クリスマス・パーティ
12月に入ってクリスマスパーティで、みなが浮かれるなか、そうでない人も。。
クリスマスは、予想外に賑やかなものになった。
クラスのクリパは断ったけど、部活で”あまったもの集合”って調子で、
開くことになったのだ。メンバーは引退した3年生3人と、2年生は3人と女子は朝岡さん
1年は僕と山崎だ。山崎は小さな妹を連れてる。ちょど若菜ちゃんくらいかな。
女子は朝岡さんだけだけど、どうも練習方法をめぐっての対立で、女子の中で孤立してる
という話だ。2年は、リレーメンバーじゃない3人。リレー選手はもてるのか。
場所は、なんとウチになった。
学校から近いので親に言い訳しやすいのが、大きな理由らしい。
バイトで忙しい山崎は、じいちゃんが連れて来たらしい。
ケンタのチキンや飲み物・お菓子もちよりで、夜の7時まで3時間位。
話題の中心は、やっぱり陸上の事。皆それぞれの思いを抱えてる。
3年生はそんな2年生にアドバイスしたり励ましたり。
これって部活のミーティングと変わらないジャン。はは。
皆で遊べるゲームで楽しんだり、だべったり。もちろん、クラッシック音楽の話は
まったくないから、僕は、この時間だけは、本当にすっかりピアノを忘れた。
帰りを7時に設定したのは、家に着く時間を考えた祖父だ。
皆が帰り、僕が後を片付けてると、山崎が手伝ってくれた。あいかわらず寡黙なヤツだった。
山崎は、帰り際に家に電話を入れていた。誰も出ないようだ。
困った顔をした山崎が、もう少しここにいさせてくれるか?と聞いてきた。
山崎の鍵は、自分の鍵をなくした母親に貸したそうだ。で鍵閉めたまま本人、帰ってこない と。
山崎の妹の桃子ちゃんが家に帰って来たときには、家には鍵がかかっていて、
困った桃子ちゃんは、兄の帰りを校門で待っていたそうだ。
(今日は終業式だったけど、部活はあった)
学校の校門で途方にくれる二人を見て、祖父が家に入れたそうだ。
祖父は、パーティがあるとは知らなかったみたいだけど。
「上野、申し訳ない。この間といい今度といい、世話になりっぱなしだ。おれの
今日の全財産110円では、どこも避難できる所がなくて。
俺は体も丈夫だし大丈夫だけど、桃子はまだ小1だ。本当に今日は助かった」
山崎母は、別に兄妹を苛めるために締め出したのではないと思うが。。。
思い出さなかったのか、ウッカリしたのか。
祖父も山崎の家に電話を掛けるが9時になっても留守だった。
念のために家にいったが、やはり誰もいず、帰って来た。
祖父は、警察へ行ってわけを話し、とりあえず今日だけウチで泊まる事に。
山崎は不安げな肩身の狭い思いをしただろうが、桃子ちゃんは、思いがけずパーティで
楽しくすごした後、そのままお泊りとあって、ごきげんのままで寝た。
山崎は、だいぶ遅くまで電話をかけたりしてたが、午前1時で寝たそうだ。
ちなみに、僕はパーティが終わったあと、ピアノの練習。集中力は、3時間ならなんとか
なった。
翌朝、祖父と山崎の家に行ってみると、母親が家で寝ていた。酒臭かった。
僕は、見てはいけないものを見たように、バツが悪く、アチラのほうを向いていた。
「かあさん。俺、鍵ないのに、帰ってこないから締め出されたんだよ。俺はいいけど
桃子に何かあったらどうするんだ。幸い、上野さんの所で面倒みてもらったからよかった
けど。上野さんにお礼を言ってよ」
山崎の当然の主張に、母親はうるさいわねって感じでけだるそうに、
「息子と娘がお世話になりました。私がウッカリしたのが悪いんですが、なにせ夜の仕事
を始めたもんで、クリスマスはかき入れ時でね。遅い時間になってしまいました」
「かあさん、鍵、返して。俺、合鍵を作ってもらいに行くから。そのお金と」
母親は、渋々、お金と鍵を山崎に渡した。
「そうだ、桃子ちゃん、今日は児童館で楽しいイベントがあるけれど行ってみないか?」
祖父なりに桃子ちゃんを心配しての事だろうけど、首を振って断ってきた。
桃子ちゃんは兄の山崎の傍を離れたくないらしい。山崎は妹を連れ鍵を作ってもらいに行った。
いろいろと考えさせられるクリスマスになったな~。
クリスマスの頃にはこの町には雪が降るので、大掃除は秋のウチからばあちゃんと
庭の片付けと一緒にすませてあった。年末は、本当に静かなものになった。
開けて正月、元旦の早朝から電話で起された。
"誰だこんな時間に”といいながら、じいちゃんが受話器を取った。
ちょっと話てから僕に受話器を渡した。まだ僕はパジャマのままで、しつこく鳴る電話
に根負けして、起きてた。
電話は、なんと父からだった。開口一番
「母さんが、体調悪いなら、なぜすぐ連絡くれないんだ。そっちにいたそうじゃないか」
、父は母さんの事となると周りが見えなくなるらしい。
「父、何度もアリサさんは連絡したそうだよ。知らなかったの?僕も柿沢さんに何度か
メールを送ったけど、見てない?」
しばらくの沈黙の後、「柿沢!・・」と言う声で電話が切れた。
で、また電話がかかってきた。
「裕一、さっきはすまなかった。実は僕の、演奏旅行に同行するマネージャーが、
突然、日本に帰ってしまったんだ。それで、スケジュールもわからないし、困って
柿沢に連絡した。そうしたら、母さんが具合わるくて僕の実家で静養してたっていうから。
で、どうなの具合は?」
「もうとっくに回復して、去年の10月末に帰りました。それよりスケジュール管理や
移動とか、父、自分で出来るの?」
「ち・ち・う・え だ。そのくらい、自分で出来ると言ったんだけど、柿沢があわてて
飛んできてくれたから大丈夫だ。僕は、去年の秋から欧州を回ってあるいてるけど、
その時は、ちゃんとNYに定時連絡していた、母さんの情報もマネージャーに伝えたって柿沢は
言ってるだけどな。」
「きっと、ちゃんと父に伝えたんだよ、でもこれが右から左に通りぬけてたんだ。
スコアに没頭すると父は別世界の人になるから、自覚したほうがいいよ。」
で、僕は、母さんの”バイオリンの曲で悩んでる様子”を詳しく伝える。
途端、父は黙ってしまった。
だろうね・・・指揮者であっても、父がアドバイスすれば解決って問題じゃなかった。
冷たいようだけど、母さんが自分でしか解決できない種類の問題だった。
手助けは、少しは出来たけどね。




