動転
「ばあちゃん、見える。僕見える。ピアノ弾いてないのに!」と言いながら、勢いよく居間に入っていくと、祖母はちょうど寝る所だった。
祖母は僕の肩に手を置き「はいはい、裕一、ちょっと落ち着いて。ここに座って。はい、深呼吸して。で、何が見えたんだい?」祖母がゆったりと聞いた。
「俊一叔父さんが見えたんだ。いや、見えたような気がしたんだっけ?」祖母ははぁ~とため息をついた。「そうかい、で、お前はピアノを弾いていなかったんだね。で一瞬見たきがした。」ふふむふむとうなずいた祖母。「確かにピアノの事でいろいろ考えてはいたけど、弾いてなかった。でも、すぐ見えなくなったんだ」僕のまだ混乱してる言葉に、祖母は全てお見通しという感じだった。祖母には俊一叔父さんの写真を見せた事がある。僕がここに来ることになった発端だったし。
祖母は仕方ないという顔で「しょうがない、今だから言うけど、その俊一叔父さんは、裕一がここに来たときに、一緒にいたんだよ。お前の事をひどく心配してるのだけはわかったけど。お前がピアノを弾いている時には、見えない所にいたんだね。」
僕は、本当にびっくりした。俊一叔父さんは、今でも東京の自分の部屋でチェロを弾いてるものだと、思っていた。やっぱり死んだら”千の風”になるのか?それって魂とやらが千に分裂するのか??
あっけにとられてる僕に、祖母はホットミルクを出してくれた。砂糖入りの甘いやつ。
「裕一、死後の事は誰にもわからないんだよ。天の神様の領分さ。お前がピアノを弾いていない時に見えたのは、たぶん、集中して考え事してたから見えたのかもしれないし、私のように、”見える”ようになったのかもしれない。見間違いってのもあるかもしれない。どっちにしても、今日はもう寝なさい。午前1時だよ」
まだまだ祖母に言いたいこと、聞きたいことがあったけど、ミルクが効いたのか、僕はとても眠くなって、すぐ布団にもぐりこんだ。
翌朝は、スッキリとした気分だった。朝、白井先輩との演奏を聴き直して、ああ、やっぱり何か違う、と落ち込みながらも、なぜか気分は前向きだった。これも昨夜のばあちゃんドリンクの効果か?朝食もいつもと通りだった。祖父が、珍しくご飯を食べるのも忘れて朝刊に釘付けになっていて、祖母に叱られた。
時間通りに出、チャリで学校まで行った、
クラスで脇坂と青野と僕が、職員室に呼び出された。3人、揃って?
担任の広野から、意外な事を言われた。「お前達3人で、テスト前にプリント出し合って、勉強してるんだって?そのプリントを見せて欲しいのだけど、あるか?」
話しによると、どうもそのプリントのコピーが、1年だけでなく、3年にまで広まってるそうな。僕は、コピーして欲しいとか頼まれた事がないし・・でも、ひょっとして友達が多く話し上手な青野から、広がっていったのかも。まあ、いいけど。
広野先生が言うには、僕らのプリントから同じ問題がテストに出ると、いろいろとまずいから、同じ事柄を出すにしても形式を変えないといけないそうだ。3年については、専門学校を受ける生徒から、基礎のやり直しになっていいと、英語と生物のプリントが人気なんだとか。医療系の専門学校を受けるのには、生物は必須だ。
だけど、青野の暗号プリントを解読とは。。
僕は、プリントをファイルしてる。で、今日、持って来てたので、広野先生に渡した。先生はそれをコピーすると、それぞれの教科担任に持っていった。生物のプリントは、僕が清書したやつだ。
教室に戻ると、お前ら何をやらかしたんだ?とクラスの男子に冷やかされたが、僕らのプリント問題は、そのままはテストに出ないらしい。と言うと、教室でざわめきが起こった。
”まずい、俺、あれ丸暗記してるだけだ。”とか”あれでしか勉強していない”と言う声が聞こえた。
青野、クラス中に配ったのか?




