表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/210

ホームレスの男

祖母は恐る恐る近づいて行った。僕はジムノペティを弾きながら様子を見てた。

ホームレスの幽霊らしいその男は、外国人のようだった。祖母のほうを見ると、なにやら詰め寄っていたが、いきなり癇癪を起こした。途端、部屋の中に窓も開いてないのに、風が吹き荒れた。五線紙やらなんらや、空中で舞った。竜巻のように風がまわり、しだいに強くなっていく。僕の脳内では危険信号がなっていた。(こいつ、ヤバイ奴だったのか)祖母は、ダッシュで僕の手をつかみと荒れ狂う音楽室から脱出した。


風をさえぎるようにドアを閉め「フー。ひどい目にあったよ。いろんな霊にあったけど、こんなにパワーのある霊は、初めてだ」と、祖母は言い、音楽室に鍵を掛けた。「幸男さん、塩と小皿を持ってきてくれないかい?急いで」祖母は、小皿に塩をもると、音楽室のドアの傍に置いた。

「大丈夫だと思うけど、念のため」

「それで、何かわかった?ばあちゃん」

「わかったもなにも、なにやらまくしたてるだけで、さっぱりわからない。スーザンと言ったのは聞き取れたけどね。言葉が聞こえるのは珍しいケースだけど、私しゃ、英語はさっぱりだし、どうしたもんだか」祖母は、思案顔で、とりあえずお茶でも飲んで一服するかね と台所に行った。


「母さん、音楽室が開かないけど、鍵かけたの?」父はのんきに言ってきた。

「最新の演奏会はどこでやったんだい?」突然の祖母の言葉に、「ううんと、どこだったかな。秘書の柿沢に聞けば確実だけど、確かニューヨークのシティホールだかだったかな?」・・・最新なのに、疑問形なのは、記憶力に問題ありだぞ。お・と・う・さん。

「音楽室は当分、私と裕一以外は立ち入り禁止。体質とはいえ、あんな強い者を連れてくるなんて」祖母の言葉に父は頭をかきながら、「僕は何が憑いても影響ないんですけね・・やっぱりダメですか?」父は度胸があるのか、鈍感なのか・・きっと鈍感なのだ。


祖母の言葉によると、父も今回ばかりは、あのホームレスズタボロ男の霊に影響されたかもしれないそうだ。先日、僕が父に怒鳴られた時、祖母のほうを振り返った父の目が一瞬青く見えたのだとか。そう、ここ2,3日の父の様子を見てると、穏やかというかのん気?というかむしろ”天然ボケ”に近い。”天才指揮者だけど、実は天然ボケ”というのが父なのかもしれない。でも、あの父の天然ボケの血を僕はひいてるのかと思うと、少し、複雑だ。

怒鳴られた時の迫力は違った。僕はあまりの迫力に動けなかった。東京の祖父に近い。何かに影響されてたのならわかる。憑依されてたのかも。そう言ってみても、父はノホホンとしてるんだもんな・・・。

祖母の話しによると、父は霊は見えるが、霊だとわからないか気にしない人なのだそうだ。ある時、ある楽団で、霊感の強い団員さんがいて、リハーサル中に、”後ろに霊がついてる”と、怖がったそうだ。他にも見えた人がいたらしく、リハは騒然となった。そんな中で父本人は、”あ、そうなの じゃあ、その人達が満足する曲になるよう頑張ろうと、ニッコリ笑ったのだとか。

最強伝説というか、最強天然ボケ伝説かも。

まあ、とりあえず、音楽室は封鎖。父の話しは、陸上部の今度の合宿の時にいいネタになる


僕は祖母と対策を考えた。僕は残念ながら声は聞こえなかった。幸いというか、そこまで霊感が強くないらしい。英語は得意なんだけどな。祖母はもちろん英語は、無理だ。じゃあ、俊一伯父さんに聞いてもらったらというと、霊には他の霊は、大抵の場合は見えないのだそうだ。

で、僕は ”スケッチブックに、はい、いいえで答えられるような簡単な英文の質問文を書き、指差してもらう” というのはどうかと、祖母に提案、とりあえず、やってみることにした。


急いで買ってきたスケッチブックに質問文を書き、祖母と一緒にこわごわと音楽室のドアをあけた。室内限定の嵐は収まったようだけど、部屋の中はひどいありさまだった。

祖母は、ズタボロ男のそばに行き(僕には男の姿は見えないけど)なんとか質問し終えた。

ズタボロ男は、自分が死んでることに気がついていなかった。とにかく寒い。ひもじい。そして、昨日の言葉に出てた、スーザンは、誰かという質問に、妻 と答えたので、僕は彼女に会いたいかと文章で聞く、答えは はい だけど 頭をふって、動かなくなったそうだ。

祖母の話しによると、アイムソーリー、スーザン と何度も言っていたそうだ。祖母は、この言葉だけは、覚えていたそうだ。

残酷なようだけど、さらに聞いた、彼女は生きているか?答えは、いいえ だった。

つまり、妻のスーザンは死に、それは自分が悪くて、で会いたい と。

ここまできて、調査は行き詰まり。ニューヨークの事なら、マネージャーの柿沢さんに、聞いてみようか。祖母が柿沢さんの携帯に電話をし、やたら恐縮しまくって頭まで下げてた。そして、柿沢さんの言葉は、非常だった。

{自ガ持ち帰ったものなら、自分でなんとかするように、それより速く帰って来い}

アリサさんより十倍ましの鬼ップリだな



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