(14)魔王の珠(オーブ)伝達式・3
なんかとても気の毒なカミーユさん。
私は首を振りつつ、ふと横を見るとお兄様が衝撃を受けた顔で固まっています。
前世によく読んだ、某有名漫画の目の白抜き状態のように、「ガーン」って感じになってます。
「お兄様?どうかされました?」
しばし、返事がない。
カミーユさんもいつもより目幅が広がっています。
「……… お前、カミーユの顔を見てなにも感じないのか?」お兄様はやっと言葉を発しました。
さて、どう答えればいいのでしょうか。首を傾げつつ、「はぁ、折角きれいなお顔なのに、無表情でないといけないのは、気の毒だな、と思いました。」
「…………。」お兄様はまたまた無言。
「フッ───気の毒、ですか。」カミーユさんはというと、なんだか苦笑いしている。私、昨日会った人に対して、生意気なことを言ってしまいましたのでしょうか。
…… でも?あら、カミーユさん、いつもよりは感情が顔に出ている。これはもしかして、少しは笑顔に出来た?
ふふふ、まずは第一歩ですね。
「……… 本当、貴方には驚かせられます。…… これからは私がお側にいます。何でもおっしゃってください。」とまだぎこちないが、温かい笑みが返ってきます。
その笑顔になんだかとても嬉しくなり私は、「はいっ、よろしくお願いします!」と返事をしました。
「では、予定通り世界球の間で魔王の珠伝達式に参りましょう。」と手を差し出してくれました。
「これからすぐですか?」嬉しくなった私はそう言ってカミーユさんと手を繋ぎました。
「ええ、魔法の制御はお任せください。世界球が示す迄、魔方陣のなかでオルテンシア様は待っていればよいのです。」
私たちはまだ固まっているお兄様を置き去りにして歩き出しました。だって声をかけてもぜんぜん返事しないんだもの。
「案外簡単に、珠の移譲って出来るのですか?」
「いや、それは器魔王の珠を受け取れる器があってこそです。オルテンシア様の器は無限なので、歴代の王よりは、スムーズに移譲出来るのではないでしょうか。」
「そういうものなんですかね。」
ふふふ、なかなかよい感じてはないですか、私たち。
ついさっきまでカミーユさんが怖かったなんて嘘のよう。
やっぱり、カミーユさんは笑顔がいいよ!
世界球の間は私の部屋から直ぐのところにあります。
「生まれながらというのは、世界に愛され、魔王にと望まれていたということだからね。」このまま廊下を進むと世界球の間の入り口が見えるはずですが、曲がろうとする前からお父様の声が聞こえてびっくりしました。
「あっ、お父様!」廊下を曲がるとお父様が世界球の間の前で、待っていました。宰相さんもいます。
カミーユさんが、パッと繋いでいた手を離しました
私は急に手が離されてしまったので、驚いて上を向きカミーユさんを仰ぎ見ました。
あれ?少し顔が赤いみたいだけど、またあの無表情に戻っていました。
ちょっぴり残念に思いましたが、これからはもっと笑顔を見せてくれるかもしれません。
カミーユさんは、私の肩に手をあてて、お父様の近くへ促すように軽く押し出しました。
「おはよう、オルテンシア。いよいよ魔王の珠の伝達式だね。」お父様がにっこりと笑う。
「おはようございます、お父様、宰相さん。」私も挨拶を返します。
「カミーユも有難う。もうオルテンシアと打ち解けたみたいだね。」とカミーユさんに声をかけている。
「いえ、……その、精一杯お手伝いさせて頂く…… 所存です。」とペコリとお父様と宰相さんに向かってお辞儀をしています。
魔族って、頭を下げないのですよね?でも、魔族も厳しい上下関係はあるのだとは言っていました。なんだか難しい。
「うん、よろしく。…… オルテンシアはいい子だろう?」
「……はい。」カミーユさんが目を附せて答えています。
「でも、あげないよ。」そう告げたお父様をカミーユさんがハッと驚いたように見つめています。
「ちょ、ちょっとお父様!私は物ではありませんから!」
私の頭の上でのやりとりは、表情がよくわからない。ピリッとした緊張が走ったような気がしたのは私の勘違いでしょうか?
でも、宰相さんは明らかに目を瞠っているのはわかりました。
「ふふふ、可愛いねオルテンシアは。私たちの可愛い宝はそう易々とやれないからね。」
「だから、私は物ではないですからね!」そう言ってお父様の足に抱きついてみた。直ぐに抱き上げてくれる。そうするとお父様がとても機嫌が良くなることを知っていますから!
そうこうしているうちに、魔王の珠伝達式を開始すると告げられます。
私はお父様に抱かれて、大きなドアの入口から世界球の間に入りました。カミーユさん、宰相さん、そして何とかギリギリお兄様も間に合ったようです。
私は宇宙空間のような世界球の間でフワフワ浮かぶ球たちを見つめます。同じの形や色の珠はひとつとしてありません。
消えては瞬き、また消えては瞬きと新しい光の珠がどんどん生まれているかのように繰り返されています。
この珠達も、空に浮かぶ幾億もの星達と同じようものなのでしょう。
暫くすると、宇宙空間のなかにポワーと金色の光の魔方陣のようなものが浮かび上がりました。幾重にも読めない文字などが輪となって連なりぐるぐると廻っています。
その魔方陣の前に見たことのない人が立っていました。目深に黒いフードを被っており、性別はわかりません。
その人は、自分は予言者マハだと私たちに告げました。
「世界球の間にようこそ。」
私は予言者マハに目礼します。(皆に頭を下げないよう言われたからです。)
「世界球の周りを廻っている珠のひとつが、魔王の珠です。魔王の珠がオルテンシア、あなたと融合すれば、伝達式は終わりです。」
「…… はい。」私は予言者マハの言葉に頷き返します。
「……幼き魔王よ。怖れることはありません。…… 魔王としての務めを果たしなさい。世界は常に均衡を望みます。それを忘れてはなりません。そして、この世界球の間の管理は貴方に委ねられます。そちらの者と、」と一度言葉を切り、予言者マハは私よりやや離れたところに立つカミーユさんをチラリと見た。「その者の力を借りて世界球の管理しなさい。その者は制御を得意とするようだから。」
カミーユさんと協力しろということでしょうか。
「わかりました。世界が望む均衡を保つよう努力します。」と答えました。
「………。」
すると、私には予言者マハが笑ったように感じました。全く顔も見えないのに、そう感じたのです。
「……ようやく思い出したようですし、この先貴方の未来に希望が溢れますように。」
予言者だからなのか、私が前世の記憶があることをわかっていらっしゃるようです。
「さあ、この魔方陣のなかに進みなさい。」
魔王の珠伝達式がいよいよ始まりました。




