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母の困惑、父の心配

「いい加減にしな。そろそろ夕食の時間だ。」

ばあちゃんの威勢のいい声で、二人はピタリと口論をやめた。

特にかあさんは、去年、さんざん、ばあちゃんに心配かけてるので、

ションボリしてしまった。

「そういう事は、ご飯を食べてお腹一杯になった所で、音楽室で

二人で話しなさい」じいちゃんが、ニコニコして言い、食卓につく。


夕食後、僕はピアノ練習を先に始めていた。

譜読みが4曲もあり、時間もない。「悲愴」も仕上げないといけない。


両親が入ってきた。さっきと論争をする様子はない。

さっきは、何がきっかけであんな論争になったんだ?


両親が音楽室に入ってきた。論争の続きを始めるのかな。

かあさんが僕に話しかけできた(練習してるのにだ)

「ねえ、裕一なら私の気持ち、わかるんでしょ?あの曲・シャコンヌに、挑む

のは、私なりに、理想もあるのよ、まあそれだけが理由じゃないんだけどね」

父も負けない

「自分の個性というのを、理解すべきだ。君の理想は、さっきからいってるが

ないものねだりだ。なあ、裕一。かあさんは、去年、大変だったんだろう?

入院するとかしないとか」


僕を味方につけて、自分の意見を押しとうそうって、幼稚じゃないか。

どっちも却下だよ。

「母さん、去年、七転八倒して、出来なかった事。この短い休暇で

出来ると思う?去年、その事をわかったんじゃない?

”自分のしようとしてる事は時間がかかるって”。父、母さんの努力を少しは

認めてよ。」


母は、バツの悪い顔をしながら、音楽室から出て行った。

父は自分の意見が、僕に通らないのを不満に思ってるのか、機嫌の悪い顔でソファ

でふんぞりかえった。


僕は、ベートーヴェン ソナタ11番を譜読み始めた。

長調の明るい雰囲気の曲はいい。練習していて、頭の中で旋律がグルグル状態に

になっても、長調なら救われる。

最後まで譜読みもいかないうちに、父の邪魔が入った。

「あの裕一。僕は春香の努力を認めてないわけじゃないんだけど・・

ただ、かあさんの目指してる”シャコンヌ”は、かあさんの個性とは真逆なんだ。

他のかあさんのレパートリーもそうやって、全部見直していくのか?春香は自分の

演奏を否定していく事から始めるのか?

それはあまりに大変すぎて、また、体を壊さないか僕は心配なんだ」


ふー・・・・父、だから、僕には音楽家同士の論争には口はだせないよ。

去年は、練習しすぎのかあさんを一時、”止めた”救急措置だったんだって・・・

「父、僕にはわからないんだよ。僕は音楽家の卵ですらない。ただ、

父が考えてる以上に、かあさんは父を頼ってるから、忘れないで。」

このままだと、また、あの論争の繰り返しになる。平行線のままだ。

僕は、最後の秘密兵器を出すことにした。秘密にしてくつもりだったけど、父のささ

くれた気持ちも、これで少しはよくなるかな。


「去年の知床旅行の時に、かあさん、キーホルダーを買ったんだ。ホラみやげ物やに

よくあるような、名前のついたやつ。かあさんは、”まさゆき”って書いてある

のを買ったんだ。僕は、聞いてみたんだ。父にプレゼント用?って。

そうしたら、自分用だってさ。

持ってるだけで、父が傍にいるようで、心強いんだって。

まったく。倦怠期どころか、まだ新婚なんだね」


僕の言葉に父はいっぺんに心が、春になった。音楽室が春になった気がした。

顔の筋肉の緊張がとけて、だらしなくなってる。頭の天辺にはきっと花が咲いてるだろう。

「ふふふ、そうなんだ、ふふふ。」

ニヤニヤして出て行こうとした。後ろから”かあさんには、この事内緒だから”って

念をおした。論争真っ最中の所に、この話を父が出したら、へんな口論になってしまう。

父の心を一時、フリーズさせただけだ。

ちょっと時間をおけば、二人とも、また新しい考え方もでてくると、

僕なりのつたない、考えだ。


やれやれ・・僕は他の譜読みにとりかかった。ショパンのエチュードは、前の曲より

易しそうに思えたけど、これは、両手のバランスが難しいと、曲の解説にあった

ー・-・-・-・-・-・-・-・--・-・-・-ー・-・-・-・-・-・-・

次の日、朝食では、両親は、母は沈んでたけど、父はフワフワしてた。

ばあちゃんもじいちゃんも、不思議がってた。

これが休暇モードの父の姿なのかもしれないけど。

かあさんが、意を決したように切り出した。


「あのね。雅之さん。正直、私の日本での活動は、父の力によるのも事実。

海外でそれほど有名ではないし、これから営業といっても。。。

かといって、いまさらコンクールに出れるわけじゃない。

NYの雅之さんの事務所に行きたいけど、ここままじゃけないと、思ってるの。

だから、まず、もっと自分の力をつけてって思ってはいる。シャコンヌは別格

としても、他の曲ももっともっと練習しないと。当たり前の事なんだけどね。

今まで、惰性もあったきがする。だから練習時間をもっと増やしたいのよ」


結局、かあさんは、おじいさまの言う、”東京に事務所”案ではなく、NYに

行く事にしたんだ。


ばあちゃんが、そこでストップをかけた。

「そこらへんは仕事の話だろう?うちらに相談事でもないかぎり、それは後に

してくれないかい?春香ちゃん。音楽室ででも二人で冷静によく話しあっておくれ」


朝食が終わり、僕は部活に行こうとすると、祖父が、山崎君はどうしてるかと 

聞いてきた。実は僕も心配なんだ。山崎はバイトしてるらしい。

美里ちゃんは、その間、どうしてるんだろう。

これは、おせっかいだろうか?自分の事も満足に出来てない僕なのに

ー・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

夏休みも後、10日もない。

北海道の学校の夏休みは、冬休みが長い分、短い。25日間。

僕もピアノの練習に時間が充分にとれるのも、後少しだ。

おっと、今週中に譜読みだけでも終わらせないと。

脇坂は、夏期講習からやっと帰って部活に復帰した。


高体連から部活の練習は、とうもたるんでるようだ。

それにカツを入れる意味もあるのだろう。曽我顧問から、話があった







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