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バッハ クラヴィアのための平均律集

家に戻り、お土産をばあちゃんに渡した。

美里ちゃんには、和紙の紙が表面に張ってある小箱、中にはお菓子を入れてある。

美里ちゃんは、たいそう、喜んでくれた。お礼を言い、部屋に

大事そうに持って行った。

山崎浩之から、礼を言われた。たいしたもんじゃない と言いかけて躊躇した。

”美里ちゃんが喜ぶ顔を見るのが、僕はうれしいから”と返した。


ばあちゃんに、東京で母がいた事と、事務所の話をした。


「わたしゃ、詳しい事はわからないんだけど、東京の会社は、

そんなに危ないのかい?」

急に立ち退く というと、そう想像するだろう。


「あとで、聞いた話だけど、母の事務所は、もともとおじいさま個人の所有する

もので、それを、今年、系列の自分の会社に売ったそうなんだ」

ビルを買うぐらいだ。会社の景気は悪くはないのだろう。


ー・--・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・--・

夜のピアノの練習は、バッハの平均律集にした。

これから6曲、選ばないといけない。クラヴィアのための平均律曲集は、

バッハが、すべての調(24種類)で作曲した、もの。2集で48曲ある。

1曲は、前奏曲とフーガからできていて、対位法の集大成 だそうだ。


ピアノ弾きにとって、ベートーヴェンのピアノソナタが新約聖書なら、

バッハの平均律集は、旧約聖書にあたり、かならず勉強する曲集だ。

僕は、音中時代に勉強はしたけど、全部はさらいきってなかった。

で、八重子先生についた時に、そのさらってない曲は練習し終え、

今は、練習してないんだ。


西師匠には、中学時代にさらった曲から持っていこう。

一度弾いたからって、また、すぐ弾けるってわけじゃない。

時間がたつと劣化する。


僕は、1集の1番から、2週の24番まで弾きとおしてみた。

やっぱりだ。八重子先生に習った曲は、弾けてる。

でも、中学時代のものは、全然だった。特にフーガがひどかった。

声部によって、弾きわけなければいけないのに、音をなぞるだけで

精一杯のもある。あちゃ~、参った。明日から、特訓だな・・

ー・--・--・-・-・-・-・--・・-・-・-・--・-


学校では、文化祭の準備が始まった。

今年は、クラスでは、”劇ではなくミュージカルをしたい”とか盛り上がってる。

今、話題のミュージカルに傾倒したのかな。

脇坂が、冷静に、”ミュージカルをするには、台本、セット、衣装、役で出る人は

人前でダンスをし歌わなければいけません。出来ますか?”

クラスは、シ~ンとなった。


漫才、コント、いろいろ出たけど、決まらない。

脇坂が、いっそ外国の童話にでもしますか?と意見を出すと、もう議論に疲れたのか

それに決まった。詳しい内容とシナリオは脇坂にお任せだって。

無責任な話だよな。


「脇坂、大丈夫?シナリオって一番大変なのに。僕にはいい案がなくて

助けられなくてごめん」

脇坂は、医大を目指す”すでに受験生”だ。

「しょうがないです。僕があそこで何もいわなくても、話がくるのは、目に

見えてましたので。それに、案が全くないわけでもないです。夏季集中講座合宿の時に

頭休めに、考えてました。”ヤンキー赤ずきんちゃん”ってのは、どうでしょう?」


僕は、題名を聞いただけで、笑い出してしまった。いい、それ絶対受ける。

脇坂、本当は医者なんかより、文芸とか向いてるんじゃないかな

「脇坂先生、今度の新作を楽しみにしてます」

なんておどけたら、では、監督、よろしくお願いしますときた。


青野が、修学旅行の栞の話を持ち出してきた。

京都見物があるのだけど、見物するお寺とか名所とか、詳しく書くべきか?って

脇坂が、そうですね・・と考え込む。

”京都は名所・旧跡の多い歴史のある都ですからね。今は、スマホで検索すれば、

なんでも調べられますから、あまり必要性を感じないです”

青野、勇んで立候補した役だけど、教師の意向もくむんだろう栞、は面倒な仕事だぞ。


ー・-・-・-・-・-・-・-・--・・-・-・-・-・-・-・-・--・-

夜の練習はショパンのエチュード25-3と25-2の譜読み。

25-3は、リズム練習、片手だけ練習、いろいろ試した。

結局、重いっていわれるのって、リズムにのりきってないんだな。

西師匠の弾く3番は、楽しそうに手が動いてる、もちろん柔らかくね。

僕は、まだ硬いんだ。だからノリがわるい。


25-2は、3に比べると易しいそうだけど、指使いが面倒そう。

ゆっくり指を確認しながら譜読みを進めた。


練習を終えたころ、山崎がはいってきた。コーヒー持ってきた。


「浩之、気を遣わなくていいよ。」

「うん、いや、裕一に相談したいことあってな。卒業後の進路なんだけど、

俺、成りたいものが出来た。でも、そこは、専門学校でて資格とらないと

いけない」


学校云々はともかく、希望ができたならいい。


「俺、看護師になりたい」


いかつい顔のガッチリ体型の山崎が、ナース服を着てる姿が目に浮かんだ。







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