(34) 魔王としての戦い ──── 卵を拾いました・1
お久しぶりです。また、読んで頂けたら幸いです。
私が前世を思い出して、魔王だと言われたあの日から、飛ぶように毎日が過ぎて行くように感じる。
魔王城に来て約1年。色々ありましたけど、魔王の珠を伝達後の体調不良からは少しずつ弱い身体も改善され始め、寝込むことも殆ど無くなりました。
魔王の珠は私に殆どなかった魔力を与え、魔界の樟気に耐性を付けるための体力を維持できる力を与えてくれます。
私の魔力はほぼ無限とのことで、逆に有り余る魔力が、他の魔族に影響を与えないように制御する必要があるそうです。
しかし制御は自力ではこれまたほぼ無理(泣)とのことなので、制御に長けたカミーユさんが常に側にいて、私の侍従として付いて制御してくれています。
私は極力自分で制御出来るようカミーユさんの元、訓練をしてきました。制御はなんとか感情の揺らぎを押さえればできるのだと魔力を初めて持った私はなんとなくわかってきました。
しかし、元から魔力を持っている方々にはこの感覚が伝わらない。元は平凡ないち市民だった私には、こんな大それた魔力はっきり言って猫に小判、豚に真珠ってもんです。
感情を抑える方法は側にいい(?)お手本無表情カミーユさんがいますが、直ぐに顔に感情が出てしまう私では、いつもばれてしまう。
そこで前世は元日本人の私には笑って誤魔化せ、茶は笑顔で濁す必殺技があったので、カミーユさんとは逆に笑顔を張り付けて、感情を抑えることにしている。
・・・逆に微笑みすぎて、目尻のシワ早くから出てしまうのではないかと、まだ幼い私の目下の悩み事ではある。
「あー、疲れる・・・。」あーあ、憂鬱だぁ~と、謁見室の魔王の台座の上で項垂れる。
ここ連日魔王即位の式典のためのリハーサル中で、何故かあまり交流のなかった竜族や人族、小人族やもちろんアルト達、天使族も列席するとのことで、やたら盛大になりそうな式典にとても憂鬱なのです。
今では魔法の訓練、そして魔力の制御はもちろんのこと、防御の為の身体の鍛練も始まっており、一通りの剣術、弓、柔術そして騎乗術(とはいっても普通の馬は魔族に怯えるので乗るのは魔獸である)など一通りの訓練をも始まっていました。魔族の騎獸は基本的には、空は怪鳥族のバルーサといわれる大型の鳥で、地を行くならウルトという馬型の魔獸で移動する。ウルトは普段はとても獰猛だけど、高位の貴族は魔法を操り、魔獸を遣う。
怪鳥さん達は私に乗れ乗れと煩いのですが、魔力を制御しきれない私では怪鳥さんが変に興奮してしまい、危ない(いわゆる貞操の危機?求愛行動される)目にあい、誰かと一緒でないと乗れなくなりました。ちなみにウルトはまだ私には制御出来ません。
「ちょ、ちょっとお手洗い・・・へ。」
魔王の私はお手洗いに行くのも、ひと苦労だ。いちいち告げねばならず、自室のトイレに行くのさえ王宮で護衛つきで移動しなければならない。
しかし、おトイレタイムは唯一ひとりになれる私のオアシスなのだ。
でも、この無駄に広いトイレ。狭い個室に慣れ親しんだこの身には無駄なスペースとしか思えないのだけれども、お便器がぽつねんとある姿には何故か哀愁が漂ってならない。
プライバシー考えないのかしら?と思うくらいトイレなのに窓がとてもでかい。覗かれそうで気が気でないけど、魔力を使えばどこで何しているなんてバレバレなのでした。
そして、お務めが終わっても、なんだか謁見室に戻りたくない私は、足がつかない便器の上で、何気なく外を見ていた。
リィーン、リ-イーン・・・
・・・何の音だろう?
