東ヶ丘高のマドンナ
その後、又、白井先輩とジョギングで会う機会があったので、フルート演奏の伴奏で簡単な曲なら僕に出来るのでやってみませんかと、提案した。平均律で整えられたピアノの音にあわせて演奏することも、一人で吹いているよりかは、いい勉強になるとかなと思ったから。
先輩は、もちろん、喜んでくれた。白井先輩はフルートの上達するために、体力と肺活量をつけるためジョギングをかかさない。演奏の姿がとても優雅なフルートだけれども体力勝負なのだそうだ。
次の日の放課後、部室の前がなにやら騒がしい。
「どうしたんですか?」と顔を出すと、なにやら男子の先輩の目が険しい。僕をにらんでる。「上野は白井さんと”お友達”だったんだな」と、2年の林先輩が、含みのある言い方で僕に迫ってきた。僕は、びびった。白井先輩が来てるらしい。それでこの騒ぎ??
人で込み合う中で。先輩のほうから声をかけてくれた「あ、上野君、これフルートの曲の伴奏譜です。よろしくお願いします。」と頭まで下げられた。僕は部の先輩方の厳しい視線に身の縮む思いだ。「あの、先輩、この曲集のどの曲でしょうか?」と聞くと、「どれでも上野君が選んでください。やさしい曲ばかりなので」とニッコリ笑った。白井先輩、丁寧口調で、ジョギングの時とは別人だ。多分、フルートを吹いてる時も別人になるだろう。
ああ、本当に皆の視線が痛い。
僕は白井先輩に、挨拶をして、すぐ着替えてグランドへ逃げた。
青野が、部活の準備をしてたので、先輩方の様子がおかしいのだけどと、聞いてみた。
青野は冷たい目で、「お前、さすが東京もんだな。誰にも落ちなかった東が丘高マドンナが年下にぞっこんって、本当だったんだ」青野は、スタスタと離れてくので、僕は慌てて、「待って青野、違うんだ、違うんだよ。たまたまジョギングで一緒になって、それでフルートの話になって、じゃあ伴奏ならできるってことで、ただそれだけなんだ。」
僕は、しどろもどろで白井先輩との事を説明し、やっと納得してもらった。
「そうだよな。中学時代から綺麗で上品で、大和撫子の見本。成績もいいし、誰にでも優しい。そんなマドンナが、お前にぞっこんって、冷静になれば、ありえないよな」
青野が、やっと納得したように、笑った。よかった誤解がとけて。先輩方にも言わないと、僕は、陸上部男子を敵にまわしたままになってしまう。
でも脇坂だけは、冷静だった。「青野君、あのジョギングコースは、誰もが知ってるいいコースです。たまたま出会って話してたからいって、即、恋仲と決め付けるのは早計です。それに彼女のジョグのペースは、速かったですよ。あれは陸上部でも通じ・・・」とまで脇坂が言った所で、部活の集合がかかった。
その日の僕は、「ヤマ、こっち」「ヤマ、これやっとけ」と先輩方から仕事を頼まれっぱなし。最後はジョギングで、ペーズはめちゃ速かった。
まあ、なんとかついていけたけど。
おしとやかで上品な白井先輩は、実はばりばり体育会系。ってことは、しばらく秘密にしておいたほうがいのかな。




