(13) 妹とカミーユ ── by オーブリー・ナバレ
拙い文章でも、読んでくださって有難うございます。
地味~に頑張って参ります!
お兄様デレデレ、カミーユさんも少しずつ変わっていけるでしょうか。
私の妹は生まれながらの魔王だ。
暁の瞳、魔族最高の貴色の黒髪を生ながらに持つ妹は、魔王という宿命のもとに生まれた。
まだ魔王の珠をその身に持たないので、正しくはまだ魔王ではない。
生まれた時から身体が弱く、すぐ熱をだし体調が不安定な妹。血の気のない青白い顔、細い手足は骨ばっていた。食事を受け付けず痩せ細る妹は魔王でありながら、魔力をほとんど持たないので、再生、回復能力が極端に弱い。
本来の魔族は強い者を尊び、弱い者など大抵は捨て置く。
しかし、オルテンシアに限ってなのだが、あの小さな身体で健気に闘う姿に、なぜか強い庇護欲を掻き立てられてしまうのだ。
感謝の気持ちを素直に口にする妹、口癖のように謝る妹。おおよその魔族はそんな感情は更々持たない。オルテンシアがそう言えば、なぜか魔族として生まれ育ってきたこの身にはとても新鮮に映る。
あの優しさはいったい誰に学んだのか。
あの部屋の狭い空間しか知らないはずなのに。
この毒々しい魔界の空気にオルテンシアを汚されたくはない。なので、うちの家族は、従者も、私の婚約者の家族も、可愛いオルテンシアにメロメロで、デレデレだ。甘やかしても、我が儘らしいことも言わない、ホントによく出来た妹だ。
魔王らしくないと侮るものもいるだろう。
そんな優しい妹が侮られると思うと今からでも、はらわたが煮えくり返りそうだ。
しかし、魔王としての宿命が、否応なしに私たち家族を切り裂く。暮らしなれた我らの庇護の中から、とうとう飛び立たねばならない日が来てしまった。
まだ早い。まだたった6歳なんだ。
…… まぁ、何とか侍従と教育係につくことができたのでオルテンシアを守ってやることが出来る。父や母が悔しがっていたが、側にいるのは私が一番の適任者だ。
女の子なので対応しきれないこともありうる。護衛であっても女子の護衛も必要だ。まだ着任していないが、悔しいがあいつが言うことも最もだから仕方ない。だから、オルテンシアの心と身体を守れる者を付けることにした。
それにまだ、あの裏切り者共が生き残っている。
そして天使や竜どもの動きにも気を許すわけにはいかない。
兎に角、まだ幼い妹を私たちで守るしかないのだ。しかし気心の知れたものばかりで固めると、方々から文句が出る。五大爵でさえ、贔屓が片寄るなと五月蝿いのだから呆れる。
五大爵は常に魔王に絶対の忠誠を誓っているはずだが、前魔王アルティオスのせいで忠誠の誓いに綻びが入った。
サヴィン家出身の前々魔王を妬み、弑した、裏切り者ども。しかもその混乱に乗じて敵対していた天使や竜が攻め混んできた。
奴等にそんな隙を見せてしまったことが、忌々しい。
だから、オルテンシアが魔王となったあかつきには、その地位を盤石のものにしたい。
まだ魔力の弱いオルテンシアが、魔力の巨大な魔王の珠を受け止める器の持ち主であるのは確かであろう。城のあちこちから溢れ出す珠がその証拠だ。
その様なわけで今、私はカミーユと共に、オルテンシアの部屋に訪れていた。
早朝、オルテンシアが起きだしたのを察知した私は、オルテンシアの部屋へ行き、しばしその様子に見入ってしまった。
私は、暁の光に包まれた美しく成長した未来のオルテンシアの姿を見た。
目の錯覚かと疑った。
暁のオルテンシア ──── は我らの王にふさわしい姿だった。
それは一瞬のことだった。
声をかけるとまだ寝起きだからか、少しかすれ声だ。思わず手を広げると嬉しそうに、私の腕の中に飛び込んでくる。頬擦りしてしまうほど、可愛いくてたまらない。
しかし、あの父がこのカミーユを侍従に選ぶとは思わなかった。
魔法磁場の制御は魔界一だろう。確かにオルテンシアが魔王の珠を受け継ぎ、暴走しないよう制御し、自由自在に操ることが出来るよう教師役は適任とはいえる。
そのカミーユは身勝手で自堕落な両親に放置されて育った。
すでにその頃から、カミーユの容姿は皆を惹き付け狂わせていた。それでもまだ出会った頃は、寂しげな瞳をした弱き心を隠せない表情で、危なかしくて私は色々とかまったものだ。
この壮絶な美貌は、男も女も関係なく魅了する。私もうっかりすると危ないときもあるから、かなり厄介な曲者だ。
それに気付いた身勝手な親が、他の魔族やついに前魔王に売り付けやがった。
異常な執着を見せたアルティオスが、カミーユを獲んが為に、前々魔王を弑逆したともいえるから、全くカミーユにとっては災難でしかない。
だからかカミーユの顔から一切の表情、感情が消えた。
オルテンシアは幼いとはいえ魔王であり、女だ。更に前魔王の瞳を彷彿させる同じ瞳を持つオルテンシアの側に仕えることになった。
