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怠惰が生み出す不条理な世界  作者: ラタトゥーユ
第2章
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第8話 旅路と騒動

 



「そ!う!だ!恐れない〜でみ〜んなのために!あ!い!と勇気だけ〜がと〜もだちさ〜♪」


 アンパンさんはぼっちだったんじゃん。

 愛と勇気だけって寂しいな。

 俺でももう少しあるぞ。


 スマホと本と近所の猫と屋上のベンチ、その他1人でいても目立たない場所全てが友達さ!


 友達が無機物だからってダメではないはずだ。

 かのサッカー少年だってボールと友達だったじゃないか!



 それはさておき世界樹から飛び立っていい加減飛ぶのに飽きてきたころ、初めて森以外のものを見た。


 まず見えたのが大地に広がる荒野。

 それからちょっと飛ぶと荒野から草原に変わり、ちらほらと村や集落が目に映った。

 村からは整備された道が続いている。

 そして今はその道を歩きながら、俺よりぼっち歴の長いアンパンさんに敬意をはらって歌を歌っていた。


 途中まではちゃんと騎竜隊の人達をつけてたんだが、途中で竜を休めるとかで休憩し出したので先行したのだ。



 ––––––––––



「平和やー」


 歌い終えて、しみじみと言う。

 まわりは草原。

 背の低い草が辺り一面を埋め尽くしている。

 魔物に注意と途中の看板にあったが、今のところ出くわしてない。

 本当に平和。

 森での生活を考えると、どこで生きても幸せな気がする。

 戦争はよくないよ。

 争いは何も生まない。

 話し合いで解決すべきだ。


「お?」


 正面から馬車がやってくる。

 馬が2頭に車輪が4つの車。

 屋根がついておらず積荷が丸見えだ。

 積んでいるのは野菜、肉、果物などの食べ物。


 珍しいのでじーっと見つめる。

 馬車なんて映画やゲームでしか見たことがない。

 リアルの馬車は思ったよりも大きかった。


 すれ違いざま、御者さんに睨まれてしまった。

 なんだよ、いいじゃん見るくらい。


 その後も馬車はたくさん通った。

 すれ違ったり追い抜かれたり。

 積荷はそれぞれ違い、剣や盾、木材と様々だった。

 車の形はみんな同じだ。

 それでも珍しいので来るたび来るたび見ていたら、来るたび来るたび睨まれてしまった。

 みんなけち臭い。

 見てるだけなのに。


 それから少し行くと看板があった。


 〜〜


 この先 王都アトレー


 〜〜


 よしよし。

 道はあってるようだな。

 ……あれ、てかもうここアルトル王国内なのか?

 えうそ、いつの間に……。

 そういやさっき空から関所らしきものが見えたような……。


 まぁいっか。


 ………。


 そんなことよりもさっきから気になっていることがある。


 この道は交通量が多い。

 馬車だけでなく人も通る。

 それは別にいいのだが。


 問題は、全員が全員、俺を見ていくことだ。

 馬車を見つめていなくても御者さんは俺を不思議そうに眺めていく。

 動物園のパンダになった気分だ。

 決して自意識過剰なんかではない。

 確実に見られている!



 なんだなんだ!

 見せもんじゃねーぞこら!


 ……いやあのホントやめてもらえません?


 自分見られるのとか慣れてないんですよ……

 ぼっちって見られる以前に認識されてないですからそういうことないので……


 俺はいつも通り制服の上に全身を覆う黒いローブを羽織ってる。


 そんなにおかしいかね?


 自分のセンスに自信がなくなってちょっと落ち込んでたところで中指にはめた指輪が光りだした。


 フルーリルにもらった指輪だ。



(………もしもし)

(そあー!妾じゃぞー!元気にやっとるかのー?)


