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軽くて柔らか音
「上野君、ありがとう。連弾、楽しかった。
ミカねーちゃんと居た時のようだった」
(ミカっていうのか。白い人は。
彼女も、もう一度一緒に楽しみたかったのかもしれない)
いつのまにか僕の真後ろにいた”白い人”は、消えていた。
「上野君って本当に上手なのね。左手が軽くて柔らかい音だと、右も弾き易いのがよくわかったわ」
先輩は、本当に嬉しそうに話している。
でも、実は僕は”軽い音””柔らかい音”を出すのが苦手なんだ。
白い人=ミカねーちゃんとかが、助けてくれたのかな
練習でも発表会でも、弾くときに力はいりすぎで、
ピアノの先生に注意されてた。
”音が硬いです、もっと手と腕、肩を脱力して”と、毎回のように。
僕は、努力した。ピアニストの演奏会の録画を見て、手の形をまねたり、
音階で一音弾いたら、グタっと腕の力を抜く練習を、ゆっくりやったり・・
でも、脱力は、出来なかった。中2の時は、その事で随分、悩んだ。