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湿原マラソン当日

脇坂が、にらみつけるように見たその選手を、青野もまたじっと見ていた。

「わかった、あの時、6月の大会の時、準決で脇坂と一緒に走ってた選手だ」青野は合点がいったようだ。そういえば、あの後脇坂を心配してたが・・

「走り終わった脇坂を、ニヤニヤしながら見ていたんだ、ああ、彼に挑発されたなと思ったけど、それにしても、冷静な脇坂らしくないと思ってた」

青野はよく細かく覚えていた。

今日もまた冷やかしていったってのか?単なる”イベント”なのに。



「あいつ、藤田は僕と同じ中学だったんだ。同じ桜花高校を受験し、彼は受かり、僕は落ちた。僕は2次募集で地元の東が丘に入れたんだ。」

釧路の桜花高校。野球とかスポーツが強い事で道内で有名だ。しかも確か進学校でレベルが管内一だったはず。道理で脇坂の”学年1番”は、断トツだったわけだ。

「そうか・・桜花か。道理で速いはずだ。お前のライバルだったんだな」青野がつぶやく。

脇坂の話しだと、学力は脇坂が、長距離タイムは藤田が、少しだけ上だったそうだ。脇坂は淡々と語ったが、それまでどんなにか悔しい思いをしただろう。その顔からは、まったくわからない。

脇坂の告白に言葉をなくしてるぼくらに、唐突に肩を叩く人がいた。僕の釧路の伯父だ。てっきり30kmのほうに行ってると思ったが。。「やあ、裕一君、君が出ることは父から聞いて知っていたけど。お、ニューシューズだね。」

僕は、このマラソンの少し前に靴を新しくした。ランニング用の値段の高いやつ。祖母に恐縮しながら相談したら、祖父と祖母と、即、買い物に直行。

3人で楽しかった。

「青野、脇坂、僕の伯父さん。マラソンはベテランで、この間の100kmマラソンも出たんだって」僕が、二人に伯父を紹介。伯父は「裕一の伯父です。裕一が面倒かけてるね。陸上は初心者だし、今日はよろしく頼みます」伯父の言葉に僕は気恥ずかしかった。肉親ってこうなんだなと、改めて知った。伯父は、今日は主催者側のボランティアで、オレンジのスタッフジャンパーを着ている。いろいろと走り回ってるらしい。


事前にコースをみておかない僕は迂闊にも程があるが、顧問は僕以上にウッカリものだ。

湿原道路を走れるのは、30kmだけで、10kmは市街地のランだけになる。何が自然を満喫 だ。それでも、新しいコースを走るのは、楽しみだ。

スタート地点で、僕は、白井先輩をみかけた気がした。似た人だろうけ。ポニーテールはよくある髪型だし。スタートして僕は、初めて実感した。他の人につられる。自分ではあせっていないつもりでも、いつものジョグよりペースが速くなってる。まずい。いくらコースが平坦だとしても。

ペースを取り戻すのに四苦八苦してやっと5km地点。

ちなみに脇坂はずっと先で、青野はずっと後にいる。

気温は20度ちょっと。釧路にしてはいい天気で、僕なんかは走りやすいけど。だいぶ息があがった所でやっとゴール。はぁキツいもんだな。

10kmというと、高校のマラソン大会くらいか?陸上部に入りながら、学校のマラソン大会でいい順位でなかったら、マネージャーといえども、怒られそうだ。


脇坂がいたので、合流した。彼は「藤田に侮辱されたのです。6月の競技会で。東が丘高校の陸上部のことを。僕自身はなんといわれようと構いませんが、陸上部まで侮辱されるいわれはありません。ついムキになって、ペースをあげて、膝が実は弱いことを青野に耳抜かれてしまいました。」と言った。聞きづらい事を先に話してくれたんだ。


脇坂は、将来、医者になりたいので、1年の時から受験勉強するつもりだとも言った。すごいな脇坂。いろいろ逃げてる僕は、尊敬しちゃうよ。同い年だけど。

そこに、青野が話しに首をつっこんできた。「え?医者になる?すごいな。うんうん。帯広の獣医学科はすごいレベル高いんだよな。俺は普通に酪農の勉強を大学でしたいけど、それでも帯広はちょっと厳しいかな。」

青野、医者といえば、獣医しかないのか?しかも志望校まで断定?

「青野君・・僕は動物でなく人間相手の医者になりたいのですが ・・」

脇坂の言葉を、青野は半分聞いたか聞かないうちに、後ろを向き、こっちこっちと手招きしてる。

部員の誰かかな、っと思ったら、白井先輩がやってきた。さっき見かけたのはやっぱり、先輩だったんだ。さすがの脇坂もびっくりしてる。

白井先輩、少しかバテているようだけど、大丈夫かな。

「ヘヘ。家族はいい顔しなかったけど、エントリーしてたんだ。今回は、ちょっとキツかったけど、楽しかった。うん、走るのって苦しいけどとっても楽しい」そういう白井先輩は、キラキラ女子だ。

その後、他の部員と合流、なぜか白井先輩も一緒で、女子の2年部員から陸上部への勧誘を受けていた。


僕は、脇坂のように将来の目標をたて、それに向けて努力できるだろうか。努力はともかく、僕の今は目標が定まらない状態だ。

白井先輩のように、苦しくても楽しい と笑って言えるだろうか?


家に帰ると祖母が、三つ、ニュースを知らせてくれた。一つは、東京の祖母の心の病気があまりよくなく、施設に入所したこと。、もう一つは8月から父さんが長期休暇で日本に帰ってくること。最後の一つにびっくり。母さんが、明日、ここにやって来ることだ。

母さん、どうしたんですか急に、”僕を東京に連れ戻す”とかは勘弁してほしい。

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