(36) 魔王としての戦い ─── 卵が飛竜になりました
私を止めようとしたカミーユさんを、シセロさんが止めた。
「おっ、ヤル気かチビ助!?」ドラゴン王子の瞳がニヤリと好戦的に輝く。
竜族はこの世界で、1、2位を争うほどの好戦的な種族だという。
「オルテンシア様・・・」カミーユさんは眉を寄せて心配そうに私を見ていた。
はっきり言って私の魔力の強さに比べて、それを上手く使いこなせるようになっているとは言いがたい。制御できないので、暴走してドラゴン王子や周りに危害が及ぶ可能性が十分あり、そしてこの王子に何かあれば私もこのペルラ王国も無事ではいられないだろう。
それは、世界の均衡を崩す行為だからだ。
このドラゴン王子もわかっていて、私に喧嘩を吹っ掛けてきたのだろう。
私はゆっくり、ゆっくりと深呼吸して、気を静めた。
私は自分の魔力をまだ上手く使いこなせてはいないのは、自分でもよくわかっている。
例え、馬鹿にされようとも、卑下されようとも、このドラゴン王子の思惑通りに動くつもりもない。魔族の誇りなどまだ私には持てるものでもない。
でも、私の魔力でここら一体の磁場を乱してしまっていた。
カミーユさんが制御してくれているのもわかります。
磁場は静電気のような、いやそれよりもビリビリとした電気を帯びていた。
その力が何故だか、地面に転がっていた卵に集まっていた。
「・・・・・?」
皆も、そしてドラゴン王子も卵に何事かと意識を向けていた。
リィーーンと鳴っていたあの鈴の音ような音は、もう聞こえていなかった。代わりに卵が細かく震えている。ブブブブとまるでバイブレーターのように震えている。
ドラゴン王子を見ると怪訝そうに眉間に皺を寄せている。
飛竜は竜族だけが使役できるという。魔獸のなかでも、特別制御が難しい魔獸で、竜族は移動する時に使うと聞いています。
その、竜族が怪訝そうに見ているということは、意外なことが起きているということなのでしょうか?
卵は細かく震えて、やがてピシッと亀裂が入った。
う、産まれるの?
卵のなかから突いているのか、嘴らしきものが見えた。
「あの、あれは飛竜なの?」傍らにいるカミーユさんに尋ねるが、困惑した瞳を私に向ける。
ドラゴン王子は卵に近づいて、様子を見ていた。
産まれる瞬間が見られるの?まさか飛竜が産まれる瞬間に立ち会えるなんて!
「オルテンシア様、危ないのでこちらに。」とカミーユさんが飛竜を見ようと飛び出そうとした私の腕を掴まえた。
「えー、近くで見たい!」私はどうしても間近で見たかった。卵が雛に還る瞬間には、前世でも立ち会ったことはなかったので見てみたかった。
「飛竜は本来はとても狂暴な魔獸です。魔族に対して服従する者はないのです。同系統である竜族には馴染むのですか、残念ながら我らには無理です。」
「じゃ、何故ドラゴン王子は私に賄賂として持ってきたの?」
「嫌味に決まっているだろうが。」とシセロさんがドスを効かせた低音で唸るように言うと私の前に膝を付いて、頭を垂れる。「暁の王よ、どうかこの王子を排除する許可を下されるよう。」頭を垂れても私はまだチビなので膝をついているシセロさんの頭より私の方が小さいので、やはりやや見上げる位置にシセロさんの怒りをはらんだオッドアイがギラギラ光っていた。
そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけ、庭には多くの魔族や、近衛隊が集まって来ていた。
「オルテンシア!」「暁の王!」
何があった?とお兄様やお父様、宰相さんやパリス君、リシェーナさんも駆けつけてきた。
私は、大体名前で呼ばれず敬称で「暁の王」と呼ばれている。
「これは?竜族の王子が何故ここに?」さすがに皆、殺気を纏って警戒する。でも、均衡を無理に崩す行為は直ぐにはしない。
何故、警護の網目を掻い潜ってこの魔王城の庭にいるのかはさておき、統制がとれている。
今や、周りは敵ばかりですよ、ドラコン王子。
流石のドラコン王子もチッと舌打ちをした。
どうも一人で乗り込んできたらしい。近々到着する予定であったらしく、王子と同行者達はもうすぐ着く、と先触れがあったと宰相さんが言った。
天界以外は私達魔族と同じ地上に、海や険しい山を隔ててそれぞれの種族が国を治め、別れて住んでいる。
地球に似た世界球が、この世界の理を
形作っている世界であります。
前世を思い出すまで、部屋の中だけが私の世界だった。まだ生まれ変わってからここでは7年と少ししか暮らしていないけど、本当に驚きの連続です。
「ピュイ!」
そして、卵はいよいよ殻を打ち破られて 何か ── 飛竜が出てきた。
「ピュイィー!」と鳴いている。
「な、何だこれ?」パリス君もびっくり。「飛竜が何故ここに‼」
「ドラゴン王子のお土産らしいのよ。」
魔族達は魔獸である飛竜に警戒心も露で私を守るべく戦闘体制に入る。
「ピュイィーィー!」飛竜はますます激しく鳴く。大きさは小型犬程度の大きさです。
でも、生まれたばかりで攻撃してくる様子はない。ピュイ?って首を傾げている。
か、可愛い。
碧石のような瞳、瑠璃色に輝く鱗、嘴は私と同じ暁の紫かかった茜色だった。
私はカミーユさんに抱えられ、皆の後ろにいたけど、立ちはだかる皆さんの隙間からその飛竜を見ていた。
飛竜は何かを探している。親を探しているのかな?竜だから、今まで親竜が卵を暖めていたはずだし、何か心細そうに周りをキョロキョロ見渡している。
ドラゴン王子が触ろうと手を伸ばしていた。飛竜はドラゴン王子を見つめ、ピュイ?と悲しげに鳴いている。そして違うとでも言いたげに首を振ってブルブルとした。
そのしぐさは、犬や猫といった動物と一緒だ。
「・・・可愛い。」とわたしと私が呟くと急に飛竜はピュイ!と鳴いてピクッとして私の方を見た。
確かに私と目があった。
飛竜は私を見つけたっ!と言うようにピュイと嬉しそう(確かにそういう風に鳴いた!)に鳴くとパタパタと羽を羽ばたかせた。
飛竜は小鳥さながらに、ピュイィーピュイーと鳴いて私に向かって飛んでこようとした。
「危ないので、オルテンシア様はこちらに。」とカミーユさんや防御に長けたリシェーナさんが私を守るため、飛竜に攻撃を与えようとしていた。
でも、この飛竜は明らかに私を見て嬉しそうだったよ?
「「待て(待って)!」」とドラゴン王子と私の声が多少被る。
急いで私はカミーユさんの腕の中から降りた。飛竜はピュイィィ!と嬉しそうに私を見て鳴いて、とことこと歩いて寄ってきた。
「・・・オルテンシア様を主人と定めたようですね。」「そのようだ、な。」
飛竜は私に近づいて、しきりに匂いを嗅いでいる。なんだかくすぐったい。
そしてクワッと口を開けたのでちょっとびっくりしたけど、ピュイ!と鳴いて頬に額を擦り付けられた。
飛竜はオルテンシアをご主人(親)認定したようです。飛竜に乗って空を飛ぶ魔王、これからオルテンシアの行動範囲が広がるはずです。・・・多分。




