紅の王女 共通①
今日はいつもより念入りに櫛を入れ、サラサラの髪を三つ編みにしてから
くるくると二つに巻いた。
私は身嗜みを完璧にととのえ、彼の前に現れた。
ほんの少し、幼い頃と雰囲気が変わり彼は昔よりクールになっている気がした。
「ご無沙汰しています」
腕を胸の前へ斜めにやる仕草は敬礼だろうか。
「敬語なんていいのよ!」
甲冑の上から肩に手を乗せようとすると、避けられた。
「そういうわけには…」
中々強情、ならもう一押しする。
「だったら二人きりのときは身分を忘れて自由に話すって事でいいでしょう?」
これで断られたら打つ手がない。
「お前には敵わないな」
そう言って彼が笑う顔には昔の面影がある。
彼は城に仕える兵士の息子。
幼い頃、彼は父親に連れられて城へ訪れた。
私と年も近い、ということでよく私の遊び相手になってくれて今では私の一番大事な人だ。
「あっ姫様」
よく世話になるメイドの少女が私に駆け寄る。
隣には若い男性の姿がある。
「姫様、わたくし近々彼と結婚するんです」
メイドは頬を染めながらいう。
相手の男性は照れくさそうに頭を掻いた。
「おめでとう」
「お幸せに」
私達は心から祝福した。
喜びながら感謝する彼女に続いて彼も嬉々とした。
彼女達が去ってからしばらく無言の状態が続く。
何を考えているかなんて、聞かなくてもわかる。
「結婚する相手はもういるのか?」
やはりそれを考えていた。
「知らないわ」
知らない国の王子との結婚なんてどうでもいい。
「結婚は嫌か」
彼が顔を近づけてくるので私はそっぽを向いた。
「相手によるわね例えばー」
私はチラリと彼を見て、目をそらす。
今ので気づかれたならいい、面と向かって言うよりこうした仕草で相手に気づかれたほうが楽だ。
「例えばなんだ?」
ただし、失敗した時に説明すると余計に気恥ずかしくなる。
「なんでもない」
いつになったら伝わるの――――。
私はルヴィエッテ、ファイメリア王国の姫である。
今日は密かに想いを寄せていた専属の騎士・サフェンと裏庭で楽しい時間を過ごすことになった。
ガサリ、なにやら草を踏む足音が聴こえたので、後ろを振り替える。
するとそこには兄・エメイトの姿があった。
「仲がいいねぇ」
兄は微笑みを讃え、クッキーを一掴みし口に運ぶ。 なに勝手に食べているのよ。
「うん、良い味だ」
立ちながら菓子を食す、兄に唖然としつつ私はお茶を飲んで気をまぎらわした。
「そういえばルビエッテ」
隣国ジェルナの王子ガルスパールに嫁ぐことになったと知らされ私は心を踊らせた。
ジェルナ意外は絶対に嫌だったし、 古来から結婚は親の決めるもので結婚してから相手を好きになれと教えられたからだ。
その上、王族は民よりも相手を選べない確率が更にはね上がる。
相手を愛せない結婚がほとんどだろう。
そんな時代に、望んだ相手と結婚できる私は恵まれているのだ。
「本当によろしいんですか姫様」
「何が?」
「あの国の王子は確かに人がよさそうですが…」
「ああ…もうすぐ彼と結婚できるなんてとても幸せだわ」
祝言の日、浮かれきった私に冷や水をかける報告が届く。
「王子が亡くなったそうです」
「嘘よ!!」
「残念ながら死体も上がっています」
「この目で確かめないことには信じられない!」
言葉通り、遺体をたしかめにいくと棺にはまぎれもなく王子の美しく儚い亡骸が横たわっていた。
「そんな…私は彼の妻になるはずだったのに…」
「言いにくいのですが王子は貴女を良く思っていませんでした」