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始祖国シドレクト共通①

全ての種の国から生まれ、種の国こそすべての国の祖であった。


テラスでは若い娘が優雅に―――

「あーはらへったー」

否、若い娘はテーブルに足を乗せ空腹を訴えている。

「姫、お茶菓子を追加しましょう」

まともな人間なら彼女を注意する場面なのだが、隣にいる青年はその姿をお茶を飲みながらただ眺めているだけだった。


「シディアナ様!」

通りがかりの年配の侍女はズンズンと少女の元に歩く

「はいはいわかってるって」

いつものことなので言われる前に足を下ろした。


「殿方の前ではしたのうございます!」

興奮ぎみに少女に注意する。

「そんなことないわよね?」

少女は隣の青年に問う。

「ご心配には及びません侍女長、姫様が行き遅れなさった暁には私めが…」

「なんですか?」

侍女長は青年に圧倒されていた。


「相応しい相手を探して参ります」

片目を閉じ、親指をグッと立てて言う。

姫と侍女長はてっきり青年が姫を娶るとでも言うのかと思っていたので

青年の言葉に残念そうにため息をついた。


「そこは貴方が妻に向かえると言う場面ですよ!」

侍女長は期待外れだと落胆して去った。


「んもー」

少しだけ期待していた姫もがっかりしている。

この国はまだ政略という結婚概念がなく、恋愛は基本的に自由であり

故に互いに想いあう場合、は婚姻を結びたいなら反対する者はいない。

シドレクト国王の娘であるシディアナは、彼女がまだ幼い頃に出会った領主・ラフラントに想いを寄せる。

しかしラフラントには忘れられない初恋の女性がいるようで、彼女がそれとなく想いを表しても毎度はぐらかされてしまう。

そんな日々さえシディアナは嫌いではなかった。


たとえ恋人になれなくともラフラントが自分の隣におり、支えていたからそれで満足だったのだ。


そんな当たり前の日々は、幻かの如く過ぎ去ってしまう。


「どうしたのラフラント」

「私は旅に出る事にしました」

「え?旅に出るってどういうこと!?」

「この国が嫌になったわけではないのです」

「…」

「明日ここを発ちます」


シディアナは去る彼の背を見つめたまま、なにも言えずそのまま立ち尽くす。

かつてのラフラントとの思い出を振り返った。


『初めまして姫様、私はラフラントと申します』

『うんよろしくね!シディアナね~ラフラントみたいなかっこいい人が好きよ』

『あははっ姫様はおませさんですね』


出会った幼きとき、幼稚な遊びに付き合ってもらった日、数十年の間に沢山の楽しい記憶が作られて、この先二度と会えなくなることがシディアナには考えられなかった。


『なに見てるの?』

『写真の入ったロケットですよ』

『しゃしん?』

『大切な人の姿が入っています』


たとえ他に大切な女性がいたとして、想いを告げないまま去られてしまうよりは告げたい。

想いが伝わらなくても彼は旅立つのだから今までの関係が崩れる心配はないだろう。


いざ想いを告げようとしたが、ラフラントの顔を見た途端、頭が真っ白になる。


「ラフラントはどうしてシドレクトを去ろうとしているの?」

告白は後にして、まずはこの疑問を投げる。

ここは最大の総国であり、他の国の統治者は王の権力を持たない小国である。

ずっとここにいればいいのに、彼はどうして外へ行こうとするのだ。


「君は前世を信じるか?」

「前世?」

「我々人には輪廻する魂がある。それは姫も知っているだろう?」

たしかかにそんな考えは一部に根強くある。

しかしが私はそんな、魂だとか生まれ変わるとか、興味がないし、輪廻転生など信じてはいない。


いま私が記憶しているのは私がシディアナでラフラントに恋をして来たことだけ。


「私は興味ないわ」


「シドレクトだけ大きく栄えてはいけないと思ったんだ…沢山の国が個々を豊かにしていく姿を見たい」

彼は内なる使命感から、シドレクトから去り、建国をしようとしているようだ。


一旦頭を冷やそう。


彼がここを去るのは明日、まだ時はある。

ラフラントへの想いを神殿で告げる。

私は神の類いをそこまで振興していないが、ラフラントがそうするなら礼節を持って同じ立場に立とうと考えたからだ。


その後部屋で呆けて暫く絶った頃、いきなり地割れの音がして何事だと外へ出向く。

ガラリと岩の砕けるような音は丁度神殿ある方から響いてきた。


神殿の中にあるはずの女神象が、真っ二つに砕けて割れた神殿から無傷のまま剥き出しになっている。


慈悲深い笑顔がとても不吉に見える。

神殿から次々に神官達が飛び出してくる。


「姫様!!予言が…シドレクトは今夜、滅びを迎えるだろうと…」


よりにもよってラフラントが国を去ろうとした前日にこんなこてになるなんて、信じられない。


ともかくラフラントはどうしているだろうか、まさかとは思うが旅立つ前に神殿へ祈りに来てはいないだろうか。


「姫…!」

「ラフラント!?」

ラフラントは城内にいたようで、息を切らせながら出てきた。

ああ、無事でよかった。


「一体なにが起きたのですか」

「あれが…ラフラント」

「神殿が砕けている…女神の象が傷ひとつなく現れるなど…そんな…」

やはりみな、女神の象が崩壊した神殿で傷つかないことを不振に思っているようだ。


「神官よ、シドレクトは滅ぶというのは本当…?」

「はい予言が外れたことはありません」

なんということだろう。


「シディアナ姫…共に行っては貰えませんか?」

しばらくの間ラフラントが言っているのは私も共に旅へ行こうという意味だとわかった。


「シドレクトが滅ぶ、そんなことになれば貴女が不幸になる」


国が滅ぶ前に逃げ出したい。

そんな理由ではなかった。

だけど、国が滅ぶなどという予言がなかったらラフラントの帰りを待つだけであったのだろうか。


「ついていくわ」

私は冠を投げ捨て、ラフラントの手をとる。


「姫…いえ、行こうシディアナ」

「ずっと言いたいことがあったの…これだけは聞いて」


「わかった」

「私は貴方が好きよラフラント」

何を告げればいいか、長い話をたくさん考えていたが、たった一言好きだと言えた。


ラフラントは目を丸くしている。


「返事は建国をしてからでいいわ」

「なぜそれを…」

建国をすることははっきり言われたわけではない。

しかし、ラフラントはもとからそのつもりだったようだ。


「まずは建国仲間を探さないと」


私はこの旅の終わりが早く見たい。


きっとラフラントならやりたいことを出来る。

そういう人のような気がした。


シドレクトが滅んだのを切っ掛けに、ラフラントは新たな国を作るべく尽力。


亡国シドレクトのシディアナ姫を連れたラフラントがライネリア、オラビアという二人の少女と出会う。

そして共に三国を建立し、両親のいるレモリアはライネリアの父が、オラビアは家族も無いためオランドビアを受け継ぐことになり若くして女王になる。


「まあ私たちが力を貸さなくても彼は建国をしていたわよ」

「そうね」


「ラフラント様の真似をして自分も建国を~なんて馬鹿が出ないといいけどね」

「そんなまさか~」


「ああ、ライネリア、妹姫は元気かしら?」

「レモリアなら元気も元気、超元気よ」


「やあ皆さんお揃いで」

彼はシドレクトから派生したラフレアの建国者だ。


「ラフラント様って素敵よね~」

「そう?私はアナタのほうが魅力的に見えるけど」

「あっはは~別に恋とかじゃないって大国があるのに別の作れるなんてすごいなって意味だし

それに~あたしのほうがあんたのこと大好きだもんね!」

「きゃははー!」


「シディアナ、あれは普通なのか?」

「知らないわよ私に友達なんていないもの」

「君は姫だから仕方ないが威張ることではないだろう」

彼はもう一人でも国を作れるほどになっている。

このまま彼の傍にいては邪魔になる。

私は彼が王になる前に姿を消そう。

その場をひっそり去ろうとしたのだが、愛しい彼に手を掴まれた。


「どこに行くんですか」

「ちょっと川に夕涼みに」

「そんな嘘では騙されません」

「やっぱり?」

「どうせ姫様の事だから黙っていなくなるつもりだったのでしょう」

「ええまあ」

「第一、頼るアテはあるんですか…いえ、喩えあったとしても行かせません」

ラフラントはシディアナを強く抱き締めた。


「…忘れられない恋人がいるんでしょ」

抱き締められて嬉しいのに悲しくもあって複雑な感情に苛まれた。

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