9/210
祖母と二人で
北国の春は、本当に遅い。
5月のGW週間が明日から始まるというのに、居間の窓から、雪が降っているのが見える。
明日からの4連休に東京のピアノの先生の所に行こうかと、僕は迷っている。
やっぱり僕は音大受験すべきなんじゃないか?
自分のピアノの欠点に、目をつぶって逃げたままでいいのか?
なにより本番でパニックで指も体も動かなくなる自分を治さないと、社会で通じないんじゃないか?
グルグルと僕が考えてると、祖母がお茶を持って座った。
「あ、おばあさま。ありがとうございます」
祖母は、プっと吹き出し大声で笑って言った。
「ははは、”おばーちゃん” で私はいいよ。おばあさま なんてガラでもないしね」
祖母・山本栄子は、東京の祖母と違い、気さくで陽気な人だ。
「ほら見て、とーさんの雅之が送ってきたお前の写真だよ。それと都築さんとい秘書の方も送ってくれてたんだよ。」
祖父の秘書の都築さんとお手伝いの照子さんには、たまに僕を遊びに連れていってくれてたのだ。写真を見ると、小学生の僕が、笑ってる。これは、初めての動物園で楽しかったのを覚えてる。