってか年が上すぎるし。」



 そうか。でもあの目の揺らぎ、一拍の間は、病状があまり思わしくないのだろうか。


 あの時は笑って誤魔化していたけど、何だか気になった・・・そんな程度だと思っていた。





 普通でない出会いから約3ヶ月後、俺はやっと退院までこぎ着けた。


 そろそろ季節は夏だ。日本の夏はとても暑い。


「どうもありがとう。近さん。俺、理学療法士目指してみよーかな?」

「おっ、じゃあオレの後輩になって?是非ここ病院で一緒に働こうよ!」


 俺たちはリハからの帰り道、近さんに誘われてちょっと遠回りして院庭を歩いていた。




 紫陽花が咲き始めて、季節は梅雨だ。

 今日も小雨が降っていた。でも傘をさすほどの雨でもない。




 突然、ビューッと風が強く吹きぬけていった。


 あれ?先程まで風は強くなかったのに。


 でも風のせいなのか、近さんは俺のとなりで、立ち止まった。


 病室までついてこないのかな、と思って振り返ると、近さんの表情が暗かった。涙を、泣くのを我慢しているような表情をしていた。


「・・あのさ、君だから言うけど。冠城さんね、昨日亡くなっちゃったんだ。」


「・・・・えっ・・!?」俺は突然のことで、そのあと声が出せなかった。


紫陽花(はるか)ちゃん暫く状態悪くてね。・・・今日、これから告別式。」


 そう言えば近さん、さっきからずっと目が赤かった。


「・・っ、友達だったからな。まだ若いのに。仲間だったから、辛い。」



 死んだ・・・?嘘だろ?



有人(あると)さんも珍しく泣いていたよ。・・・ああ、イケメンの従兄ね。」


 ははは、従兄だったのか。





 院庭で俺らは暫く会話もせずたたずんでいた。


 雨が、紫陽花にしとしとと降り注ぐ。



 俺は赤や紫、青色だったりする紫陽花の花をただ、ただ呆然と見ていた。





 その後、俺はどうやって病室に戻ったか覚えていない。


 そういえば、あの風は彼女だったのだろうか。


 言葉さえまともに交わしたこともなかった。


 あっという間に、それこそ先ほどの風のように彼女は先に逝ってしまった。



 後に紫陽花の花の色は咲いている土のpHで色が違うということを知った。






 なんの因果か、俺は生まれ変わり、彼女もまた生まれ変わって、再び会えた。



 次の人生。この世界での寿命は長い。



 あの暁の瞳を見て、前世を思い出した後・・・再び出会えたことを、今度こそ普通に会話を交わし、共にすごせるのではないか、と俺は密かに喜んでいた。


 種族が違う?確かにこの世界の種族の違い、竜族(ドラゴン)と魔族の壁は高い。


 でも、そんなことは気にしない。


 もう、あの時のような後悔はしたくない。


 ─── そう、もう俺らは出会ってしまったから。









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