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どん底まで落ち込む。ショパン練習曲10-6

主人公の裕一は、練習中、忘れようとした過去の自分を、振り返ることに

合宿では、林部長率いる100mリレーの選手達は、バトンの受け渡しの

最終調整をしている。”どこで渡すか”それぞれのペースをみながら、

選手は微調整するのだけど、大体の所は、打ち合わせをする。


脇坂ら長距離チームは、それぞれタイムを計りながら、黙々と走っている。

1年生男子二人は、自分の時計を持ってこなかったので、

僕と1年の女子マネ千葉さんが計時。青野は短距離の選手についてる。


霧の肌寒い日で、怪我を心配をした。今回は、二人ほど、筋痙攣を起した。

あわてて、マッサージに走った。ストレッチ不足かな無理をしたのかな・・

あまり強くマッサージすると筋肉を傷める恐れがあるので、僕と青野は慎重に、

暖かいタオルで患部を温めながら、そこそこの力でマッサージした。

一人は、筋痙攣を初めて起したらしい1年生で、ちょっとパニクってる。

痛いからな、筋痙攣。励ましながら、なだめ落ち着かせた。


3年生は今年が最後の高体連なので、気合が入ってる。

朝岡さんも坂本さんもだ。

二人とも、黙々と練習してる。

冬のストレッチと筋トレ強化のおかげか、フォームが乱れてい。

背筋と腹筋を鍛えると、これだけ違うのだと、選手でない僕もあらためて、

曽我顧問の方針に感心した。

-・ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

帰ると、家に山崎と妹の美里ちゃんが、居間でばあちゃんと話をしていた。

4月の終わりから5月のはじめにかけて、ここ道東地方では、庭の手入れ

をする人が多い。庭仕事を始めるまえの準備をするのだ。

山崎は、じいちゃんの頼みで、二日間、庭と畑の手伝いをしたそうだ。

”これは、去年、俺の病院代を立て替えた分なんだ”と山崎が笑ってた。

山崎の笑う顔を久々にみた。

山崎と美里ちゃん、僕、祖父母と5人での夕食は、賑やかだった。

美里ちゃんは、プリキュアっていうアニメが大好きで、歌真似しながら踊るので、

祖父母に大うけだ。山崎は恥ずかしそうにしてたけど

祖母は、夕食仕度で忙しかったけど、それが楽しかったみたいだ。

祖母は、帰りに二人に、おかずのコロッケの残りを渡した。


「子供には親を選ぶことが出来ない。親に冷たくされても、誰かがこうやって、

フォローすれば、少しはいい。何かツライ目にあった時でも、思い出して

くれれば、しのげるときもあるだろう」

祖父は、なんとも複雑な顔をして、二人を見送った。

ー・-・--・-・-・-・-・-・-・-・-・-・--・-・

合宿で動き回った後、夜、ピアノを練習するのは、体力的にきつい。

僕は、ショパンの練習曲op10-6を譜読みし、ゆっくり弾いた。

練習曲の中では比較的簡単ということで、選んだと、八重子先生は言っていたけど。

正直、曲がわからない。

主旋律だけ弾いてみると、希望的な明るい方向に向かうかなと思わせて

急にあきらめる。そんな旋律の繰り返し。

対旋律は、テクニックの練習なのだけど、主旋律にまとわりつく、

迷いであるかのような動きだ。

曖昧な曲、先が見えない。今日の釧路の霧の中にいるようだ。


僕は、弾いていて、中学の時の事を思い出してしまった。

登校拒否になった時の事だ。いろいろ悩んでいた。

どうしたらいいかわからなかった。

それは、こんな陰口をうっかり聞いてしまったのにも原因があるのかもしれない。


”上野の奴、無理めな曲を弾いて、調子崩してる”

”上野、何を弾いてた?”

”ショパンの「革命」さ。練習曲の。ほら、如月ってやつが。一度、弾いてたのを

一緒に聴いただろ?あれで上野がむきになったのさ。

年下の如月がかる~く弾いたからな。あせったんじゃない?

馬鹿な奴。如月は留学を勧められたやつだぞ。段違いだよ。才能が。

両親が鷹でも自分はトンビってパターンなのさ。いい気味。”


僕は同じ西師匠にならう弟子たちの会話だ

師匠からも、"無駄に力が入ってる、どうしたんだい?”

って言われた後に、この陰口を偶然、聞いてしまった。


自分には才能があると無意識に思ってた自分が恥ずかしい。


思い出した。僕はそんな過去にフタをした。忘れたようにしたんだ。

でも、ピアノを本格的に練習して、カサブタをはがすように、過去のこの言葉を

思い出してしまった。自分で自分に嘘をついても長続きしない。

僕はどん底まで気分が落ち込んだ。

弾くのがつらくなってきた。この曲は弾けない。。。


気分転換に、僕はストレッチや筋トレをしつこくやった。体も限界まで動かした。

ちょっと休んだつもりが、そのままソファで寝てしまったようだ。

毛布がかけられている。ばあちゃんが心配してかけてくれたのだろう。


母さんがピアノ室で寝た時は、曲を弾きまくって体力の限界で寝た。

僕の場合は、曲を弾くことすら出来なかった。たいした差だ。


やっぱりぼくは、鷹ではなくトンビなんだと、思った。

その時は、グッスリ寝たかといえば、そうではなかった。

やっぱり、ベンちゃんが出てきて大暴れだ。




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