後藤さんと一緒
東京から戻った僕は、少し気が抜けた。
レッスンではなく、祖父と話したことで、何か重石がとれたような、
何かがなくしたような気分だった。
祖父のあんな弱気な姿は一度だって見たことはない。
いつも姿勢よく、厳格でニコリともしなかった。小さい頃はおじいさまが怖かった。
ばあちゃんも同じ意見だ。”又、跡継ぎにするとか言ってきたら、喧嘩するつもりで
乗り込んできたんだけどね。覇気がなくなったというか、ただ単に疲れてたのか”
翌日、都築さんから電話で、俊一叔父の荷物の相談。とりあえず、おばあさまが
見そうな俊一叔父のアルバムと小さい頃のアレコレは、いらないだろう。
その代わり、CD類、楽譜類、その他メモなど、そして楽器を送って
もらうことにした。よく、生前から死後のための整理というが、今回は皮肉な事に
死者(俊一叔父の幽霊)に、焼いてほしいもの、人に譲ってもいいもの を分けて
もらうことにした。(祖母が yes,noの選択をせまる)
酷なようだけど、これで俊一叔父の未練がわかればいいと、祖母も僕も思ってる。
都築さんは、”もしかしたら東京の家を売ることになるかもしれません”と言って
いた。まだ極秘の話だけどね。
多分、そうなるのか、だから俊一叔父の部屋の整理を考えたのかもしれない。
1月の八重子先生のレッスンは、最初は西師匠の話に花が咲いた。
「西先生は、よく作曲者の気持ちになって、とかいうんだけど、わからないって。
いくら時代背景やその時の作曲者の状況を調べつくしても、”たまたま今日は
そんな気分じゃなかった”とかかもしれないし。
やっぱり、楽譜をしつこく読んで考えることかしらね。」
ベートーベンのソナタ1番は、4楽章以外はなんとかなった。で、次の曲の譜読みに
入ることに決まった。曲は6番のヘ長調の曲。
その日は、レッスンの後に、後藤さんと一緒に行く約束をしたミニコンサートを
聴いた。大変、奏者には申し訳ないけど、眠くなってしまった。
前半は、ヴィヴァルディの「調和の霊感」から作品3の1番、2番、後半は同じく
ヴィヴァルディの「四季」から"春”
後半の曲は有名なので、ちゃんと聞いてたけど、前半は知らない曲。
僕みたいな普通の聴衆は、"知ってる曲”がプログラムにあるほうがうれしい。
後藤さんは、コンサートは始めてらしく、なにもかも珍しいのか、いろいろ
見てた(聴いてたというより、楽器をだけみてたかも。。)
曲はどうだった?と聞くと、僕と同じく、後半の曲は 田舎の春そのものでよかったって
何かを聞いたり見たりして、閃くのはごく一部分の天才だけかもしれない
冬の部活はつらい。廊下で走るの禁止 といきまいてた校長も、雪に囲まれた季節は
しょうがないと認めてくれ。かくして陸上部は、声を掛け合い、
校内中を高速で巡回するようになった。口の悪い奴は、"百鬼夜行”と
昼間なんだけどな。。
クリパの時も気になってた朝岡さんの孤立の話、僕は女子の部長の坂本さんに
ちょっと聞いてみた。女子は、彼氏と過ごすもの、家庭ですごすもの、
クラスのクリパにでるものといろいろだったらしい。
ただ、部内の女子で朝岡さんが孤立気味なのは本当らしい。
彼女の性格だから、物事をハッキリいうし、人にも自分にも厳しい。
そんな処が裏目に出たのか。
坂本部長は、部活の停滞する冬に、"頭が痛い問題”と嘆いていた。
室内での練習は、走りよりも、ストレッチ、腹筋・背筋トレーニングに
時間をかけた。ところで、最近、青野の無断欠席が目立つ。
僕は、ピアノのレッスン日(と移動日)は、顧問には届けてあるけど。
なんとなく予想つくようなきがしたけど、本人が出てくるまで待つことにした。
2月に入り、八重子先生のレッスンでは、6番はまだ譜読み段階で、こまかなアドバイス
を受けるだけで終わった。それと、”ショパンの練習曲をそろそろ始めるから楽譜を
注文しておきますね、あとそれとモーツアルトソナタと”
うmm。中学校の時に課題を進んで練習せず、自分のやりたい曲(主にロマン派以降)
を弾き、課題の進度を遅らせたツケが、こんな所にまわってきた。
僕は自分で、”ピアノ大好き練習熱心”と思い込んでいたけど、それは自分の
好きな曲に限っていたんだった。。
レッスンが終わったあと、又、後藤さんと一緒。今度は、移動道展 という美術展へ
行ってきた。道内の画家が展覧会に出し合い、入選したもののいくつかを、
広い道内で巡回して展示するって展覧会だ。
油絵、水彩、アクリル画、パステル、七宝、陶芸、彫刻、なんでもあった。
僕は、結構楽しかった。抽象画はSFチックなものあり、絵の具をただ打ち付けた
だけのようなものもあり、いろいろ想像できて楽しかった。
後藤さんと、帰りにその話で盛り上がった。
陸上部内で、問題になり始めた。一つは朝岡先輩の事、もう一つは青野の事。
青野の事は、女子は、理由はわかってるようだ。
朝岡先輩の問題のほうは、とりあえずは、女子の部長坂本先輩と朝岡先輩が、
仲良く話す。で、他の女子も少しは態度を柔らかくするだろうと。
急場しのぎだけど。
朝岡先輩には、彼女が慕っていた3年の女子の先輩に、話をしてもらうことにした。
とにかく、わざと角がたつように言わないとか、他の人に自分の厳しさをおしつけ
ないとか諸々。
問題は青野だ。なにせ本人、学校にも休みがちで、僕も電話やメールするけど、
電話ではどうも3回に1回は具合悪いと言われ、メールはおざなりの返事だ。
やっぱり相談に来た。青野のお父さんが。今度こそ何か憑いてると。
本当に青野は具合悪いらしい。医者にみせても”なんともない”というだけで。
原因がわからない。朝、熱や頭痛、倦怠感に悩まされるとか。
ひょっとして、僕のようになりかけてるのかな。
僕は脇坂と相談して、青野の家に見舞いにおしかけた。




