ベートーヴェン ソナタ 1番
本格的にピアノの練習に打ち込む裕一。ベートーヴェンのソナタは、難敵のようだ
ベートーヴェンのシナタは、初期の曲 op-2-1 曲集でいうと1番を、さらう事に
した。曲集は、全音の前後巻、2冊に別れていて、分厚い・・。
1曲が、長いからだ。1番で20数分もかかる。
体力的にも大変だろうし、長い曲に集中力が持つだろうか。
八重子先生と、初期の曲からはじめて、試験曲が決まるまで出来る限り、目をとおす。
後、合間にモーツァルトのソナタをさらう。
ハードな毎日になるそうだ。
家に帰り、CDを聞いた。何度か聞いてはいるけど、4楽章が速いテンポだ。
この速さがないと、このソナタは曲としてまとまりがつかないのかも。
譜面面は簡単そうに見えても、速度は Prestissimo つまり 最高に速くだ。
3連符が、単純に続くかと思えば、上下をくりかえす。
この激しい動きの中で、主題を浮き上がらせ、曲のしめくくりになるように、
曲想をもってくる。
とりあえず、練習だ。僕は譜読みをはじめた。音は難しくない。ダイナミクスもなんとか。
でも、全体としてだけじゃなく、楽章ごとで、4楽章は曲になってなかった
朝。練習する時間に、今日はジョギングに出た。もう朝は寒いので、そろそろジョグも
出来なくなる。僕は、走りながら、曲の練習方法について考えをまとめた。
とりあえず、4楽章は"速くひくためにゆっくり弾こう”でいく。
陸上を同じだ。出来ないうちにあせって速く弾いくと、主題がぼけた曲になるから。
僕がソナタと格闘してるころ、世の中はクリスマスムード一色になった。
クリスマス。僕は東京にいるときは、お手伝いのテルさんが、ケーキを買ってきてくれ
都築さんがプレゼントをくれた。両親からは、母から演奏先からか、セーターなどが
贈られてきた。嬉しかったけど、その時 僕は他のクラスの子がもらっているような
物がほしかった。プレステとかね。小学生の時の話しだけど。
今年は祖父母とささやかにクリスマスを過ごす。
別にクリスチャンでもないしね。クリスマスを喜ぶ、そんな年でもない。
青野は舞い上がっていた。当然だろうなあ。
恋人(まだガールフレンドの段階だろうけど青野が恋人というので)が出来たのだから、
いろいろ計画を立てるだろう。
クラスの中も当然、クリスマスで盛り上がっていた。
もう12月だった。練習、練習で忘れてたけど。
いつのまにか、クラスの中では、彼氏・彼女のいる人が増えていた。
クリスマスに向かって駆け込み?
もっとも、頑張っても出来ない人もいるわけで、そういう人は集まって
クリスマスパーティの計画を立てていた。僕も誘われた。
「なあ、上野~。お前もでるよな。女子との合同クリパ。このクリパをのがすと
また、彼女作る機会が遠のく。なんとか出てくれ」
クラスの田坂が言って来た。僕なんかヘタレ王でとおってるのに。
申し訳ないけど、僕は断った。ソナタの練習が大詰めにきてそれどころでないって
ってところなんだけれども。
脇坂は、家族4人で過ごすという。
実は脇坂の所は、両親が離婚している。脇坂は父親についたが、
妹は母親と一緒に札幌に住んでいるのだそうだ。
4人で過ごすため、札幌に行くのだとか。
12月の最初のレッスンは、芳しくなかった。
ベートーヴェンのソナタは、4楽章、やはりもう一度。という事に。
「裕一君、このソナタ、誰かのCDにはまって聴いてない?」
「あ。あはい。家にあったCD、よく聴いてます。わかるんですか?そういうの?」
「なんというか、4楽章だけ 別物なのよ。裕一君、1、2,3楽章は余裕
あったでしょ?でも4楽章をひきこなせなくて、その人の弾き方が映ったかな」
そうなってたんだ。先生。正直、時間が足りなかったです。
「聞くのが悪いってわけじゃないのよ。むしろ、どんどん聴いて。いろんな人の演奏
をね。比較して自分の弾き方を研究するのは、いい事だわ。でもマネはね。
ベートーヴェンのソナタは難しいけどいい曲だし、つい、のめりこんで勉強したく
なるよね。でも、受験のためには、楽譜どおりに弾けていれば、どんどん次に
行きましょう。ショパンの練習曲も入れる予定だし。後2年と3ヶ月。時間もないしね。
ガンガンこなしていって、受験曲が決まったら、そこで集中練習でいきましょうか。
東京の西師匠にも要相談ね」
東京の西師匠の処へは、来年1月に行くことになった。
学校で、僕は、あのソナタ1番を脳内再生していた。
先生の指摘通り、4楽章、ところどころ、CDの演奏の様になってる。
これはいけないなと反省してたところ、女子二人に声をかけられた。
一人はバレー部の小阪さんで、もう一人は後藤さんだった。
小阪さんは、姿勢よくショートカットの体育系女子だ。
その後ろで後藤さんが恥ずかしそうにしてる。
「上野君、ちょっといいかな。後藤さんが、話しがしたいって」
なんだろう?部活関係ではなさそうだし、プリントかな。そろそろ期末試験だし。
「あのね。ひょっとして上野君、音楽やってるから興味あるかなって思って」
と、後藤さんは、1枚のチケットをオズオズを差し出した。
室内弦楽団の演奏会だった。ああ、結構、知ってるメンバーもいる。ビオラの角野さん
とかチェロの森田さんとか。
なんでも知り合いの知り合いからチケットが回ってきたそうだ。
一緒に行こうということかな?
「あ、あ、あ あの私、美術部なんですけど、この間、書いた画が顧問に酷評されて
から、ちょっとスランプで。雑誌で読んだんですけど”画オタクになって、描くばかり
でなく、見聞を広める必要がある”って、書いてあって。ちょうど、チケットが回って
きたので、行ってみようかなって。でも、一人じゃ勇気ないので、一緒に行って
くれないかなと・・・」
ちょっと地味目で背の小さい女子は、顔を赤くしながら、一気に話した。
なるほど、ピアノに置き換えると、ピアノオタクじゃいけないってことかな。
「うん、ありがとう。来年の1月だね。ちょっと待ってね。日程調べてみる。」
幸い、西師匠の処へいく週とはぶつかってない。
僕は、快諾すると、残酷な釘をさした。
「僕は、音大を受けるんだ。ピアノ科。そのために猛練習中で、高校生活は彼女は
作れないぐらいに、時間に追われてるんだ」 ヘタレの僕がなんて図々しい。
「音大ですか?私は美大に行こうと思ってるんです。美術部の顧問の先生にしごかれ
てます。両親はいい顔してませけど」 会心の笑みで後藤さんは返した。
しまった~。勘違いもはなはだしかった。ちょっと恥ずかしい。
それから、後藤由美さんと、”友達"付き合いが始まった。




