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オルテンシアの瞳  作者: 香葉
第1章 目覚めたら、魔王でした・・・
33/74

(33) 居場所 ━━━ by オルテンシア &カミーユ

 


  午後は眠くなるので、午前中に講義を受けることになりました。因みに魔族は基本的に朝が弱い。


 私は午後から眠くなる、夜もよく眠れると他の魔族達とは真逆なサイクルで一日を過ごしています。夜行性の獣人さん達は朝が弱いので必然的に兎の獣人さん達がお世話係となっている(よく気がつく優しくて穏やかというのもあります!魔王付きでも私は子供ですからね)。


 そしてカミーユさんはあまり寝なくても大丈夫らしいので、朝からピシッと固まる程の無表情で私の部屋に訪れる。私には魔眼の影響がないのですが、私の侍女さん達に影響を与えてしまうので、侍女さん達が下がるまで無表情を貫いている。


 しかし・・・朝から重苦しい。魔界には冬か夏しかない。日本のような四季はなかったが、初夏、初冬等の季節が変わるような節目の時がわずかにある。今は盛夏といわれる頃だ。そして、カミーユさんに暑苦しさは全くない。この冴え渡る美貌といえば聞こえはいいが、冷たく見える切れ長の紫の瞳、真っ直ぐ通った鼻筋、輝かしい白金髪(プラチナブロンド)はお父様やお兄様の銀髪とは一味ちがう輝きを放ち、絶妙に配置されたシンメトリーなお顔は魔界随一の美貌を持つ。魔眼を気にしていた頃は半分近く顔を覆ってやや陰気な雰囲気だったけど、ここ最近はスッキリと後ろにひとつにまとめられるようになっていた。青白い肌、それに愛想のない薄い口元のくせに無駄に赤い。


 暑いのに汗ひとつかかずに、いつも服は着崩されることもなく、長袖シャツに黒い詰め襟のジャケットを着ている。私はというと、暑くてすでにキャミソールタイプのワンピース姿なのにだ。



「あのぅ、カミーユさん。」と話しかける。今日の予定は、ペルラ王国の歴史と周りの国々との関係とお堅い授業がここ連日続いている。だから眠くなってしまうのです。


するとカミーユさんから深ーい溜め息が吐かれた。

「何度も申し上げているはずですが、私は魔王の臣下ですさんなどと敬称を付ける必要はありません。」

「す、すいません。ついっ!」つい謝罪の言葉を吐いてしまい、しまった!さらに怒られるとビクリとしてしまった。するとカミーユさんは苦笑しているのか、呆れているのか、でも悲しそうにしていた。


「・・ですから、臣下に謝る必要もありません。」・・・重い。すいません、何度も。


 これは、全く前世からの癖みたいなもの。日本人はつい、ごめんなさい、すいません、と口癖のように言ってしまう。ちょっとみたいなときもすいませんと声を掛けてしまう。


 この部屋には今、私とカミーユさんしかいない。


 この前の天使達が訪れたとき、私がカミーユさんをさん付けで呼んでいたのを、五大爵から指摘され、他の種族を前に侮られるとそれを咎めないカミーユさんの教育係としての資質を疑うと揚げ足を取るような申し立てがあった。申し立てたのは事もあろうかアイヴァン家からで、相応しくないので、専属侍従を解任するように言ってきた。


「・・・また、気にしていますね?我が家のことはお気になさらず。父と母が言いがかりを付け、勝手にわめいてるだけです。逆にオルテンシア様を煩わせてしまい申し訳ありません。貴方が相手にする必要のない事です。」

「でも、私のせいなのに。」

「・・相手はつまらないことに揚げ足を取ってきます。まだ幼い貴方に隙を見せるなとはいいません。そして貴方を守るのは我々の役目です。」


 カミーユさんは今までの経緯を私には詳しくは言わない。でも親に裏切られ絶望し、前魔王に自尊心をとても傷つけられてきたことは、この無表情からも容易に想像できる。


 魔眼を私にうっかり向けてしまった時の、あのカミーユさんの絶望を浮かべたあの瞳を私は忘れられない。


 カミーユさんに決して私は裏切ることはないと言いたい。でも、私はまだ幼くてそして無知な愚か者であり、毎日魔王としての資質を私が一番に疑い、皆の期待を裏切っているのではないかと、ビクビクしている小心者だ。

 何度も何度も注意されているのに直ぐに間違いを犯す。


 魔眼を向けても変わらない私を見た時のあの呆然とした表情はちょっと可笑しかったけど、その後見せた心からの安堵の表情は忘れられない。


「・・貴方の伸びやかな優しい心を潰すのは私の本意ではありません。周りの言うことに耳を貸すなとは言いませんが、最低限のことを守ればいいのです。」

「・・・わかりました、えっと、カミーユ。」ついさん付けで言ってしまったら、いけないけど他の魔族のいるところで気を付ければいいとカミーユさんが柔らかな笑顔で言う。


 カミーユさんとさん付けなのは心のなかで言うことにする。



 この笑顔は私にしか向けられないのだから。だから、カミーユさんの居場所を守りたいと思う。





***********************





 オルテンシア様はまだ幼い。しかし6歳にも関わらず、この優しい、恐らく魔王らしくない言動が、回りに波紋を巻き起こす。特に魔族のなかでも大きな権力を持つ五大爵は自尊心が総じて高く、格式に煩い。例に漏れず私の両親も惰性に享楽的に日々生きているはずなのに、小賢しく他人の弱点をついてくる。


 そうして相手の弱点を付き、脅したりいいように利用する最低な奴等だ。臣下をさん付けで呼ばせているなどと騒ぐ方が恥ずかしいことなのだと、私の生みの親は気付かない。



 だから私はこの優しい心を持つオルテンシア様を守りたい。



 私の居場所はもうここにしかないのではないかと思うほどだ。


 だがいちど闇に堕ちた私がこの優しいオルテンシア様の側に居続ける事は許されることなのか。


 私はいつも問い続ける。


 この優しい空間に甘えすぎているのではないか、本当にオルテンシア様の側にいる立場にいることが相応しいのかと、繰り返し戒める事が出来る自分でありたいと思う。


 それが私がオルテンシア様の側に居続けられる意義なのだ。



「さて、早速計画を練らないといけませんね。」と私がいうとオルテンシア様はフワッと花が綻ぶように笑い、あの暁の瞳を輝かせる。




 かつては憎んだあの暁色の瞳。だが、今はもう私の中に暖かく息づいているのだ。

















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