山崎兄妹の受難
裕一の部活仲間の山崎の家庭は、ちょっと大変そう。裕一の祖父がいろいろ気にかけてるが、ちょっとしたトラブルに
曽我顧問は、今後の大会の日程について話した。
もう、予定には入ってはいるけど、最終確認だ。
今月末に、新人陸上競技会がある。新人だから1,2年生のみ。
週末の土・日にある。また、泊りがけかな。
1年は、男子の4人が100mリレー。あと、100m200mと、二人ずつ
エントリーすることになった。2年は脇坂が5000m。武田さんは1500m
一つずつエントリー。問題は、山崎なのだけど、彼は、400m か800m
に出ることになりそうだけど、問題は、彼が出場するかどうか・・
今日は、山崎は部活を休んでいる。
メールを送るも返事はない。
1年の女子は、女子マネの千葉さんの勧誘で二人、入ったけれど、まだ、入部して
二日目、二人に聞いても、まだ無理ですという事で、今回は見送った
2年もそういえば、そう部員がいるわけじゃない。僕らマネージャーとしては、
もっと勧誘活動をすべきだった。今更だけどね。
(っていうか、本当は”ジョギング同好会”を作るつもりが、吸収された)
山崎からメールの返事が来た。
やっぱり、週末泊りがけでの競技参加は、無理との事。
美里ちゃんを、一人にしておけないのだろう。
それに、山崎は部活も休みがちになってる。バイトの関係かな。
部活を終え、家でピアノ練習をする前に、じいちゃんに、山崎の事を話した。
じいちゃんは、難しい顔をして、”卒業までもてばいいが”とつぶやいた。
どういう意味だろうか・・
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音楽室では、父とかあさんが、待ち構えていた。
なんなんだ?
「裕一、はい、これ楽譜。ベートーヴェンのバイオリンソナタ「春」ね
前、やったでしょ」
はいはい、覚えてるさ。ろくに練習もさせないで、いきなり伴奏させて、
文句ばかり言われたものな。
あの後、悔しくて、だいぶ練習したけど、最近は、自分のピアノの練習曲で
弾いてない。で、楽譜をくれるというのは、伴奏をやれ ということだ
僕の準備が整わないうち、かあさんはバイオリンを弾き出した。
あわてて、途中から入ったけど。
かあさんのバイオリンの音色は、少しだけ太くなった気もする。
父は、難しい顔をして、母の音を聞いている。
かあさんが旋律を弾き終わると、ピアノの旋律の番なんだけど、
その前に、かあさんのダメダシがきた。
「ここの所、バイオリンは、軽くスタッカートをかけてるんだから、
ピアノも軽く弾いて。あと、ここんとこ、若干、間を空けて欲しい。
弓が間に合わないのよ。息継ぎさせて。」
練習もしてないし、ぶっつけなんだから、そこのとこ、くみとってほしい。
で、今度はピアノが旋律を弾き、バイオリンが伴奏形になる。
ここで、父の横槍がはいった。
「裕一、ちゃんとかあさんのバイオリンの旋律をうけて、同じようにしないと。
ピアノだけロマン派のような音になってる。
春香、バイオリンが伴奏の時、主役はピアノなんだから、でしゃばらない」
この曲は、バイオリンとピアノがほぼ対等だ。
その掛け合いが上手くいかないと、この曲は破綻する。
父の横槍にもめげず、母のクレームに屈せず、自分もわからない事が積極的に聞く
そんな練習を2時間超。
楽しかったけれど、当然だけど僕は、父母の会話にも、母の演奏レベルにも
ついていけなかった。
夕食も終わり、これから練習するぞと、意気込んでるとき、山崎からメール
があった。相談があるから、直接会えないかって。。
困った。メールじゃすまないって話だから、きっと面倒ごとなんだ。
僕はじいちゃんに、事情を話して、車で山崎の家まで送ってもらった。
山崎と美里ちゃんは、家の前でまた途方にくれていた。
締め出しをくったのか?
事情はもっと深刻だった。
よく見ると、山崎は殴られたような後が顔にあり、美里ちゃんの
手足は、よくみるとアザだらけだ。それに前より少し痩せてる。
「母の連れ込んだ男から、美里が暴力を受けてるのがわかったんだ。
それで、抗議したら俺まで殴られた。まあ体力ならこちらのほうが上だから、
向こうも、俺らを締め出しただけで終わったけど」
僕は慌てて、じいちゃんを呼んだ。僕が対処できる問題じゃない。
子供に暴力を振るうなんて、犯罪だ。
じいちゃんは、美里ちゃんを見るなり”警察に行こう”と、二人を連れて
行こうとしたが、山崎が、イヤがった。
「あんな母親でも、あの男が好きみたいだし、頼り切ってるんだ。
いなくなると、母はもう立ち直れないかもしれない。今でも酒びたりの生活
なのに」
結局、山崎の言い分はとおらなかった。
じいちゃんが、”児童虐待は見逃せない”と 警察に行った。
今は打ち身だけで済んでるけど、暴力はエスカレートする。美里ちゃんは、
抵抗のしようがない とのじいちゃんの説明だった
男は連れていかれ、山崎兄妹は家の中に入る事ができ、無事収まった、
かのように思えた。
その日の夜中。遅くに山崎からメールがきた。
”家の前にいる。助けてほしい”




