グノー「アベ・マリア」とバッハの前奏曲
祖母特製ドリンクは、とても効いたようだ。7月のはじめといっても、肌寒い日だったので、一応ホットドリンクを飲んだので、外にいた先輩方は一発で体が温まった、顔も赤くなったし(我慢してるってのもあるかも)。
とりあえずその日は、曲については、また後日ということにした。練習を録音したので、それをコピーして白井先輩に渡した。音中時代、僕も含めて、皆、自分の練習中の音を録音してた。自分の音を聞き、先生の指示もはいってる録音は、勉強にとても役立つからだ。
僕もその日の夜、白井さんとの演奏を聴いて見た。やっぱり合っていない演奏だ。白井先輩は僕の伴奏をあまり聞いていないようだし、僕は僕で相手の演奏の呼吸にあわせてない。一人で弾いてる感じだ。僕はやはり、バッハの平均律曲集1番前奏曲の時とかわらないのだ。自分の解釈で弾いてる。”音楽は僕のほうが上”っていう思いあがりがなかったろうか?先輩はブレスしないといけないのに、それを思いやっていただろうか?
そんな事を考えながら、僕は、その日は答えを出さずそのまま寝た。
次の日は初夏らしい、いい天気だった。こういう日は、ジョギングで長距離を走りたい。
こちらの7月はまだ天気の悪い日は肌寒い日もあるけど、東京のように冷房必需の天気よりは、もちろん、すごし易かった。月末には釧路の湿原マラソンに陸上部全員で。でる予定だ。10kmだけど、楽しみにしてる。
ただ、その前にテストだ。期末テスト。テスト勉強を本格的に始めるには早かったけど、僕は3人恒例の”自作プリント”を増やしてみた。テストを作る事自体が勉強になるし。
ただ、苦手の数学だけは、ちょっと無理だったけど。国語と古文の漢字・言葉、練習プリントも作ってみた。もちろん、作ったら青野と脇坂の二人に渡した。
青野は、”もう始めるのか?”とビックリしてたけど、彼も負けじと、生物のプリントを出してきた。脇坂も同じく。
白井先輩と練習する日が決まって、僕は棚上げしていた”グノーのアベマリア”に取り組んだ。元の前奏曲と違って、全ての音が16符音符で左のペダルは踏みっぱなし。ってことは、ハープ音をまねるように弾けばいいのかな。どちらにしても、フルートより強弱は目立ってはいけない。淡々と弾いてもまずい。
で フルートのほうのメロディはというと。最後の1つ前はritをかけ、ゆっくりになるんだな。で最後はピアノが2小節弾いて終わり。フルートの最後の音は、ド の音を4拍のばすけど、これ、フルートにはキツいかもしれない。ネットで探した情報の中に、”フルートの低いほうの音はつらい”って書いてあるブログがあったからだ。白井先輩にそこの処を聞いてみよう。他の音でも”長く伸ばす”ってのは、管楽器にとっては、易しくて難しいかも。音色がもろに出るから、音が綺麗でないと曲のよさがでないかもしれないからだ。
練習の日、僕は部活を休んだ。先輩達はこないだろう。あのドリンクは恐怖だろうし。
夏目先輩には、また、練習にお付き合いしてもらった。青野と脇坂は部活に出る。休んでとは申し訳なくていえなかったし。
白井先輩は、前回より顔色がよかった。前回は急に決まったし、たまたま体調が悪かったのかも。先輩は、録音を聞いて、メトロノームをかけて練習したそうだ。
僕は、先輩に曲のどこでブレスするか聞いたり、フレーズの終わりでは僕を見て欲しいと頼んだ。お互いにそこであわせながらいくのがいいかと、思ったからだ。
あわせは上手くいった。やはりお互いの音を聞きあわないと、簡単な曲でもだ。
やはり、先輩のフルートの音色が気になった。父様に相談だ。
二人の練習が終わって、白井先輩を見送ってから、僕はもう一度、バッハの方の前奏曲を弾いてみた。もちろん、バロックの曲なのでペダルはなし。先輩のフルートの音を脳内から消して、ピアノは、右手が強くなりすぎないよう注意をした。前奏曲の後はすぐフーガを弾く。前奏曲とフーガで一つの曲なのだ。
フーガで僕は自分の普段の練習不足を思い知った。そういえば最近、若菜ちゃんへの曲ばかりで、本格的な練習をしてなかった。
とにかく脱力できてなくても、練習を怠ってはいけなかったのでは?
そんな事を思っていて、フっと見ると、音楽室の隅に俊一叔父が心配げに立っていた。いいや、それは一瞬だけで、見直すと誰もいなかった。
幻覚か?僕は、心のほうもヤバいかもしれない。




