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カルテット

脇坂は、一度、病院で診てもらったそうだ。その時は異常がなく、”成長痛などの一時的なものでしょう”という事だったそうだ。でも油断は禁物。

脇坂は、冷静でマイペースなやつなのに、なぜ準決勝で無理したのだろう。

気になる所だけど、時間をおいて聞いてみようか。

祖母に特製ドリンクを作ってもらおうか。牛乳がのめない脇坂に、かわりに豆乳を使い、バナナとかとミキサーにかける。これなら美味しく飲めてタンパク質とビタミン、カロリーがとれる飲み物にかな。ちなみに、青野は毎日牛乳を1㍑は飲んでるそうだ。うん、身長、もうちょっと伸ばしたいよな。青野160ちょいだし。


家に帰ると、祖母が夕食を用意してくれていた。途中で食べたから、夕食はいらないと連絡したのに。でも温かい味噌汁を前にまたお腹がすたので、ありがたくただいた。

(ジョギング距離をふやさないとまずいかも。最近、食が進みすぎる)

食後、お茶を飲んでたら、明日、お客さんがくると聞いた。

祖父の友達の、カルテット4人が、ピアノ室で練習するそうだ。

「弦楽器4人だけど、練習できる広さと防音のある場所が少ないんだよ。もちろん、公民館など使えるけどね。音楽にはあまり適さないし」祖父は楽しみにしているようだ。音楽室にあるチェロってそのカルテットの人のものだそうだ。なんだか、シールがベタベタ貼ってあって賑やかなチェロケース、部屋の片隅の日光は当たらないけど風通しのいい所に置いてある。

「チェロの森田さんは、プロ楽団員だった人なんだ。プロだった人の音を聞けるのは楽しみだ。家を改築するとかで、その間楽器だけ預かってたんだ。」

祖父の話しによると、カルテットのメンバーで、地元・摩周町に住んでるのは、セカンドバイオリンの獣医の須藤さんだけだ。

カルテットは、町内の児童館、病院、老人ホームなどの慰問演奏を毎年このこの時期にするのだそうだ。ちなみに、報酬はゼロ。足代は自分持ちという、ボランティア。


次の日、4人がやってきて、練習を始めた。最初は賑やかだった。曲は、ハイドンの”あげヒバリ”。僕も何度も聞いたことのある四重奏では有名な曲だけど、聴いていてなぜか眠くなる。聴いてるうちにホワホワっとした気分になるからかも。

1時間すぎたころ、コーヒーを僕は持って行った。

皆、僕が指揮者の上野雅之の息子だと知ってる。いろいろ父について聞かれたが、ろくに答えられない、多分、今頃はロンドンかも、とか、休暇にはここに帰ってくるとかぐらいか。

僕自身については、ビオラの角野さんに、「君、楽器やるの?何、ピアノ?ヴィオラやってみないかい?優しい音だし、こうやって合奏であわせるのも楽しいし、これからはヴィオラの時代だよ」と、セールストーク?された。

10分休憩後の練習は、ヒートアップしてきた。”そこは、そんなにpで弾きたくない”とか、”もっと音を落として”とかしまいに、"君のビブラートは、ハイドン向きでない”とか・・・ばあちゃん、コーヒーになんか入れたのかな。


喧嘩になるかとハラハラしたけど、「あの人たちは、いつもあんな感じ」と祖父は、笑ってた。練習が終わり、僕はチェロの森田さんとちょっと話した。父の指揮で演奏した事があるそうだ。

「君のお父さんの指揮で演奏したのは、私が引退する少し前だったかな。プログラムはチャイコフスキーの曲だったか。すごく丁寧に指揮をする人だったけど、悪いけど、ちょっと頑固だったイメージがある」森田さんは、思い出しながら話してくれた。

僕は、父や母と同じように音楽の道をずっと歩めるだろうか。セカンドバイオリンの須藤さんは、音大には行かず、小さい頃から習ってきたヴァイオリンを続けながら獣医になりヴァイオリンを趣味として続けてる。ファーストヴァイオリンの桜井さんは、音大を出てバイオリン講師をして生活をしている。演奏家で活躍できるのは、音大卒業生のわずかな人たちだけだとか。


弦楽器は、触っってみたい。ピアノの音も好き、弦の柔らかい音も好きになった。僕は、森田さんに頼んで、チェロをちょっとだけ弾かせてもらった。というか、ノコギリを弾いたような音で、楽器に申し訳なかった。森田さんはハハハと笑うと、右手、弓を持つ手に力がはいってる。ちゃんと脱力しないと。と言われた。

ここでも脱力か。。僕は、森田さんに自分が”ピアノで脱力出来ていない”と悩みを打ち明けた。迷惑だったかな。森田さんは、”脱力しなさいと言われて、はい、そうですかと簡単に出来る人はいない”と軽く答えた。僕は、ちょっとだけ気が楽になった。ありがとう

ところで、森田さんは父に頑固というメージを持っていたけど、それ大正解。祖母の話によると、高校在学中に、音大付属高校を受けなおしたそうだ。フルートをやっていた父は、音大でフルート専攻のあと、指揮科目に転科したそうだ。もちろん、音校に行く時点で、祖父も祖母も大反対。勘当するといっても、動じなかったそうで、結局、父の選択を二人は許さざるえなかった。頑固な父、結婚に反対されてもめげなかった母、そんな二人から生まれた僕は、ヘタレで残念な息子なんです、多分。


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