カミーユは幼いオルテンシアに対して警戒しているのか、無表情で、その顔に感情は浮かんでいない。
オルテンシアは幼くて、とても感受性が強い。やはり怯えている。そしてまた無愛想なシセロ・サヴィンまで護衛となった。
魔王となるには、一切の甘えは許されないということか。
カミーユは、今朝も相変わらずの無表情で今日の予定を読み上げている。
しかし・・・見るとオルテンシアは何やら懸命に紙に書いていた。時折、それを見てはひとりでニヤついていたりもする。
──── オルテンシアよ、集中しよう。
あぁ、カミーユが気付いたぞ。カミーユは暫しじっと無言で目の前の幼い魔王を無表情で見つめていた。 しかし、その瞳は揺れていたので、無表情とはいえないか。
オルテンシアはカミーユが話すことを止めていた事を見事に気付いていない。
「─── オルテンシア様は、何を書いているのです?」しかしカミーユの声はイラつくことなく、意外に優しく響いた。
それでもオルテンシアはビクッと顔を上げた。もともと語学が苦手で読み書きが得意とはいいがたい。
「何語ですか、この文字。」オルテンシアはまた難解な言葉で書き付けていた。カミーユでさえ不思議に思うよな。
「私だけがわかる、言葉です。」
「・・・・・・」オルテンシアよ、言ってしまったか。カミーユの表情がやや強張ったように感じた。カミーユはもともと気が長い方だ。これくらいのことで怒ることはないと思うが、ここは兄として妹をフォローしてやらねばならない。
「そ、そういえば、オルテンシアはなかなか言葉が話せなくてな。よく、聞いたことがない言葉を話していたな。ニホンゴって言うんだっけ?」私は助け船を出したつもりだった。
なのに余計なこと言わないで、というふうにキッと私のことを睨んできた。オルテンシアの顔は既に赤くなっている。
でも、そんなオルテンシアが可愛くて、思わずニヤニヤ笑ってしまう。甘やかすのも好きだが、からかうとむきになるので、殊更可愛くて仕方がない。
しかし ─── お?カミーユの様子が違うぞ。目を瞠ってオルテンシアを見つめていた。
「えっ、ええと、大したこと書いてありませんよ?私の覚書です。ええ!きょ、今日の予定が書いてあります。」オルテンシアの様子もあたふたと慌てていて、挙動不審になってきた。
「ふむ・・・タイムスケジュールが?」
「そ、そうです!これが朝これから、世界球の間に行って、伝達式・・・」と懸命に弁明しているがカミーユは相変わらずの無表情だった。暫しの間が空く。
「私の名前は貴方の言語ではどう書くのですか?」
「── は?えっ?あの、ああ、こう書きます。」
オルテンシアが紙の隅にカミーユと書いたらしい。おい、わからんぞ。
「フーン、そう書くのですか。ではここに書いてあるのは?カミーユとたくさん書いてあるのですが?」
カミーユにしては、面白そうに会話している。子供相手でも、女だぞ?
こんな様子のカミーユを見るのは、もちろん長年の親友である私も始めてだ。
初めてみる姿に私でも驚く。
「ん?」
「・・・カミーユさんとコミュニケーション計画書です!」オルテンシアは、カミーユの沈黙に耐えかねて、とうとう白状していた。
私だってオルテンシアの書いた文字の意味や、話した言葉の意味もわからないが、発した言葉は一語一句たりとも違わず、正確に再現できるぞ。
オルテンシアの難解文字を始めて見たのに、カミーユは自分のことを書かれていると気付いたというのか。
「コミュニケーション?何て書いてあるのです?」
「あ、あの。」
「まずコミュニケーションとはどういう意味でしょう?」
コミュニケーション?そんな言葉は、この世界にはない。
あのカミーユが畳み掛けて、攻めの姿勢だ。
「・・・カミーユさんとどうしたら上手くコミュニケーションがとれるか問題点と目標まで書いてあります。」
「ふむ、私の問題点、ですか。」
「 ───!!」
オルテンシアがアウアウ言って焦ってあたふたと困っている様子が、これまた可愛い。
「ぶはっ、その辺にしてやれよ、カミーユ。」私は可笑しすぎて、悶え過ぎて腹が痛いぞ。もう無理だ。勘弁してくれ。
ひーひー笑い、私はふと顔をあげ衝撃を受けた。
──── おい、嘘だろ?
カミーユの奴、オルテンシアに笑いかけてやがる。あのカミーユが笑うなど久しく見ていない。
しかし、更なる衝撃を受けたのだ。
目の前であの超絶美貌の笑顔見せられているのに、オルテンシアは惚ける訳でもなく、なぜかカミーユを気の毒そうに見つめ返していた。
はっ、カミーユの魅了に狂わないやつがここにいた!
逆にカミーユの方が、瞠目して驚きを隠せない様子だ。
やはり、私の妹は大きな器の持ち主だ。
中々、魔王の珠伝達式になりませんが次こそは入れたいと思います。




