噂
裕一が知床から帰り、学校へ行くと、いろいろ噂がながれていた
学校へ行くと、母の事がちょっとした噂になっていた。
”上野、母さん、具合悪いんだって?”
”なんだか練習とまらない症候群?そんなのあるんだ”
”温泉療法にいってたんだってな。”
”なんか、お母さん、夜中に出て歩くんだって?夢遊病みたいに”
うmmm青野~~!!!噂の始まり青野だ。まあ秘密とは言わなかったけど。
歪曲して伝わるとは、噂って怖いもんだ。
僕は、こうした噂に、”母は疲労気味だったので、温泉に行ったんだ”とだけ答えた。
嘘は言ってない。大部分省略してるだけだ。温泉には行ったし。
陸上部の朝岡先輩からは、
「お母さん、練習しすぎ病だって?いいじゃない。プロなんだも当たり前」
と言われ、僕はムっとして返した
「もし朝岡先輩が、食事の最中に突然”10本ダッシュやってきます”とか、
夜中マラソンして、玄関で寝てたら家族が心配するでしょ」
「でも、プロって納得いくまで練習するもんじゃない?」
「で、納得行くまで練習して、体こわして本番に穴をあけてしまったらどうするの?
賠償問題になるし、周りに迷惑をかける。プロこそ練習と休憩のバランスをちゃんと
考えなきゃいけないんじゃない?」
どうも朝岡さんを話すと口論のようになってしまう。
部室に行った時、ちょうど青野も入ってきた。青野~~と問いかけると、ゴメンって手を
合わせて謝ってきた。青野のいう事には、うっかり彼女に話して、そこから広まったのだと。
うん?ちょっと待て。彼女?青野に彼女が出来たのか。
青野は、まだ秘密だけどと言いながら、
「隣のクラスの吉岡さんて人で、部活は家庭科部。」
料理や手芸などをしてる部だ。青野、食べ物につられたな。
ふふふ、噂になるよう周りに言いまくってやると思ったら、いつの間にか部員が
揃ってた。これは、公然の秘密ってのになるか、噂になるか。
僕に彼女が出来たら・・うmmm 僕は、今、それどころでない状態だ。
コクられても、余裕がない。わずらわしいだけになるか。
ちなみに僕と噂になった白坂先輩は、美人でも僕とは男友達に近い。
次の日、脇坂とこっそり吉岡さんを見に行った。うん、なんというか小さくてリスのような雰囲気の女の子だった。吉岡さん、結構、男子に人気ありそう。
脇坂に彼女がいるかどうか聞いたら、「そういえば、高校生活も馴れてきたのか、誰と誰とがカップルになったとか、別れたとか、そんな話しは聞こえてきますね。まあ、僕はいません。部活と勉強だけでいいです。」との答。サバサバしてその方がいいや・・・。
母は、なんとか昼間の練習だけで済んでる。夜中に起きることはなくなった。
そういえば、母は父の名前のキーホルダーを買っていた。
お土産に父にあげるのかと思ったら、自分でつけて使ってる。
帰ってきて、ピアノの練習時、その理由を聞いてみた。
なんでも、”雅之さんが傍にいるようで落ち着く”だそうだ。はいはいそうですか。
気持ちが落ち着くのなら。父の写真を持ってるといいのに、というと、
写真も当然、常に持ち歩きてしてるそうだ。スターの熱狂的なファンの心理のようだ。
今度、母さんが”練習止まらない症候群”になったら、父アイテムをふやせばいいんだな。
その日は、母さんは、気分がいいのか、父との馴れ初めを話してくれた。
(僕は聞かなくてもいいけど、と思ったけど)
最初は、東京の祖父は 母の音楽活動を止めさせるためにも、企業家の婿候補を
選んでたそうだ。婿が決められる一歩前に、
”この人と、私は結婚します”と宣言。その時、父はまだ新進の指揮者だったそう。
そんな父の振るアマチュアオケの演奏会をたまたま聞きに行った母が、父に一目惚れしたそうだ。それから、会いに行き 思いを伝え、交際がはじまったとか。
喜んで話してる母を見て、心底ホっとした。
その話しの後、母にバイオリンの練習の様子を聞いた。寝た子を起さないように、慎重に。
やはり自分の思い描いたとおりの”シャコンヌ”には、遠いそうだ。
ただ、前のようにあせる気持ちがなくなったとか。自分の試みが、時間のかかるもの。
というのを、自覚できたといって。
本番は、この曲、どうするのだろう。フと思ったけど、母には言わなかった。
とりあえず、演奏会で東京に出発するまでは、平穏ですごしてほしい。
その夜、青野のお父さんが、ウチにやってきた。
祖母がいうには、青野の父さんは祖母の、舎弟・・じゃなて部活の後輩だそうだ。
なんの部活かな?ヤンキー養成部だったりして




