(26)転生というものがあるのなら・2 ───by アルトシオン
久し振りに投稿します。今夜から雪らしいので、明日の朝が心配です(T-T)
魔王が目覚めたと聞いたので、足早に魔王の部屋を訪ねると、暫く寝込んでいたので、身綺麗にしてからとのことだった。
俺としては気にしないのだが、魔王の侍女は頑なに拒否した ─── とにかく、早く彼女に会って確かめたい。
「ちょっと、アルトシオン。幾らなんでも、今朝目覚めたばかりで、押し掛け同然の訪問は嫌われますよ。ましては相手は魔王、魔族も貴方に助けを求めたとはいえ、先方に失礼ですよ。幼いとはいえ、女の子なのですから。」
「・・・そうなのか?」だって紫陽花だし。
「・・・貴方って、前世でもそんな性格だったのですか?・・モテなかったでしょうねぇ。」とセリムに溜息を吐かれ、呆れたように見られた。
・・・仕方がない、待つしかなさそうだ。
魔王の侍従のひとりがが大変お待たせしましたと我々を呼びに来た。
そして、魔王の私室へ赴くと、魔王自らが出迎えてくれる。立っていたのは、まだまだ幼い少女だった。
このちっこいのが、魔王であることはわかっていた。・・診察したのだから。こうして立って話す彼女を見るのは初めてだった。
「この度は大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。私は魔王オルテンシア、オルテンシア・ペルラと申します。」と言って、流石元々は侯爵家出身の姫らしく膝を折り、胸に手をあてて淑女の挨拶をした。但し、頭は下げない。
幼くとも、魔王ということか。
本当にちっこい。幼い頃の紫陽花の面影は全くない。黒髪は同じたが、瞳の色は全く違う。これが魔王特有の暁の瞳というわけか、などと思っていたら俺より先に、ササッとセリムディアスが挨拶を返していた。
「これはこれは、可愛らしい魔王様だ。ご丁寧にどうも。私は天界で智天使を賜っておりますセリムディアスと申します。こちらは熾天使のアルトシオンです。以後お見知りおきを。」と言って手を取って、手の甲にキスなんぞしていやがる。
「あ、あの~~?」と魔王が戸惑っているのが、流石の俺でもわかる。前世は日本人だものな。手にキスという習慣はない。
・・まして、現世でもないぞ。
「「おいっ!」」いい加減にしろっ!と言ったら、魔族と見事にハモった。もうひとりの魔族が、引ったくるように引っ張っている。
「ああ、すいません、余りにも可愛くてつい。」セリムは悪びれた様子など皆無だ。「セリムディアス、お前な。いい加減にしろっ!」
「え~だって、アルトシオン。彼女でしょ?君の紫陽花ちゃん。」
その台詞で魔族たちにビシッというひきつれた音が鳴ったかのような緊張が走った。
セリムは俺が前世の記憶持ちの転生者であることを知っている。
その事について、セリムが天界で研究しているのだ。そういうセリムも前世の記憶持ちだった。前世は日本人ではなかったらしいが、地球上のとある国のお偉い騎士のひとりだったらしい。歴史は全く興味がなかったのでどこの国のどの時代だかは忘れたが
─── 俺や紫陽花が生きていた時代より、かなり前で有ることは確かのようだが。
チャラい態度も、前世の騎士だった名残というのだろうが、こいつは女子と見れば口説きにかかる。だが相手は魔王、・・まだ幼女だ。
俺は小さな魔王の視線に合わせられるように膝つきになった。
「紫陽花、会いたかった!」
「・・・貴方も大概にしていきなりそれですか?」・・セリムにだけは言われたくはなかったが、確かに今のは恥ずかしい。
それでも、手を伸ばして紫陽花に触れたかったが、魔族たちに目線だけで阻まれた。・・・心なしか寒い。
紫陽花であるはずの魔王はキョトンとして目を丸くしている。「あのう、どこかでお会いしましたっけ?」と言い、「カミーユさん・・」と言って、側にいる兄や魔眼持ちの侍従に目を向けている。
かなりの確率で、魔王の前世は紫陽花であるはずと思っていたのだが、違うのだろうか?
