修学旅行@東京
楽しい修学旅行で、裕一は東京の家のゴタゴタに巻き込まれます
今日から四泊五日の修学旅行。
僕は、本州では東京以外、知らないので、ワクワクしてる。
朝早くに家を出、飛行機で羽田空港に到着。そのままハトバスで
東京の名所というのを巡った。見慣れたものもあったけど、初めての場所も
あったりして、”お前、本当に東京人だったのか?”なんて、疑われた。はは
秘書の都築さんが、お手伝いのテルさんと上野動物園や花屋敷に
連れていってくれたけど、残念ながら、詳しく覚えていない。
なにせ、僕が小学生の時だ。
中学生になってからは、練習が忙しく、その時の修学旅行は イタリアの
田舎で音楽合宿だった。
次の日は、TDLで自由行動。といっても、あそこは平日でも人気のアトラクション
は、待ち時間を覚悟しないといけない。
夜の電飾パレードは、とても綺麗だけど、その時間前に集合して
宿に帰る事になっている。
それにしても、大阪ではUSJに行くのだし、遊び放題の修学旅行だ。
担任は、渋い顔をしながらもしみじみと、
「まあ、ウチの学校を卒業して、何人、USJやTDLに、再びくることが
出来るか、わからないしな。楽しめるのは今のうちだけだ。
社会人になって働きだすと、ヒマがないもんだからな」
TDLは、予想外に楽しかった。
待ち時間があっても、アトラクションは楽しかったし、いろんなショー
を楽しんだ。普段、話すことのないクラスメート話たり。
ただ、暑かった。こんなにも本州の10月は暑かったんだ。
この日も東京泊。
僕らの泊まってるホテルに、都築さんが訪ねてきた。
僕は、最終日、帰らずに東京の家に泊まるので、その事かな?
(西師匠のレッスンがあるので)
「やあ、裕一君。修学旅行中、本当に申し訳ないんだけれど、実は
お願いがあるんだ。
今、奥様、君のおばあ様が東京に帰ってらしてね。
俊一さんの部屋が、空になってることに、たいそう驚いてるだ。というか
かなりのご立腹でね。社長や僕が事情を説明しても、納得してくれなくて。
裕一君からも、説明してくれないかな?君はおばあさまとは、仲が良かったと
思い出したんだ」
・・・ちょっと僕は腹が立った。お世話になってる都築さんだけど。
僕は、東京の家を出て、俊一叔父さんの部屋が整理されるのは、聞いても
いないし、相談ももちろんされてない。
大人たちの判断だ。それに、遺品の大事なものは、伊豆のおばあさまの所
送ったといってたじゃないか。
残ってたものは、楽譜と予備のチェロ、それを僕が引き受けただけだ。
家では、居間でおじいさまとおばあさまが、喧嘩していた。
あの物静かなおばあさまが、目の色をかえて、くってかかっている。
僕は、声をかけた。
「あら、裕一。こんなに遅くまでどこへ行っていたの?
俊一の部屋が大変なのよ。何もなくなってる。あの子が帰ってきた時困るじゃない」
僕は、あれ?って感じでおじいさまを見た。おじいさまは、”うん、そうなんだ”
って目で合図。おばあさまは、僕がすでに東京の家から出て行った事を覚えてない。
まだ、この家に住んでいると思ってる。
僕にどうすれというんだ・・
とりあえず、おばあさまに話しかけてみる。
「おばあさま、伊豆の別荘のほうに、俊一叔父さんの荷物を移したんじゃ
ないんですか?ひとつ残らず?」
「え?あらそうだったかしら・・いえ、違うわ。チェロはあっちにないもの。
俊一の使っていた楽譜たてとか、本棚とかもないのよ。おかしいじゃない」
「そうなんですか?じゃあ、行ってみましょうか?」
僕は、おばあさまと二人だけで、俊一叔父の部屋に行った。
俊一叔父の部屋は、当然、何もない。ソファには白い布がかぶせたまま。
机も埃をかぶっている。
「おばあさま、覚えてますか?僕と俊一叔父がエルガーの「愛の挨拶」
を弾いたときの事」
「ええ、もちろん。あの時は、俊一、帰ってきてたのよね?」
僕は、はいとも、いいえ とも答えずに続ける
「あの後、俊一叔父と話す事があって、今度の演奏旅行は長くなりそうなので、
この部屋のものは、片づけてほしいって頼まれたんです。叔父さんに。
大事なものは、伊豆に持っていって、後は捨ててほしいって。
僕と都築さんが、その作業をしたんです。
チェロはメンテナンスをしてもらって、そのまま預かってもらってます。
楽譜たては、僕はわからないですけど、後輩の子に譲るって話てましたよ。
本棚類は伊豆にもあるから、リサイクルに出すよう、都築さんに言ってました」
「ええ!そうなの。私、ちっとも知らなかった。だめね。息子の事なのに。
で、俊一はいつ帰ってくるのかしら。」
「さあ、確か中南米の国々で演奏活動しながら、ボランティアで学校での演奏会も
するとかで、かなりの期間みたいですよ。今回は」
「ボランティアなんて、俊一らしいわ。治安の悪いって聞いたから心配だわ」
「大丈夫ですよ。俊一叔父さん、見かけによらず強いじゃないですか」
僕のついた大嘘で、おばあさまの機嫌は、とりあえず治った。
その間にと、テルさんが来ておばあさまを寝室に連れて行った。
後で打ち合わせしておかないと・・・
それにしても、このくらい、都築さんなら、うまく切り抜けそうなはずなんだけど。
「すまんな、裕一。よびつけたりして。」
「おじいさま、おばあさまは、僕の嘘を簡単に信じてくれましたよ。
”俊一叔父さんに頼まれてやったんだ”って。
僕を呼ぶまでもなかったんじゃないですか?」
「いやいや、申し訳ない。
紀子が、また、俊一がまだ生きてると思い込むようになってな。
昨日になって、急に伊豆の別荘から、東京に帰ると言い出して聞かない。
放っておくと、癇癪を起してワシやテルさんに殴りかかってきたんだ。
紀子は心臓が弱ってきてるから、これ以上、暴れさせるわけにもいかず、
とりあえず、連れてきたが。俊一の部屋の事を失念しておった」
「都築さん」
「裕一君・・紀子奥様は、私の事をすっかり忘れたようで、
”どちら様でしょうか”っていわれたよ」
ふm、さっきおばあさまと話した時は、わかってるようだったけど。
おばあさま、認知症を患ってるのだろうか
ホテルに帰って僕はぐったりだった。昼間は楽しかったTDL。夢の世界から
一気に、現実の難問に直面した急転直下の一日だった。
思えば、冷や汗ものの嘘だけど、俊一叔父に頼まれたってところは、本当だ。




