ショパンエチュード 25-3を再特訓
文化祭を明日に控え、僕は学校を休んで、釧路の八重子先生のレッスンへ
行った。学校には理由は話してあるけど、他のみんなに特別視されるのもいやだな。
レッスンは、まず、バッハの平均律集1集の、1、2、5,6,10、11番
の6曲。音中時代に練習した曲だ。師匠の方針だったのか、1,2集、練習は
ごちゃまぜで、曲を選んでた。
僕は、もちろん練習してきてるので、レッスンでは軽くいけると思ったら、
かなり、ひっかかった。
「あのね。裕一君。わかってると思うけど、前奏曲+フーガで1曲なのよ。
もうちょっとバランスとか工夫しましょう。
後、2番の前奏曲は、私はfで弾ききった。いろいろ工夫しながら、自分でベスト
と思える弾き方でやってみてください・・・・」
後は、フーガの各声部の弾き分け、主旋律以外でも出したい旋律・・etc
「前奏曲、手を抜いたでしょ?10番とか11番とか。曲がぼやけて聞こえる。
簡単だけど、フレーズの節目になる音に注意を払って」
僕は思い上がってたな。バッハは何度やっても、底がしれないな。
かあさんが、シャコンヌで苦労して悩んだのも、わかる気がする。
次は、ショパンのエチュード、25-2と3
案の定、新しい曲の2ではなく、引き続いて練習中の3番で、時間をとられた。
「ちょっと視点を変えましょう。この曲はどんなイメージか、
思い浮かべて、弾いみましょう。試しに、”子猫が遊ぶ様子”っていうのは
どうですか?これは、私のイメージですけど。」
あ、確かに、それっぽい。途中、母猫の所に帰って甘えてたり、最後は寝てしまったり、
情景が目に浮かぶ。
そうすると俄然、弾きやすく、弾いてても楽しくなってきた。
「注意するのは、これは私のイメージで、裕一君なりのイメージを持つ
ってことかな。もちろん、どんな曲でも、この方法が当てはまるわけじゃない
から、無理にしないことが肝心。」
さて、最後のベートーヴェンソナタは、最初は、繰り返しなしで
1楽章を弾いた。最初、譜面は簡単に見えたけど、結構、弾きづらい。
「音は、出せてますってとこなんだけど・・」
が~~ん、もっと練習したつもりだったんだけど。
・左手、そこ音が、重なって聞こえないように、気分はスタッカートね
・長いレガードだけど、この旋律を出して”
・そこは、pに落とす、記号を見落とさない
etc・・・
結局、1楽章だけで終わってしまった。
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文化祭は天候にも恵まれ、楽しかったけど忙しかった。
クラスの劇「ヤンキー赤頭巾ちゃん」は、去年と違い、スムーズに練習
が進み、本番もいけてた。”祖母からお小遣いをせしめようとする赤頭巾と
祖母と仲良しな狼が、天然ボケでうまくかわしていく。
大爆笑はないけど、クスっと笑える話だった。
脇坂って、本当、文才あるかも。まあ、当の本人は、責任は果たしましたって
感じだったけど。
美術部の展示を3人(僕、脇坂、青野)で見に行った。
えっと後藤さんの作品はと・・あった。うん?デッサン?
石像をいろんな角度から書いたデッサンが、数枚展示してあった。
たまに、石像の肩に布がかけられていたり。こんな特訓してたんだ。
後藤さんは、残念、留守だった。
「裕一君は、やっぱり後藤さんの事、好きなんですね」
冷静な脇坂にまで言われるとは・・
「でも”好き”の1番目じゃない。1番はダントツでピアノなんでしょう。
だから二人の仲は、お友達のままですね」
はい、その通りです・・
青野が、な~んだつまんねえ奴って顔で僕を見た。青野、まるわかりだぞ。
文化祭が終われば、定期テスト、実力テストと待っている。
で、3人一緒に勉強する話になった。文化祭も後片付けをしてるときに。
イスや机などをとりあえず戻し、ゴミになったものをまとめ、ひと段落した所だった。
今回は、山崎も一緒にと(本人の意向無視)提案。
「あれ?山崎って小さな妹いたよな?どうするんだ?」僕らはともかく、青野は
勉強してるうちに、美里ちゃんと真剣に遊びそうだ。
「今回は、ウチでしましょう。たいしたおもてなしは出来ませんが。
コーヒーくらいなら、出せますから」
話はまとまった。青野は、山崎の妹・美里ちゃんに会いたいようだった。
末っ子だから、年下の妹か弟が欲しいって、青野、言ってたな。
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勉強会当日、ポテチなどのお菓子や飲み物を持参して、
僕と山崎浩之は脇坂家に行った。(青野は、すでに行ってる)
脇坂の父は、町立の病院の医師で、家も病院が借り上げた一軒家だった。
脇坂の両親は脇坂が小さい頃に離婚して、この家は男二人暮らしだ。
家の中は、整理整頓され(っていうか物がない)綺麗にしてあった。
殺風景な感じのするのは、植物や絵とか、そういう飾りっけがない
居間だったからだ。脇坂らしい居間ともいえる。
山崎が、”俺なんか参加していいのか”と心配してたが、
青野も僕も、今回は全然、勉強してない。はは・・脇坂のお荷物になるかも
2時間勉強して、ひと段落し、山崎が看護師の学校について、質問してきた。
「それほど、難しい試験ではないと思いますよ。問題は実際働きだして
からですね。過重労働当たり前で、力仕事の上、人間関係も大変なようです。
看護師になる人は多くても、やめていく人もそれより多いのが現実だそうで」
なんとなく場が暗くなった所で、青野が笑い飛ばす。
「はは、ウチも当てはまるな。なにせ生き物相手だから、まとまった休みを
とるには、酪農ヘルパーさんを頼まないといけない。




