グノー「アベ・マリア」
僕は、部活が中止になった時に、白井さんと、合奏することになった。
部の男子が、一緒に来たがったが、音楽室の若菜ちゃんの事を考えると、あまり大人数だと驚くだろうし、急な事なので白井先輩に何も言ってないので、今回は遠慮してもらった。
あ、でも、噂にまた火がついても困るので、夏目先輩と青野に頼み込んで二人にきてもらった。証人ってことで。
祖母に白井さんを紹介し、音楽室に先輩を通した。僕はコーヒーを持っていこうとすると、祖母が耳打ちをしてきた。
「本当にお前は父親に似て、気の強い子が好みなんだね」
ばあちゃん、すごい。おしとやかに挨拶した先輩を、一目で見破った。
白井先輩のフルートは、小学5年生の時に買ってもらったものそうだ。近くの中学生が家で練習しているのを聞いて、どうしてもフルートをやりくなり、両親を説き伏せた。
その頃は大手の音楽メーカーのフルート教室がり、そこで習ったのだそうだ。
でも、まもなくして教室は釧路に吸収され、教えてくれる人がいなかったのだと。
今はCD伴奏で、簡単な練習するけど、その伴奏と気があわないと言っていた。
いったいどういうことだ??
僕は音楽室に入って、とりあえず先輩が基礎練習がしたいということで、付き合うことに。
「じゃあ、まず音階かな。ハ長調2オクターブで。分散和音をつけるね」
僕は、メトロノームをいれ♪=60で、3拍のばし、1拍休みのペースで。
聞くと先輩のフルートの音は、なんというか勢いはいいけど、艶がないようなきがする。
調をかえ、ニ長調の音階でも練習。ちょっとハードだったのかな。先輩がちょっと元気がなくなってきた。音のバラツキが目立つようになってきた。
「ごめん、ちょっと休憩するね。はい、コーヒー」先輩は椅子の背もたれによりかかって休憩というか、ヘバってた。
「ごめんね、早々に。ロングトーン練習、最近サボってた。フルートのためのジョギングだけど、ジョグのほうが面白くてついね。遅くまでしたりして」先輩はバツが悪そうだ。
僕は、ちょっと考えた。音色とピッチ。音感には自信があるけど、ズレが音階だからとくにわかった。それに、これでキツい練習なら、基礎的な何かが欠けてるか、間違ってるのかもしれない。でも、それ以上は僕はわからないし、どうしたらいかと考えてるうちに、父さんの事を思い出した。父さんは音大でフルート専攻したんだ。今年はここに帰ってくるだろうか、帰ってきたら相談してみよう。
一休みして曲のあわせにうつった。曲は、グノーの「アベ・マリア」。元はバッハのクラヴィアのための平均律集の中の曲に、グノーが旋律をつけたものだ。フルートの旋律の部分は難しくはないけれど、ゆったりと音をのばす分、苦しいかもしれない。
4小節前奏をひき、メロディが入ってきた。ここらへんはまだpかppの所なんだけど、まあいいか。先輩が伴奏CDとあわない所がわかった。11小節目のcrese(音を大きくする)のところの八分音符で若干あせるんだ。ですぐ楽譜はppの指示。これが2回続く。で若干速くなったまま、盛り上がる所にいくから速いテンポのままで行っちゃうんだ。
僕らは最後まで弾いた、とりあえず、先輩の速くなったテンポにあわせて。その後、僕は言った「11小節目、4拍目から、速くなるかな。伴奏CDとは多分、ここであわなくなるんじゃない?」僕は先輩に聞いてみた。「速いかな、いや、ちゃんと数えてるし」
ここは、そんなに盛り上がらない箇所。すぐppに落とさないといけないので、あまり速度を揺らすとあざとくなると思うのだけど。
僕は、もう一度、先輩にあわせて伴奏してみた。
その後、「17小節目以降がfがあって、ここが一番もりあがる所だから、それまでは、わりと淡々と吹いたほうがいいんじゃなか」と、先輩に言ってみる。
先輩は、ムっとしたようだ。そうだよな。伴奏はソロにあわせないと。
僕は、グノーのアベ・マリアを聞いたことがあるからか、影響されてんのかな?
考えて、二人ともよくわかんなくなった所で、祖母が休憩のお菓子をもってきてくれた。
あ、よかった。多分、今日はこれでお仕舞いにした方がいい。
先輩、また、疲れてる。顔色悪いし。
伴奏といえば、僕は俊一叔父さんのチェロにあわせた時には、違和感も不満もなかった。
よく叔父の演奏するCDを聞いていたからなのか?それともむこうがあわせてくれたのか?
祖母と先輩と青野と夏目先輩に僕、4人でお茶にお菓子で話しをしてると、窓に陸上部男子数名が、窓にはりついていた。祖母は彼らもウチに招待し僕らも加わって、結局、大人数で、居間でワイワイ大騒ぎとなった。白井先輩は、ちょっとムッツリしている。
祖母が、外にいた先輩達にショウガ汁をだした。僕がとめる前に、先輩らは一気に飲み干した。それは、大根おろし入り、ゴーヤーのしぼり入りの祖母が研究中の特製健康ドリンクなのに。ああ先輩達は実験台にされたんだ。。




