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山崎兄妹の受難2 ショパン エチュード 25-7

山崎からのSOSメールが来たのは、もう、午前1時近い。祖父母も両親もとっくに寝ている。

僕は、ちょうど勉強にキリをつけて、寝るところだった。

玄関からソっとでると、外で山崎が眠ってる美里ちゃんをおぶって、立っていた。


家の者を起さないように、僕は山崎兄妹を音楽室に案内し、

美里ちゃんを、ソファーに寝かせ、毛布をかけた。

山崎は、正座した。


「上野、本当に申し訳い。もしかして、おきてるかなと。

上野が寝ていたら、公演で野宿しようと思ってた。俺は構わないけど、

美里が風邪を引くと大変だし。本当に助かった。ありがとう」


山崎は深深とスポーツ刈りの頭を下げた。

僕が、まだ起きていてよかった。

山崎が言うには、あの後、事の次第をしった母親が怒り来るって、家の中で

酒を飲んで暴れたそうだ。直接の暴力はないものの、食器などの物を投げつけて

くるので、逃げてきたのだそうだ。

夜にそんな騒ぎを起したら、さすがに隣近所から苦情がくるだろうに。


山崎兄妹は、僕の止めるのも聞かずに、家の者がおきる朝早くに、音楽室

のベランダから出て行った。

僕は、中途半端な時間を、楽譜読みでつぶし、そのまま寝てしまった。


当然、ばあちゃんに怒られたのだけど、じいちゃんは、僕をじっと見てる。

嘘はついてない。言わないだけだけど、見透かされそうだ。


「裕一、昨日の夜、何かあったのかな?」

「何もないです。ちょっと勉強してるうちに寝ちゃって」

「・・これが落ちてたんだ」


それは、苺の飾りのついた髪留めだった。子供用と一目でわかる。

美里ちゃんの落し物?おんぶしてたから、なにかの拍子でおちたのか

その時、僕は微妙に、あせった顔をしてたらしい。祖父は見逃さなかった


「裕一、山崎兄妹の事で何か隠し事があるね。ちゃんと言いなさい。

あの兄妹の問題は、お前では解決できない」

祖父の断定した言い方に、僕は降参し、夜中の出来事を話した。

”予想はしてた、裕一が起きていてよかったよ”

じいちゃん、予想してたんだ。


学校に出かける間際、山崎から電話がきた。

僕にでなく、じいちゃんにだ。なんでも母親が腹痛であまりに苦しがるし

様子がおかしいので、救急車で病院へ行った。母親はそのまま入院する事になった。それに際し、

山崎だけでは、いろいろ不都合があるようだった。


病院は、入院や手術となると、保証人など面倒な手続きが必要で、もちろん、

未成年で就職していない山崎には無理。

保護者の父親は行方不明で、兄は、本州にいる。他の親戚は函館に一人いるだけ。

山崎は、頑張ってるけど、どうしても大人でないと、出来ない事もある。

きっと、もどかしい思いだろう。


・-・-ー・-・-・-・-・-・-・-・--・・-・-・-・-・-・-

学校では、僕は授業も部活も上の空だった。


脇坂に心配された。

「裕一君、どうしたんですか?家族のどなたかが病気かなにかでしょうか?」

脇坂、するどい、確かに病人は出た。

僕は、詳しくは話さなかったけど、山崎の母親が入院した事だけ話した。

「山崎君も、いろいろ大変ですね。新人戦どころではないでしょう。僕は

ノートをとってあるので、あとでコピーして山崎に渡しておきます」


家に帰ると、居間には誰もいなくて、両親が音楽室にいた。

祖父母は、山崎の事で病院にいったままのようだ。

夕食、作らないと。僕はかあさんと一緒に、買い物に出た。

かあさんは、料理を知らないとえばってる。しかたないので僕は鍋物セットを買った。

野菜と魚介類がセットになっているので、これなら僕にでも作れる。


祖父母は、美里ちゃんと山崎と一緒に帰ってきた。

詳しい事は後にするとして、とりあえず、夕食の仕度にと祖母と一緒に台所に立った。


ー・-・・-・-・-・--・・-・--・-・-・-・-・-・--・-・-・-

祖父は、とりあえず、母親の退院するまで、山崎兄妹を預かる事になったそうだ。

まだやることがあるらしいが・・

じいちゃん、あまり無理しないで。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

その夜の僕のピアノ練習は、父にいつもよりボロクソに言われた。

それも、練習開始早々だ。


「裕一、お前、集中してないのが、モロにわかるよ。いくら譜読み段階でも、

ちょっと間違いが多すぎ。ショパンのエチュードでもこれは、難しくはない方

だろう?」

集中できない理由はわかってるけど、僕はどうしたらいいかわからない。

試しに体を動かしてみることにした。陸上部でやってる筋トレやストレッチ。

30分もやってると、さすがに、体が熱くなってきた。

窓を開けて、少し涼んで、また練習を開始した。

・・さっきよりいいかも


ショパン エチュード 25-7は、易しい曲のようだ、テクニック的には。

前の25-1より、指使いは、楽だ。


序奏は、左手の単音の旋律で始まる。

この音域の旋律は、音がにごらないようにペダルを踏み変えてと、あと16分音符

には、デクレッシェンド(音を小さくする)がついてる。ペダルなしだ。

次の左の旋律に上手くつなげないと。


次からは 右手と左手にわけて練習。調がかわる所まで目処にして、

左は、16分音符で動くところは、ppの箇所もあるので、易しくでも何度も、

右手は和音の部分は、音の変わり目に注意を払いながら、上の旋律は、下と

どう対応してるか、とりだしてみたり・・・

最大の山場のfffの左手は、練習のためなんだろうけど、この音形の途中で

右手は調が、変わってる。ちょい面倒か。

テクニックよりも、右手と左手の引き分けとバランスが面倒な曲だ。

後半も似たようなメランコリックな旋律が続く。


エチュードを練習しおわると、父はラジオ体操をしてた。


「裕一が、体を動かした後、集中力が戻ったみたいだから、自分でも試して

みた。体がボキボキいってる。ははは。」

「で、父、集中力はどう?」

「ばっちり、これからスコア読みの勉強が出来る。裕一はかまわず練習しなさい。

集中してるから君の音も聞こえないからね。」


ほんとかよ。僕はその後2時間練習し、音楽室を出たが、父は本当にスコア読み

をしてた。ただし、CDをかけヘッドフォンをつけて。

僕の音が聞こえないのも当たり前だよな。


あくる朝、寝坊した父は、ばあちゃんとかあさんの両方から、怒られてた。

でも、父も勉強時間が必要だよな。


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