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両親の口論の元。フランクのバイオリンソナタ

夫婦がともに音楽家であることは、デメリットもあります

両親の休暇が、明後日に終わり、それぞれ東京、NYに戻るという夜、

両親は、派手な論争(口喧嘩?)をした。


僕の練習中に、二人が険悪な雰囲気で音楽室に入ってきた。

かあさんが、楽譜を持って指さし、”これは失礼だ”とか、大声で父に訴えてる。

そういえば、前に父はCDを聞きながら、楽譜に書き込みしてたっけ。


じゃあ、父が悪い。


音楽家の卵めざしてる僕ならともかく、かあさんは、演奏活動中のプロの

バイオリニストだ。その楽譜はかあさんの演奏のエッセンスがつまってる。

かあさんの師匠が、指導のために書いたというならまだしもだ。


喧嘩の原因になった楽譜は、フランクのバイオリンソナタだ。

僕でも知っているくらい有名な曲だ。

今は、その2楽章でもめている。


「だから、ここ、”切るように”って自分で書いてあるのに、CDでは、

キレが悪かった。だから親切で書いただけだ」

・・・いや、それは、余計なお世話だと思うが・・

「ここは、まだ余韻を残す切り方なのよ。まだ迷ってる心情を表わすのよ」

かあさんは、バイオリンを取り出してその部分を弾いた。

「いや、ここは、断定するような切り方でいい。自分の置かれた

つらい現状を羅列してるんだ」


・・これは、無理だと思った。個人の解釈や好みの問題。

ついでにいうと、相方になったピアニストの弾き方も関係してくる。

あ、そうか。この曲、フルートでも吹けたっけ。父にもこだわりはあるんだ。


それでもな~。夫婦とはいえ、父はやりすぎだと思うが


「父、もし、父のスコアに、例えばコンマスとかが、”ここはもっと速く”

とか、書いたとしたらどう?むかつくでしょ?もうちょっと冷静になって。

僕でもすぐそのくらいは、想像つくのに、どうして」


父は 黙ってる。わかっててやったんだ


「・・・・悪かった春香・・でも、曲想をもっと、派手にすれば、もっと海外での

演奏会のオファーも増えると思ったんだ。NYに事務所をすえるなら必要だ」

なにげに、失礼な父の言い方だ。かあさんは、一人前。過保護っていうやつ?


「海外でのオファー云々より前に、まだNYに行き、決定じゃないから。

秘書のアリサとも、もう少し相談が必要だし、だいたい、雅之さんの事務所の意向は

どうなの?柿沢マネージャーは、どう考えてるの?」

母は、手放しでNYにはいけないと。

そうだよな、普通。スケジュールの調整とかもあるだろうし、移動に時間と

お金がかからないよう考えなくてはいけない。


父がまた、無言になった。かあさんを受け入れるかどうかは、

事務所でまだ未決のようだ。収入も増えるが、経費も二人分かかるだろうし。

かあさんの傍にいたいために、父が独走してたようだ。


口論よりも嫌な空気が流れてる時、山崎がコーヒーを人数分持ってくてくれた。

サンキュー。山崎、助かったよ。


「・・柿沢とは、僕が話をつけます。そちらでも、NY行、もっと急いで検討して

ください。お願いします。春香、楽譜に書き込みを入れたのは悪かった。

謝るから。僕は、春香と一緒の事務所になるのが、長年の望なんだ」


父は下出に出て、かあさんに懇願した。

父もかあさんにベタ惚れだね。


山崎が、居心地悪そうに顔をそらした。

「気にすることないよ。両親はまだ新婚気分なんだ

見てるほうは、やってられないけどね。それより、今日は1学期の復習を一緒にしよう」


僕は、山崎と復習を始めた。

山崎浩之は、1学期は、あまり勉強していないと申し訳なさそうに、言った。

締め出されたり、暴力を受けたり、いろいろあったからね。1学期は。

浩之は、僕がそう慰めた事をきっかけに、ボツボツと家庭の不満を

漏らし始めた。3食食べる事もままならなかったそうだ。

残念ながら、僕は想像も出来なかった


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-

両親は、仲直りをして、また、二人で仲好く、帰っていった。


「やれやれ、大騒ぎしながら帰っていったね。今回は、二人一緒で、

さすがに、疲れたわ。まあ、へんなものくっつけて来た去年よりは、

平穏だったかもしれないけどね」


それでも僕と浩之,美里ちゃん、3人はもう学校が始まっているので、昼間は

祖父母だけになって、ちょっと寂しいんじゃないかな


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・--・・-

学校では、僕ら2年生は、これから続く行事の事で話がもちきりだった。


文化祭、 定期テスト 修学旅行 と、立て続けだ。

話題の中心は、修学旅行だ。今年から大阪USJで自由行動という夢のような

日程が組まれ、盛り上がっている。


やれダイハードのアトラクションだの、新設されたハリー・ポッターの施設とか

皆、ガイドブックまで持ち込んで、ワイワイやってる。

脇坂は、その前にテストがあるのに、とぼやきながら、見学日程に入っている

京都の寺院などを、調べていた。(半分は、受験勉強だな)

青野は、さっそく”修学旅行の栞 作成委員”に立候補。


そうそう、山崎浩之の修学旅行の代金は、支払われてる里親への

養育費で、なんとかやりくり出来そうと、祖父が言っていた。

浩之、きっと喜ぶだろう。でも、病院の母親も心配で行けないとか言いそうだ。



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