先輩とジョギング
豆乳バナナドリンクは、脇坂のために作ったのだけど、陸上部内でも好評で、レシピ(というほどでもないが)出回っている。
僕のドリンク、名誉挽回かな。
部のマネージャーの仕事は、思ったより忙しかった。部活が中止になった日、僕は、ジョギングに出かけた。
いつものコース、ちょっと速めのピッチで走っていると、前を走る女子高生が見えた。一本にまとめた髪がゆれている。
相手がピッチを上げたので僕もつられてあげる。で、いたちごっこのようになり、彼女がギブアップした。
「どうもこんにちは、やっぱ上野君、速い。」息を切らしながら話しかけてきた彼女は、確か夏目先輩と知り合いだったかな。
「上野君、私、夏目の同級生の白井っていいます。フルートやってます。体力つけるためにジョギング、この間から始めました」白井先輩は、丁寧な言葉で話す人なのだなと思いながらの、美人な先輩を前に僕はドギマギした。そんな先輩が頭を下げて僕に言った
「上野君、お願い。私にフルートを教えてください」
「・・・・・はぁ??」どこでどうなって、そんな事になるのだろう。
「あのう、白井先輩、僕はピアノは弾くけど、他の楽器はさっぱりわからないのですが」
僕の言葉に白井先輩は、ガックリしながら言った。
「あの噂はデマだったのね、この学校に小学校からフルート習って、しかもピアノも弾ける天才少年がいるって噂だったの。この間、君と夏目のやり取りを見て、上野君がその少年かと思ったのよ」
白井先輩は、本当に残念そうだった。僕はフルートを吹けない事が申し訳なくかんじた。
で噂の始まりは父の事かもしれない。
<この町出身でフルートを音高で専攻し、その息子が町の高校にいる。父親だから、息子にフルートを教えただろう。実家にはピアノがあるそうだからピアノも弾けるんだろう。うん、天才少年だ。>
本当の事と想像した事がまじって、こんな噂になったのだろう。
「すみません。白井先輩。、釧路まで行けばいい先生がいると思いますが」
僕は、白井先輩が、レベルアップして音大進学を考えてるのかと思った。
「それがね、無理なの。交通費もかかるし月謝もかかる。親にねだって楽器買ってもらったけど、もうそれ以上の”おねだり”は、さすがにね。うちの経済状況からすると限界。音大はね、もう諦めたのよ。でもやっぱり、楽器、上手くなりたいじゃない。で、噂の上野君にお願いしたわけ。調度、その事を頼みにクラスに行こうと思ってたとこなんだ」
白井先輩は、本当に噂を信じてたんだ。
ピアノも挫折しかけてる僕なんだけどな。
そうして、僕らはジョギングを再開し、それぞれのコースにもどったんだ。
数日たったある日、僕は、昼休み、音楽室へ夏目先輩に会いに行った。
ドアを開ける前から、ピアノの音ではなく、フルートの音が聴こえる。
音色は今一だった。フルート独特の艶がないし、調子がはずれ気味、なにより、意気消沈してるような感じがする。と、ガタンと音がしてフルートが唐突に止んだ。
いやな予感がしてドアを開けると、白井先輩が貧血を起こしたらしく、真っ青な顔でかがんでいた。楽器だけは死守したらしくsっかり守ってた。
僕は彼女から楽器をとり、椅子に座らせた。
「大丈夫ですか?先輩、」心配する僕。ロングヘアに白い肌、パッチリした目にスレンダーなスタイル。
ミス摩周東が丘高校の候補だろう彼女は一言
「お腹すいた、死にそう」と・・・先輩、候補、失格かも。




