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泣き声にやられる

赤ん坊の泣き声で、さんざんな目にあった主人公・裕一と祖母。どうしたらいいか、思案するのだが

僕と祖母は、帰りはグッタリして帰ってきた。

祖父が夕食を用意してくれていた。焼き魚に朝の残りの味噌汁とおかず。

僕はおいしく頂いて少しは元気がでたが、祖母は食欲がないらしい。

お茶漬けをササっと食べるていた。

顔色も悪かったので、熱を測ってみたら、38度近くある。大変だ。

後片付けをすると言い張る祖母に、”おばあちゃんは、薬を飲んで寝ていて”と

強引に寝室に追いやった。

実は僕も調子がよくはない。頭がクラクラするのだ。熱はないけど、あのレッスン室での赤ん坊の泣き声が、まだ頭に残っている。


翌朝、祖母はまだ寝ていた。朝食はおじいちゃんと洋食ートーストに目玉焼きーで済ませた。

ばあちゃんには、おかゆを作るそうだ。

学校について、青野と脇坂に”赤ちゃんって、なかなか泣き止まないね”と、話したら、青野はびっくりして、

「お前、相手は誰だ?校内の女子じゃないな。年上のお姉さま?しかし、もう父親とは」

と大声で言ったので、僕のほうもびっくりだ。

こんな噂広まったらどうするんだ。まったく、早とちりにも程がある。

「違う違う、親戚で、子供の夜泣きで悩んでる人がいてさ。夜泣きもひどいけど、昼間もすぐ泣き出すって、悩んでるみたいだからさ」

青野、ごめん。本当の事は言えないし。

「ああ、びっくりした。でも、赤ん坊の事は、男はあまりわからないよな」

青野のこんな感想が、まず普通だろうな。

「青野君、それではいけ・・・」と脇坂が言い出した所で、僕達の話を聞いてる女子の不穏な空気を感じとった。僕らは退散した。どうも男性全般への不平を聞かされそうだったから。


帰ると、ばあちゃんは、居間でお茶を飲んでいた。いや、この香り、漢方薬かな。

「おかえり、病中・病後に効く漢方薬茶だよ。飲むかい?」僕はニッコリ顔で頭をふった。

「さてさて、昨日は大変な目にあったよ。グレンジャー氏の幽霊も強力だったけど、退避できたからね。だけど、あの赤子の泣き声は、かなり遠くまで離れないと」

「赤ん坊って、あんなに大声で泣き続けるものなの?」

僕は今まで、身の回りに赤子のいた事がないので、皆目わからないのだ。

「そうだね。ちょっと疳の虫が強い子だと、あんなものかね。

そういえば、繁之も夜泣きがひどくて、近所に気を使ったもんさ。おまけに雅之がお腹の中にいる時、すぐに、赤ちゃん帰りをして、本当に手がかかった。

その点、雅之は夜泣きもあまりせず、手のかからない子だったけど、今は、周りが手をやいてると思うよ。」

「周りって?」

「マネージャーの柿沢さんや、雅之の事務所の人たちさ。あのマイペース男、周りにあわせるって事を、あまりしないからね」

僕は、そういえば、父は、スコア読みに没頭すると周りが見えない人だったし、

そうかと思うと、頭に花が3本くらい咲いてるのかという能天気さだったりした。


「あの赤ん坊、どうしたらいい?」僕が祖母に本題を切り出した。

「うmm。赤子ね。、私もさすがに経験がないんだよ。」

あまり、いい方法が思いつかないままだった。ばあちゃんは本調子じゃないのだから、もう少し、横になっていたほうがいい って寝室にまた追いやろうとした。

「そういえば、私がイライラしてる時とか、バタバタ忙しくしてる時に限って、繁之はよく泣いたもんだった。あれは、私の気持ちが繁之に伝わったのかもね。母親はユッタリ構えてるほうがいいのは、わかっていたけど、私も若かったからね。そんな余裕なかったのさ。」繁之伯父の恥ずかしい過去が次々に暴露されて行く。今は、自分もしっかり双子の親してるんだけどね。

父の子供の頃の話も、今度、じっくり聞こう。

「八重子先生は、ちょっと無理かもしれない。私がこんなに熱が出て、若いお前も昨日は具合悪かっただろう?あの赤子の霊がいてなき続ける限り無理だよ。」残念だけど、最後の手段として、先生に本当の事を話してみるっていうのもある。自分の子供が泣き続けてるのを本人に言うのは、気が引けるが。

祖母を、寝室においやった後、僕は、ピアノ練習に入った。

俊一叔父が、見えた。少し微笑んでいるような。でも、だいぶ形がウッスラとしてきてる。

結婚もする事なく、亡くなったのだ。残念だったろうか。


僕は東京のピアノの師匠・西先生に、八重子先生についてもっと聞いて見る事にした。

あの赤ん坊は、親の八重子先生の気持ちを感じ取ってるのかもしれない。

先生には事情が事情なので、僕からは聞けない。でも、あの先生は、かなり無理してるのかも。

子供を失った親にとって、5年は、短い期間かもしれない。

翌日、東京の師匠からは、電話で"実は・・”と打ち明けられた。

僕の予想は、当たった。





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