リーーィーーン。
何かが呼ぶ声?高い鈴の音のような音が響いている。
トイレからでると、部屋には誰もいないようだ。
私は外から聞こえる音をもっとよく聞こうと、私の部屋のバルコニーに出てみた。
今は午後、初夏なのだけれど、魔界の太陽はいつも雲に覆われている。空気はやや湿り気があり、雨が降りそうであっても、雲が黒い雨雲ではないので当分は降りそうもない。庭には私の名前の由来となった紫陽花の花が咲いていて、ここから見ても花や葉が露に濡れてい匂いを放っていた。
しかし魔界の紫陽花は、魔力を持つ魔草で、強い幻覚作用があるらしい。魔法をつかう際に用いるのですとカミーユさんから聞きました。
その草影からまたリイーーンと音が聞こえた。
リイーーン・・・やはり庭から聞こえるようです。鳥の鳴き声ではない。懐かしい鈴虫のような虫がなく声のような音です。
ここは2階だったけど、魔力を使ってふわっと地面に降りてみた。私だってそれくらいの魔力の制御は出来るようになったのですよ。
ふふふん、でも側に誰も居ない時に使ったことはなかったですが、ちゃんと使えるかとちょっとドキドキしてしまった。
私もやればできる子だな♪
魔界といえども、楽園に見立てた素晴らしい庭園が魔王城にもあります。しかし美しいものは毒がある。この魔界の樟気に耐えられるのだから、ただ者ではない植物達です。
ゆっくり音が聞こえる方に近づいてみる。いつもは誰かが側に付いてこの庭を散歩しているお馴染みの場所だ。この湿気は樟気で、ここの植物はこの樟気を糧にしている。
木が、草が、花達が意思を持って私の進む道を開けるようにザワザワと動いた。
リーーイーーーーン
近づくとますます音は大きくなる。
「・・・・・。」・・・卵?
予想したように紫陽花の奥、芝生の中にラグビーボールよりやや大きな、瑠璃色に輝く"卵"?が落ちていた。
リーーイーーーーン
近寄るとより更に大きな音を卵から聞こえます。
魔獸は卵から孵化する種もあるとききます。魔獸の卵なのですかね?
下手にさわらない方がいいのかな?
卵は瑠璃色にキラキラと光っていて、とても綺麗だった。
何故か好奇心が勝り、手を伸ばそうとしたとき、フッと私の視界に影が射した。
誰だろうと見上げると、知らない男の人が立って私を見下ろしていました。
私と目が合うと、ハッと驚いたように瞠目していた。
「・・・お前の、その瞳・・・魔王・・だな?」
そう言った男の人の耳の形がとても特徴的だった。水掻き?のような耳、長い手足。緑がかった長い銀髪と深い色をした碧眼は爬虫類のようなややつり目だったので、きつい印象をうける。
─── この人、竜族だ!
初めてみる竜族は、文字通り穴が開くほどジロジロと遠慮なく私のことを見ていました。でも、殺気は感じなかったので、思いきって聞いてみることにしました。
「あのぅ・・・この卵は貴方のものですか?」
「・・・はぁ!?」竜族は呆れたような、馬鹿にしたような顔をして、ちょっときつい目付きの顔が崩れた。
私はその顔に何故だか、安心して自然にニコッと笑い返していた。
竜族は更に戸惑ったような顔をしていたけど、その時・・・
「オルテンシア様!その者から離れてくださいっ!」
「えっ?」後方から焦ったようなカミーユさんの声が聞こえ、私は急いで振り向いた。
凄い勢いでカミーユさんと護衛のシセロ・サヴィンが駆けてくる。その二人から焦りや恐怖などの感情が流れ込んでくる。
見えない網のようなもので、私はシセロさんの手元にあっという間に捕らわれていた。
「ちょっと-!シセロ。苦しい。」顔に網が絡まって鼻が潰れていて苦しい。直ぐに魔力の網は外されたが、「・・・・少しは違う言葉はでないのですか?」シセロさんのオッドアイの瞳に少しの焦りが見てとれた。しかし呆れたように天を仰ぎ、再び目が合った時は何時ものオッドアイが冷たい光を帯び厳しい表情になって竜族を見ていた。
この1年間で護衛のシセロさんとは、怖いと思わずに言葉を交わすことが出来るようになりました。始めは無愛想でこのオッドアイで睨まれていると思っていたのですが、ただ幼い女の子の護衛に戸惑っているらしいとシセロさんの双子の兄キアランさんが可笑しそうに語って、隣で聞いていたシセロさんの困ったような顔が可笑しくて私が笑うと、シセロさんは目に見えて狼狽えて、それを皆で笑いあった日から、シセロさんは今や心配性のお兄さんに変わっていた。
「貴方は・・・!?」
「あら、知っているの?カミーユ。」この緊張した場面に我ながらのほほんとした声が出てしまった。
・・・おっと、シセロさんの視線が痛い。
「・・・・竜族の・・王子が何故ここに?」竜族と私の間に立ったカミーユさんが魔力を高めながら、警戒心も露に言う。
ええっー、このひと竜族の王子なんだ。
「・・・・そういうこの魔王城の警備の薄さには呆れるな。これまで無防備とは思わなかったぞ。」この竜族は盛大な溜め息を吐いていた。
カミーユさんとシセロさんはピクッともしないで竜族の王子の言葉を聞いていた。
「しかし、こののほほん魔王の魔力はとても強いようだが、本当にまだ赤子のように幼いな。おいチビ助。」
・・・この竜族王子、私のことをチビ助と言ったぞ!
「俺は竜族、エリュシオン・カレル・ドラクスラー、竜族の王太子だ。」




