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野菜嫌い姫様・共通① お肉がお好き

「まずーい」

「エシャレッタ様!」


野菜の国ヤサヌイの姫エシャレッタ。彼女は生まれたときから野菜嫌いである。


「野菜の国の王女様が野菜嫌いでどうするんですか…」


落ち着いた雰囲気の執事の青年は嘆く。


「だって苦いし渋いし美味しくないんだもん。葉っぱなんて虫の食べ物だわ。

野菜のくせに甘い玉蜀黍、カボチャ、人参も嫌だけれどね」


「はあ……どうすれば姫は野菜を食べてくださるんだ」

「お子様だからだろーその内食えるようになるって」


粗野な若い少年執事が楽観的に語る。


「姫はもう20です」


もう手遅れだと、青年執事は言った。


「ほら…50才くらいになれば食えんじゃね?」


少年使用人は、苦笑いしつつ、親指を立てた。


「んなわけねえだろぉが!!」


青年は冷静さを失い、怒り狂った執事は叫び、テーブルクロスを引いた。


「おっおう……落ち着けよヴェルキィーツ」

「だめだはやくなんとかしないと姫が……」

「いや……おまえもな」


二人が話していると女中達が通りかかった。


「ねえ聞いたーー」

「あーレスタンス様でしょ~」


休憩時間の女中達がきゃあきゃあと、かしましく歩く。


「そういや農家のレスタンス、今大変らしいな」

「なにがですかルサクア」

「なんかお隣の姫様に迫られてるらしいぜ」


◆◆◆◆◆


従兄のレスタンスがフルーテアの姫にお熱な噂を女中から聞いた。


彼は公爵の一人息子で王弟だから王族なのだが、この国を出て放浪の農家をやっている。

フルーテアのプリンセスに気に入られているなんて脈なし確定だ。


王族にだけ伝えられていることだが、昔この国の王子がくだらない理由でフルーテアを滅ぼした。

それを公にされなかったのは初代女王アプリアが争いを拒んだから。

というわけであちらには強く出られない。


「はーレスタンス狙ってたのになー。私もイケ農家とラブラブな結婚がしたいなー」


「農家などいけませんよ姫様!」

「冗談よ」


ヴェルキィーツもとい執事1ったらなに必死になっちゃってるのよ。


◆◆◆◆◆


「賓客がくる?」

「レスタンスがフルーテアにいる間、あちら側から交換という形でいらっしゃるそうです」


いったいどんな人が来るのだろう。

果物は好きだからフルーツの詰め合わせをくれたりしないかしら。


「姫様気になるんですか~?」


ルサクアがからかう。


「果物セットをお土産で持ってきてくれないかと……」

「色気より食い気か」


この国にあるのはフルーツもどきの苺、メロン、スイカ、バナナ。

というわけでやはり、木になるマジモンのフルーツが食べたいのだ。


――――生まれる国を間違えた。お肉の国があったらぜひそちらに嫁ぎたい。


◆◆◆◆◆


「フルーテアから参りました。ルヴェリーです」


ワインレッド髪をみつあみにした眼鏡の男が、優雅に挨拶した。


彼はあちらの公爵家、王兄の長男だという。


◆◆◆◆◆


親戚の姫からひさびさに手紙が届いた。


「ヴィヴィアンもキャヴェーナも女王になってしかも素敵なダーリンまでできているとか、は?」


私の母が恋愛至上国家ラブリクア、通称:お花畑の国の女王と従姉妹。

おまけに第一王女キャヴェーナの父は平民でその弟の子がヴェルキィーツ。

彼女の夫の父の姉の子がルサクアで貴族なので一応家柄はいい。


どちらかといえばヴェルキィーツのほうが貴族っぽいのに人は見かけによらないわ。


◆◆◆◆◆


「どうしたら私はお肉の国のプリンスと結婚できるのよ」

「肉の国などないので無理です」


「野菜の国とかおかしいでしょ、んな馬鹿みたいな世界観とネーミングセンス」

「肉が食べたいなら狩りにいこうぜ姫様」


ルサクアは舶来ものの機械で遊んでいる。


「それリアルで食べられないやつじゃない」

「やれやれ……」


◆◆◆◆◆


「ごきげんようMr.ルヴェリー」

「ご機嫌麗しゅう、プリンセス・エシャレッタ」


「あ、それ……」


なんだか黒くて丸い真珠かキャヴィアのような粒がある。


「ブルーヴェリーです。お一つどうですか?」

「ええ、いただくわ」


念願の本物のフルーツ!


「おっ美味しいわ!黒いから苦いのかと思っていたけど甘酸っぱくて……」

「それはよかった」


しかし指が赤くなるのは困った。


「まるで貴方の髪のような色で綺麗ね。名前の由来だったりするのかしら」

「いいえ、ですが惜しいですね。両親いわくヴィルヴェリーなのだそうです」


彼はにこやかに答える。


「食べたことがないからわからないけれど、赤いの?」

「そうですねブルーヴェリーよりも濃いと思われますが」


◆◆◆◆◆


あれからフルーツの話をしてもらった。向こうにはバナナはあれど苺やメロンやスイカがないらしい。


それからスイーツにも使われる甘いカボチャとサツマイモについて詳しく知りたいと言われたので話した。


―――肉の国がないならスイーツの国はあるのだろうか?


「姫様!!大変です!!」


何事かと思って話を聞くと、求婚者が現れたらしい。

私はこの国を継がなければならないらしく、他国へ嫁げないから常々困っている。



「エシャレッタ姫~いい加減ボクちんと結婚してほしいんだぞお!!」


デブで脂ぎった腐った肉の固まりモトイ、ブサイクな中年の男爵。

ただの男爵ならば突っぱねるところなのだが、こいつはこの世界で一番権力のあるジュプス大国に住んでいる貴族。


いくら私が王の娘であろうと、ヤサヌイはジュプスには勝てない。

つまり全力でなんとかしなければ私はこいつと結婚する事になる。


そんなのは絶対嫌だ。


◆◆◆◆


なんとか腐った肉が帰ってくれたので、私は安心した。


「私決めたわ今すぐこの国にから逃げる!」


そうしなければ、奴は諦めないだろう。


「落ち着いてください。万が一姫がいないことで戦を起こされたらどうなさるんです」

「ヴェルキィーツ……お前は私があの腐敗肉と結婚してもいいというのね!?」


「そういうわけでは」

「姫が幸福な女王になれるよう俺たちがなんとかしてあいつから姫を守る。こいつはそう言いたいんだよ姫様」


ルサクアが言った。


「そうなの?」

「話は聞きました。ここは私も尽力し、姫様に肉を献上いたしましょう」

「あんな肉くったら腹壊すぜ」

「丁寧に加熱殺菌し、海の神様にでも葬っていただきましょう」



こうして私たちはジュプスの男爵という一見小さく見えて大きな敵へ立ち向かうのだった。

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