 頭の中にフルーリルの声が響く。


 そうこの指輪は通信機だったのだ。

 直接頭に声が聞こえてきてこちらも思うだけで言葉が相手に届くという優れもの。


(あのー、フルーリルさん。体を気遣ってもらうのはありがたいんですけど………)

(んー?なんじゃー?)


 楽しそうな声だ。

 可愛い顔はきっとニコニコしているのだろう。

 どんな男でもイチコロにできそうだよな。


 そんな笑顔のところ悪いが言ってやらねばならないことがある。


(……なんで1時間おきに話しかけてくんだよ!!)


 それも本当に1時間ぴったりだ。


 タイマーかこいつは!


 世界樹の森で別れてから5時間がたった。

 つまりこんなやり取りをもう4回もしてきている。

 1回目2回目はまだよかった。

 でも回を重ねるにつれてめんどくさくなり、今や着信拒否したいレベル。


(ふふん!お主が死んでないか確かめてやっておるのじゃ、ありがたく思え!)

(いや全くありがたくない。俺そう簡単に死なないし、てかいい加減しつこいし)

(なぬ!?せっかく妾が心配しておるのに!主はどこまで無礼なのじゃ!)

(どーもすいませんね。それじゃ無礼を働くのも悪いのでこれから連絡するのは1日1回な?守らなかったら今後一切森には帰らないのであしからず。それでは失礼)

(そ、そんな!?この悪・・・)


 話し終わる前にブッチする。

 少しやり過ぎかもしれないが、このくらいしなきゃあいつには通用しないからな。


 さ、早く王都とやらを拝みにいきますか。

 看板の前で止まっていた歩みを再開した、


「ま、魔物だあーーーー!!!!」


 のにその声で再び足を止められてしまった。


 なんなんだよ。


 見ると通り過ぎていったはずの馬車や人がすごい勢いで戻ってくる。


「何かあったんですか?」


 避けながら、そのうちの1人の御者さんに尋ねる。


「ブラッドウルフが出たんだ!あんたは魔導師かもしれないけど相手はBランクだ!命がおしいなら逃げた方がいいぞ!」


 いうが早いか手綱を握って走りさってしまった。


 ブラッドウルフ。

 血の狼なんてありきたりだな。

 Bランクとか言ってたけど魔物にはランクがあるのか。

 てか魔導師ってなんのことだ?


 とりあえず目を閉じてマップを確認する。

 俺の周りには緑の点がたくさん。

 これは害のない生命体を表すものだった。

 つまり今は逃げ惑う人を表している。

 そしてここから少し進んだ辺りに5つの赤い点があり、緑と青の2つの点を囲んでいる。

 目を開けてみるとこの先は道が森の中へと続いていた。


 わざわざ行く必要もないが、また新しい色が出てきたのが気になるので行ってみることにした。

 ちょうど通り道だし。


 魔物に注意って本当だったな。




 ––––––––––




 現場に到着し木の上に登って確認すると、真っ赤な5匹の狼が1台の馬車を囲んでいた。

 馬車の側にはダンディなおじさまが1人、腕と頭から血を流して立っている。

 馬車の中からはそんなおじさまを心配する声が聞こえる。

 お父様とか言ってるから娘かな。


 おじさまの様子からして、たぶん青い点は命の危険がある生き物を表しているのだと思われる。



 にしても狼がデカい。

 ツキノワグマといい勝負だ。


 そんなもんか。

 像よりでかい虫どもを見てきた俺には可愛いワンちゃんにしか見えない。


「ウォーーーン!!」


 遠吠えとともに馬車から一定の距離を保っていた狼たちが一斉に襲いかかった。

 おじさまも声を上げて気合を入れたようだがどうにもならないだろう。


 目の前で人が死ぬのも後味が悪いので、仕方なく“活性”を発動する。

 蜂ははスローモーションぐらいだったけど狼は殆ど止まって見える。

 それだけ蜂が速かったということか。

 あの虫どものランクはどれぐらいだったのだろう。

 フルーリルは強いと言っていたからAくらいはあるかもな。


 能力なしでこの世界に来てたらと思うと寒気がする。


 刀を具現化してちゃっちゃと全部の頭を落した。


 世界樹の森では弾け飛ばすか特異点を使わないと死骸が残っていたのに、狼たちは光になって魔石だけ綺麗に残った。

 この世界では魔物を倒せば消えるのが普通なのかもしれない。


 なんだったんだよあの森は……

 俺の苦労を返せ!


「お父様!ご無事ですか!?」


 森の理不尽さに嘆いていると馬車の中から聞こえていた声の主が出てきた。

 なかなかの美少女だ。

 肩まで伸びる亜麻色の髪で修道服みたいな服を着ている。

 年は俺と同じか少し上くらい。

 体にあまり凹凸がないのは特に気にしない。


「あ、ああ。なんとかな」

「はぁーよかった!危ないところを助けていただきありがとうございます!おかげで父まで失わずにすみました!」

「本当にありがとうございました。実は先日妻が魔物に襲われてしまって……危うく娘を1人にするところでしたよ」

「そ、そうなんですか…。それはお辛いでしょうに……」


 よせよおっちゃん

 空気が重いよ。

 文字で表すならズーンだ。


「ああ、すいませんこちらの話ですのでお気にならさらずに」


 なら最初から話すなよ。

 嫌でも気になるだろ……


「ところであなたは何者ですか?見た所魔導師様とお見受けしますが、それにしては随分とお若いですし……」


 またそれか。


「あのー、魔導師とは?」

「ご存知ないのですか?魔導師とは国に認められた魔法使いのことです。多くの技と力を持ち合わせたものだけがなれると言われていて、その実力はBランクの魔物をも凌ぐと聞いています」


 娘の方が丁寧に教えてくれた。


「なるほど……。してなぜ俺を魔導師だと?」

「魔導師になると国から得意な属性の色を模したローブを授けられるのです。てっきりそのローブがそれかと。それに魔導師以外そのようなものを着る人はいませんので」


 なんで見られるのかと思っていたらそういう理由だったのか。

 てっきり有名人になっちゃったのかと思ったよ。

 そりゃ魔導師しか着ていない服を着てたら目立つわな。


「そうだったんですか。自分は魔導師ではなく旅の者です。この服は人からの貰い物でして、魔導師に関係など一切ありません」


 自分で作ったなんて言ったらめんどくさそうなので適当にごまかしておく。


「旅のお方にしてはお強いですな。ブラッドウルフを一瞬で倒すなんて普通ではありえません。さぞ有名な武人なのでしょう?」

「あー。そんなことはありませんよ……?腕が立つのには少々事情がありましてね……」


 悪魔に力を貰ったなんて言えない……


「事情、ですか?気になるところではありますが、命の恩人が嫌がることですし、詮索はできませんね」


 おー、おじさまいい人。

 ふと腕と頭の傷が目に触れた。

 噛み付かれたのか肉が抉れている。


「そうしていただけるとありがたいです。それで、少しじっとしててもらえますか?」

「え?」


 刀を消して傷口に手をかざす。

 治れー、治れー、と少しの間念じるとすぐ傷は完全に塞がった。

 初めて人に試したけど大したもんだ。


「な、なんと!?これは回復魔法ですか!?やはりあなたは魔導師様なのですね!?」


 おじさまが驚き半分、興奮半分で言ってきた。

 娘も目を大きく見開いている。

 説明すんのも面倒だしここは御暇させて貰おうかね。


「さあ、どうなんでしょう?いずれまたあったらお話しましょう」


 演出じみたセリフを吐いてからステルスを使った。


「き、消えた!?」

「本物の魔導師がここまでとは!!」


 おじさまは何か勘違いをしていらっしゃるようだが、もう会うこともないだろうし別にいいや。



 よし、今度こそ本当に王都へ向かうぞ!


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