子供の領分「子象の子守唄」
幽霊の赤ん坊の泣き声で、レッスンもままなら裕一、どうも母親の八重子先生にも問題がありそう。そこで彼がとった策は。。
この「象の子守唄」は、最初低音でメロディが入り、エキゾチックな伴奏で、主メロが
出てくる。曲は、"小象が子守唄で眠りに入るとき、寝ぼけて怖い夢をみる、そこを、また母親象の優しい子守唄で子象は深い、眠りに入る”って、流れかな。
僕は、できるだけゆっくり、静かに弾いた。隼人君を驚かさないように。
効果は、少しかはあったようだ。
先生と話している時は、話を聞いてるふうだった隼人君が、今は眠そうな顔をしてる。
先生は、というと、テーブルにつっぷして寝てた。
レッスン前に頭痛薬でも飲んだのかもしれない。あれ、隼人君も寝てる。
僕は、先生に、傍にあったカーディガンをかけ、少し待った。
でも、今日は、もう帰ろうか。レッスン再開してくれても、今度は、僕のほうで、
帰りの時間に間に合わなくなるかも。日帰りは結構忙しい。
先生には置手紙を残した。
”八重子先生、きっと具合悪かったんですね。すみません。象の子守唄が先生に効いたみたいです。ゆっくり休んでいてください。休めば気分もよくなるかも。今日は、すみませんが列車の時刻もあるので帰ります。あとで、電話で連絡入れますので、次回もよろしくお願いいたします。
裕一 ”
連絡の電話は、その日の夜に八重子先生の方から来た。
「裕一君?今日は本当に本当にごめんなさい。今日のレッスン料は、次回分ということで。
私、最近、頭が痛かったり、体がだるくて具合悪い日が多くて・・。あの日も頭痛薬を飲んだのだけど、まさか眠り込んでしまうと思わなかったの。ごめんなさい」
先生、やっぱり頭痛だったんだ。僕も最初のレッスンの日は隼人君の鳴き声で、夜、頭痛がした
「いえい、先生、気にしないで下さい。こちらこそ、具合悪い日にすみません。あの後、少しは具合よくなりましたか?」
「それが不思議なの。頭痛も治ったけど、体のだるさがとれて、家事をするのが楽になったの。
”象の子守唄”が、効いたせいかしら?不思議だわ」
その後、2週間後のレッスンを決めて電話を切った。
祖母に、前回のレッスンの様子から、先生が寝てしまって、
隼人君も寝た事をなどを説明した。
祖母は、「少し解決の糸口が見えてきたね。要は、八重子先生が、いつも穏やかでいる事が重要なのかもしれないね。いろいろ話す事で気が晴れるのなら、今度は私も行って、話してみようか。特製ドリンクの話とか、きっとおもしろくて、笑ってくれるかもしれないよ。」
気持ちはありがたいけど、祖母がまた熱を出してしまうハメになるんだったら、絶対反対だ。
、
「赤ちゃんの場合は、お迎えがきて、すぐに天に昇っていく。お迎えが、天使なのか地蔵様なのかご先祖様なのか知らないけど、連れて行ってくれるのを、一度だけ見た事がある。
ただ、隼人君の場合は、母親の執着が強すぎて、連れていけないのかもしれないね。
執着というより、なんというか、子供を取り戻したいって気持ちかな。
親だから、当たり前なんだけど」
隼人君については、祖母にもあまり言い案は、ないらしい
僕がこうやってレッスンの前段階で、忙しい間、クラスは文化祭の話し合いが
進んでいたようだ。僕の頭にはちっとも残っていなかったけど。
3学年で合計、6クラス。クラスとしてのステージ発表と、共同研究を教室で展示という地味な文化祭だ。PTA有志が焼き鳥やら焼きソバやらの店を出してくれるそうだ。
(PTAのほうでも、文化祭に参加するのを楽しみにしてるらしい)
ステージは、ウチのクラスは劇をする事になり、その脚本は脇坂、監督は僕らしい。。新ためて確認したけどやっぱり僕だ。脇坂とつるんでるせいかな。人を指図したり動かしたりするの、無理なんだけど。
でも、まず脚本、どうするの?脇坂。
僕が詰め寄ると、脇坂は、すまし顔で、ここはオーソドックスに、昔話といきましょう と。
小学校じゃないんだし、演劇の脚本集とかから取ったほうが早いと思うけど。。
共同研究のほうは、青野がグループに入っている。牛と餌と乳の関係を研究すると言ってた。
意欲まんまんで、すでに図解のための写真も撮ったのだとか。
山崎も杖がとれて、活発に動いている。彼は劇の大道具担当。
僕も道具係になりたかった。裏で働くほうが好きだ。
決まった事だけからしょうがない。脇坂、早く脚本くれないとはじまらないからな。
各部のPRもOKとなってるが、陸上部は、何もしないらしい。
部室で先輩に、お前と青野がフルでいてくれたらなと、言われた。
申し訳ないけど、朝の練習は、僕はピアノの練習時間にあてるので、免除してもらった。
あと月2回の日曜日のレッスン日も。顧問にも了解とってあるけど後ろめたい気分だ。
マネージャーだけど、部活は楽しい。部員のために働くって好きだ。練習を手助け
したり、いろんな調整役をしたり。
ただ、今は文化祭の準備が忙しくて、先輩も同級も練習は休みがちだ。
ピアノのレッスンまでの2週間、悪いけど隼人君の事は考えないことにした。
だいぶ考えた末に、気長に八重子先生を情緒不安定をフォローしてくしかない。
という結論になったから。祖母の”もう一度先生の所に行く発言”は、祖父の耳に
入り、祖母は祖父から、”それは駄目です”とキツく言われた。
それは、当然だ。祖母が体調を崩した主原因ははっきりしてるし、
祖母は、もう八重子先生の所でのレッスンは、ちゃんと受けられるまで時間があっかるかも、
と言ってきた。僕もそう感じる時もある。
でも、あの可哀想な隼人君を、僕は見捨てられない。