「俺だ、俺。有斗だ。柏木有斗。紫陽花!俺のことなど忘れたか?」─── 焦って声がうわずった。
魔王は、眉間に皺を寄せて、俺を凝視している。・・思い出せないのか?人違いだったか?
「はあぁぁ~~!?有斗ぉ~!?嘘でしょ!貴方なぜここにいるのよっ!?」
やっと、気付いてくれたようだ、とほっとする。
「お前だって!なんだって魔王になんか生まれ変わっているんだ?何、幼女って。何、そのロリータ衣装。コスプレ?」俺は調子づいて言った。
紫陽花も前世と同じように軽口で答えてくれた。
「いいでしょ、まだ6歳なんだからっ。服はお母様の趣味。って貴方こそ、天使!?天使!?まじで~!?」
笑える~~!とヒーヒー笑っていた。俺もつられて笑っていた。しかし、あっと叫ぶと同時に腰が引っ張られてあの魔眼持ちの侍従に抱きこまれてた。
─── 魔族達の壮絶な笑顔を目のあたりにした。
「オルテンシア様、どういうことか説明していただけますね?」壮絶といってよいこの美貌。天界でもここまでの者は今のところいない。
魔王はこっくんこっくんと頷くことしか出来なかったようだ。
──── 魔眼の迫力に、我々天使は硬直した。
「天界の熾天使とどういったわけで、知り合いなのですか?」
お前、メデューサかよ。硬直して動けねぇ。─── くそっ、これが魔眼か。
「そうだ、俺も聞きたいぞ。」魔族たちは俺たちが硬直しているのを知っていて素知らぬ顔だ。
「── おい、そこの吸血鬼紫陽花を放せよ。」(ついでに俺たちも解放しろ!)と俺は何とか声を絞り出した。
しかし、魔王がちらりと、俺に視線を送っただけで、硬直は解除された。
セリムも目を瞠っていたが、どうも魔王は無意識に解除したようだ。
魔王の兄、オーブリー・ナバレも気が付いて、目を細めて我々を見ている。
魔眼の侍従は魔王を離そうとはせずに抱き込んでいる。魔王は俺をチラリと見て頷いてみせた。
「・・・えっと、あの~、私は実は・・・前世は人間だったと思い出したのはついこの間でして、お父様に魔王であると言われた直前に思い出したのです。思い出してみれば、なかなかこちらの言葉が理解できず、日本語で考えてばかりでした。こちらで生まれた筈なのに。・・・で、考えたのですが、もしかして魔王として生まれたオルテンシアに日本人の私の魂が乗り移ったのかとも考えました。熱でうなされているばかりであまりよくそのころの記憶が朧気なのです。」
「 ─── その事については私が答えよう。」いつの間にか、不老不死者が部屋にいた。
また、厄介な奴が増えた。
「お父様・・・」
「・・ナバレ侯爵。」と呟く侍従に向か困ったねぇ、と言い、「その前に、カミーユ。オルテンシアを放しなさい。まだあげないと言っただろう?」と言って魔王を今度は父親が抱き込んだ。
「・・・・・。」またかよ、おい。
魔王も随分と厄介なヤンデレ達に囲まれているな・・・気の毒としか言いようがない。
「オルテンシアは確かにカリアと私の娘だ。しかし、魔王の証しである暁の瞳を持っていても魂が弱く、儚くて消えてしまいそうだった。そこで、私は世界に願った。オルテンシアを助けたいと、ぜひとも魔王として育て、この世界の望む均衡をとるためには、また魔王を失うわけにはいかないと、なんとか生かしてくれるよう願った。・・・世界はある提案をしてきた。異世界に同じように儚い生きかたをした魂がある。その魂と掛け合わせるなら生きられる、魔王としての役割も果たせる、と。」
「・・そう簡単に世界が動くわけではないはず。だが、その魂が紫陽花だったのか?」世界が動いた、など聞いたことかない。
「それもそうだ、親父。何を約束・・したんだ?」
「 ─── 私の命。」
「「えっ!」」「嘘でしょう、お父様!!」
「 ─── という提案もあった。」
「何だよ、脅かすなよ!」
「驚かせないでください。」と魔王も泣き顔になっている。
「やぁ、すまんすまん。しかし、その代わりの条件が、異種間の婚姻だ。」
「「はあぁぁ?!?」」
「まさか、オルテンシア様ととこの熾天使の婚姻の話、まじだったのですか?」
皆が俺を見る。俺も初耳だぞ。でも ────
「いや、例えで出ただけだよ。でも、オルテンシア?私は君には自由に生きて欲しい。ただ、魔王であることを放棄しなければ、誰と婚姻を結んでもいい。異種間の婚姻は別に難しいことではない。しかし、例えば魔族と人や獣人では、かなりの寿命の差があるのでお奨めしないがね。君に選ぶ権利があるので、無理には婚約、婚姻はしなくてよろしい。とはいっても私が簡単に許さないからね。」これこそ、悪魔の微笑みを私の方に向けた。
「さて、君。熾天使君。君は医聖だったね。わざわざ天界からありがとう。流石、医聖だけある。オルテンシアがここまで早く快復できたことは今までになかったからね。」
今までの緊張した雰囲気はなく、とても砕けた態度だった。
「いえ、この度は前の戦いの負の遺産を軽くして貰えるいい機会でした。天界の医聖としても、流石に500年もの子孫誕生が封じられるのは困るのでね。」
「ついでに貴方に借りも返せたので、よかったですよ。いつまでもズルズルと引きずるのはこちらとしては、何とも落ち着きませんからねぇ。」とセリムは紅茶と昨日も出されたマカロンをつまんでいった。・・・緊張感など皆無な野郎だ。
「・・・セリムディアス、お前に言われたくないが?」こちらの目は笑っていない。
「不老不死者が何を言うのです。」とセリムはやたらにこにこと穏やかさを崩さない。
「お父様とセリム様はお知り合いだったのですか?」
「・・古い、ね。私は元は天界の者だったからね。」
「「えー!?」」
「えー?だってね。カリアと出会ってしまったから、仕方ないだろう?私は魔界に来て当時の魔王に仕えて、やっと婚姻はを認めて貰ったのだ。」ふふんとやけに得意気な魔界の影の覇者が言う。
「天界の最高位天使の位をあっさり棄てて、魔界で堕天したのですよ、この人は。」セリムは呆れたように横目で元同族を見ている。今まで多くの天使が堕天している。そのほとんどが魔界で暮らしている。
・・・先の戦いで魔に堕ちた者もいた。
「なぜか不老不死者になってしまってねぇ。」でも、いいんだ。カリアとオルテンシアがいるからね、と言う。
殺伐とした戦いのなかで、セリムが魔界で怪我をして囚われてしまったことは聞いたことがある。
・・・美しい狼族に失恋したこともな。
「すでに彼女は人妻で、私の恋もあっけなく終わりました。」・・・懐かしむような顔していやがる。
「こいつはね。惚れっぽいのだ。」
「お前・・・。」セリムお前全く変わってないな!
「で、人質解放の話し合いで、この人が駄々こねて、代わりに魔界に残ると言い出したのです。」どうしてそうなる?
「・・・・。」段々聴いていて、腹が立ってきたぞ。
「・・・私はカリアに出会った。いわゆる一目惚れだな。」・・・・・・・なぜかほのぼのムードのはずなのだが、周囲は寒い。天使は寒さに弱いのだ。
「そして堕天して、今に至っているというわけだな。」流石の息子も「もう、いい親父。・・勘弁してくれ!」と言っていた。
「正に異種間の婚姻で均衡を図った例です。そして暫くはそれで均衡が図られ、平和になりました。その時の借りと言うのはこの人が魔界に堕天したからです・・しかし、時折その均衡を乱すものが、生まれます。」
皆、何となく魔眼の侍従を見た。
当の本人は先程までの面影の欠片もなくピリピリとした緊張感を漂わせていた。
「・・カミーユさん。」と言って、魔王が、魔眼の侍従を心配そうに見つめていた。
「ねぇ、お父様の借りは返したのでしょう?異種間の婚姻だって無理にとはいわないのでしょう?まだ私は魔王になったばかりで、頼りないのは解ります。私、頑張りますから、暫くはこのままでカミーユさんにそばにいて欲しいです。」
「・・とオルテンシアは言っているが?カミーユ。」
「・・・はい、全力でお側でお仕えさせて頂きます。」何か腑に落ちない。
「異議あり!!」
勝手に話をまとめるな ──── 俺はまだ、告白もしていない。




