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高体連の二日間

高体連がはじまった。山崎が、家庭の複雑な事情でピンチに。どうする裕一

チェロ弾きを目指した女子中学生の幽霊は、イスに座ったままらしい。

彼女は、声がをこらえて静かに涙を流してるだけ。その姿を祖母は不憫に思ってるだろう。

でもその小さな声は、集中してる僕には、聞こえないと同じになった。

(八重子先生の死んだ赤ちゃんの霊の泣き声では、僕はレッスンにならなかった事もあった



父の、

”霊が見えてても、こっちはそれどどころでない状況だから、結局、見えないと同じ”

という主張が、わかった。

僕は彼女を、完全無視する形になった。

こんな僕は、練習中は、薄情で自己中の塊かも。


ばあちゃんは、心配して再度、彼女に話かけようとするのを、僕が止めた。

霊に接することは、祖母にとって負担になるとわかったから。

熱を出して寝込むくらいだ。


僕は練習が終わった時だけ、彼女のために1曲、簡単な曲を弾くことにした。

今日は、ドビュッシーの「月の光」だ。

僕は、この曲を弾くと、静かな夜の庭にいるような気分になる。

彼女もせめて、この部屋の窓から見える月を見てほしい。

少しは、慰めになるといいと思って。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

中間テストの前は、高体連だ。

あっというまに、今度の週末に大会だ。


大会当日、一番、落ち着いていなければいけない林部長が、不安げで落ち着きがない。

彼はリレー選手で、”レース中のバトン受け渡しが、不安が残る”

と、僕にだけ打ち明けた。


「曽我顧問から止められてるのに。自主練習もしたんですよね。

大丈夫です。体が覚えてるもんだと思います」

2年になった僕は、ちょっとタメ口になった。林部長を激賞するため。

部長が不安げだと、リレー選手だけじゃなく、他の部員にも影響する。

女子の坂本副部長は、いつもどおり、淡々としてるけど。


青野は完全復帰して、エントリーミスのないように、手順を確認してる。

脇坂は、今回、10000m。長距離だ。

レース前のストレッチを念入りにしてる。

”膝、大丈夫?”と聞きたくなったが、止めた。不安にさせてはいけない。

脇坂は自分の調子を調節できるし、心配しないようにした。


いざ、競技が始まると、目が回るほど忙しかった。

釧路にしては、天気がよくていいのだけど、寒さに慣れてる部員の中には、

暑くてペースをつかめない者もいた。


大会の結果、男子リレー100m、女子、200mで朝岡さん。800mで坂本副部長

林部長は、200mで、それぞれ決勝に残り、全道大会に出場が決まった。

脇坂は、決勝で5位。来年は期待できるかな。


林部長に、リレー全道大会出場おめでとうと、言いにいくと、なぜかブルブル震えて

いた。まずい。体温でも下がったのか、と思ったら違った。

実は、バトンの受け渡し、危ない箇所もあって、今更ながら恐ろしくなったのだとか。

これで、リレー組み4人は、次まで猛特訓決定だな・・

朝岡さんの全道出場は僕は意外だった。

いい所までタイムはいってたのだろうけど。


「今回、後半、バテなかったからペースを保てた。腹筋・背筋、頑張ったおかげかな」


朝岡さんのそんな言葉が、伝わってきた。

女子で孤立してたもんな。これで、また、元のようになる


ー・-・-・-・ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

山崎と一緒に家にもどった。家には山崎の妹・美里ちゃんがいて、さっそく

嬉しそうに迎えにでてきた。


美里ちゃんは、楽しそうに、”庭の花をつんだ”とか”ネコが遊びに来た”とか

ウチに滞在中の話をしてた。


「あのね。ピアノのお部屋で 大きな楽器を弾いてる人が二人いたよ。

でも、目が覚めたら布団だったから、夢だったみたい」


僕は顔色が変わったかもしれないくらい、びっくりした。

ばあちゃんに詳しく聞くと、

「朝、起きたら美里ちゃんの姿が見えないんで、あせって探した。

靴は、まず、家の中を探したら、ピアノ室で寝てたので、びっくりだよ。

起さないように布団に戻して、夢の中の出来事にしておいたけど。」


家の中ならいい。間違って外に出て迷子になったりしたら、大問題だった。

友達とはいえ、子供を預かるのは神経を使うものなんだな。

祖父母は喜んで引き受けてくれたけど、相当負担だったんじゃないかな・・


僕の居ない間、俊一叔父と女子中学生チェロ修行中さんは、一緒に

チェロを弾いたんだ。

僕も聞きたかったな。そういえば、こっちにきてから俊一叔父がチェロを

弾くのを見たことがない。僕のピアノに遠慮してるんだ。


山崎兄妹は、何度もお礼を言いながら帰っていった。

もう、美里ちゃんを預かるのは無理じゃないかな。

彼女は”見える”体質なら余計に。

ばあちゃんに、そう言うと


「何、いってんだい。確かに今度の事は、わたしらがウッカリしてたけど、

今度から、戸締りはしっかりするし、ピアノ室も閉める。それで大丈夫だろ」


ばあちゃんの強気の発言に、うっかりしたけど、”今度”って、次もあるのか?

次の1泊での行事は、合同記録会 だけど、これは山崎は休む可能性大だ。

ー・-・-・-・-・--・・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

今日の夜の練習は、問題のショパンのエチュード10-6.

しり込みしてても、しょうがない。

とりあえず、1回は機械的に練習した、右手だけ、左手だけ。弾きづらいところ。

次は、右手の半音でグルグルしてる問題の部分を、それだけ取り出してみた。

ロマン派の曲だけど、全体の雰囲気で聞かせる曲なのかな・・

いろいろ試行錯誤しながらだ。テクニック的には問題ないんだけど、

右手の上の音は、普通に物悲しい旋律。それに、とまどいをつけるのが、半音の動き。

ワンフレーズづつ、1小節ずつ、丁寧に音色を聞きながら何度も弾く。

うん、今回は、大丈夫。前の事で頭が一杯になって弾けないってほどでもない。


今夜のチェロ弾き卵さんへの曲は、平均律の中から2集の11番ヘ長調。

前奏曲が、僕のお気に入り。

彼女は、と目をこらしてみると、前よりも穏やかな顔になってる。

ひょっとして、叔父とチェロを弾いたのが、よかったのかな。


俊一叔父と弾けるなんて、うらやましいかな、ちょっとだけ。









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