東京でのレッスン
東京へレッスンに行った裕一。相変わらず、厳しく指導されてます
文化祭の準備がはじまる前の日、
僕は東京の西師匠の所にレッスンを受けに行った。
通いなれた西師匠の家は、普通の住宅街の一戸建て。周りの家より少しだけ
広めの庭と、音楽室がついている。
この音楽室は、小さなコンサートも開けるようになっている。
さっそく、レッスンが始まる。今回はベートーベンはなんとかなったけど、
モーツァルトは、いまだ、霧の中だ。
最初はショパンのエチュード25-3から。
”もっと裏拍の音に注意して、それが旋律になってるから”
”全体に重い、音のハネる感じがほしい”
”オクターブ上の音は、少し弱くなるけど、音はしっかり”
注意されたら、そこでストップ。先生の弾く音を聞いて
なんとか、そうなるよう弾き、OKがでたら先に行く。
ほとんどの注意は、なんとかなった。
ただ、音の重いのだけは、レッスンでは克服できなかった。
これは、速いテンポで軽く弾く 努力をしないと
モーツァルトのソナタは、弾いた後、先生にため息をつかれた。
「裕一君、この曲は、出来てる。けど音色がいまいちか。
練習してるベートーベンの影響かな。モーツァルとにしては、重い。
もっと軽く一音一音が粒のように聞こえてくるように。」
僕は、ペダルは最小限にしながら、レガートのないところでは、
切り気味に弾いてみた。
それで、やっと先生のOKがでたけど、〝花マル”ではなさそう。
ベートーベンのソナタは、細かい注意をもらった
弾き方で、テクニックというより、例えば”速いパッセージはこの音にむかってる”
とか、右と左のつながりとか。
主に、2,3楽章で注意を受けた。メヌエットとミノーレ。
速い左のパッセージに注意が行きがちだけど、旋律と和音は、
しっかり出すように、注意された
3楽章は、レガードと 左手の和音で速く動くところで、軽い和音でと
注意された。その都度、弾き直していくうち、曲の全体像がクリアになった。
最後に1楽章から通しが、マルはもらえなかった。
注意された所が、直ってない所が、時々、出るらしい。
注意・指導されて、一度で直るなら、先生も生徒も苦労しないよな・・
ショパンとベートーベン、今の曲の仕上げと、と新しい曲の譜読みが
課題に出された。ベートーベンソナタ2番。
モーツァルトはなかったので、ホっとした。
ショパンは、エチュード25-2。”羽のように軽く弾く”って解説にあったけど・・
帰り際に、先生から、”モーツァルトのソナタは、何度でも弾くように”と
言われた。それと、バッハの平均律曲集をやってるか?と聞かれ、
笑ってごまかそうとしたけど、無理だった。
先生、すみません。実は、八重子先生の所では、やったりやらなかったりで。
先生が、「バカだね。裕一君は。音大の受験曲によくあるじゃないか
次までに、最低、6曲、暗譜で弾けるようにして持ってくること」
課題曲が増えた。
ー・-・-・--・-・-・--・-・-・-・--・-・-・-・
東京の家に帰ると、明かりがついていた。
今日は、都築さんと祖父は出張でいないから、誰もいないと思ってた。
自室にもどり、夕食はコンビニで調達しようと思って外に出たら、
音楽室に明かりがついてる。まさか泥棒?
確かに、貴重品はおいてある。でも、グランドピアノなんか、盗めないだろう?
あ、でも、泥棒は明かりつけないか・・
僕は、家の中に戻り、本当に恐る恐る音楽室を少しだけ開けた
かあさん!アリサさん!もう、びっくりだよ。
「かあさん、どうしたの?すぐ海外で演奏会って、言ってじゃないか」
驚ろかされたので、プンっとした言い方になった。
「あら、裕一。そっか、今日は西師匠のレッスン日だったのね。
で、今回は、モーツァルトを攻略できた?」
う・・痛いところをついてくる・・
「ぎりぎり合格点。それよりかあさんは、東京にいて大丈夫なの?演奏会は?」
「心配しなくても 大丈夫よ。何か大きな災害が開催地であったらしく、向こう
から、キャンセルしてきたわ。」
そういえば、音楽室の中が少し変わってる。事務デスクと電話、PC&プリンター。
部屋の半分が事務所っぽくなってる。
「事務所は、東京に置くことで決まり?」
父は、ガッカリするだろうけど・・
「まだ、未定。お父様の会社の関係で、オフィスビルの部屋をすぐ出ることに
なったのね。で、ここが仮事務所。NYの雅之さんの事務所に入れてもらえるか
どうか、結果待ち。で、とりあえず、自分のスケジュールをアリサと見直し
してたの。」
おじいさまの会社、そんなにせっぱつまってるのかな。
その夜は、かあさんの行きつけの洋食屋で夕食。
一人分、2000円もかからなかったけど、
僕は、三度の食事がままならないといった時の
山崎浩之の顔が 浮かんだ。




