勇気を与える曲
横田君を前にしての演奏。録画もとる。
緊張した・・もちろん、横田君は何も言わずに、聞いてるだけなんだけど。
その後、釧路の5人会でのような、勉強会のようになった。
バッハは、横田君の演奏も聴いてみた。
うん、まさに正統派。でも少し、僕には退屈に聞こえた。
音色が一色というか、どうだ!!ってかんじでくる男性的な弾き方だ。
もちろん、横田君もこの曲をつきつめて勉強していけば、少しか変わるだろうけど
基本、強いんだ。揺るがない精神力っていう感じで。
実際は、本人はブレブレで悩みまくってるんだけどな。この曲には、でてない。
あ、もしかして、僕の演奏を聴いて、自信を持ったとか。
あるな~。悔しいような。”よかったね元気になって”というべきなのか。
「裕一君のバッハは、聴いていて心が癒されます。
なんていうんだろう。素直な気持ちになれる曲なんだな。きっとこれは。」
ベートーヴェンのワルトシュタインは、さすがに横田君はすごかった。
迫力が違うんだな。音量もあるけど、ダイナミクスが見事なんだ。
”そこ、僕ならこう、最初から、ガンガンいきますが”
”どうだろう・・ここは、序盤だから軽く弾いて、後に波をもってくるとか”
”ここのパッセージは、何度やっても難しい。苦手意識だな”
”実際、難しいでしょう難しい処を、軽く弾いちゃいましたって箇所だよ”
残念ながら、ベートーヴェンでは、”なるほど”と感心するばかりだ。
ただ、今、僕の演奏に取り入れる事の出来ない事もある。
そこを、横田君の言う通りにすると、全体をかえないといけない ってかんじで。
さて、問題のショパンのエチュード10-4
僕は、正直にうろうろ悩んでる事を 横田君に告白。
「どうだろうか。僕には裕一君らしくて、特に悪いとは思わなかった。ただ・・」
「ただ、何?」聞くのは、ドキドキする。
「裕一君、これどこかの演奏家に影響されて弾いてる感じがする。
手本となる処が、そこだから、今の実力よりも数段上の技術力を自分に
要求してるような音だったな。もっと速く、もっと強くって」
まさに、ビンゴ だ。もっと速く、強く、男性的に弾きたい。
「そう、その通り。でも出来ないから地団駄踏んでるってとこか」
「どう、かなりゆっくり弾いてみて、ショパンの音をもう一度味わうっての。
僕も実はショパンの、情感豊かな所は苦手なんだ。
だから、エチュードの他の曲でも、先生に注意される
”ショパンの曲は、弾けば自然に感情が音楽にでるように出来てますから
その通りになぞっていけばいい”
って。でも、それが出来なくて苦労してる」
そう、横田君の弾くエチュードも僕と似たり寄ったりだった。
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楽しくて、大変な時間はあっというまに過ぎて、横田君はそろそろ帰る時間。
駅まで送っていくことに。東京は慣れないと迷うから。
駅まで歩きながら、横田君は ノビを背伸びをして
「ありがとう、ひさびさに、勉強会出来て楽しかった。
それに、裕一君の話で、少し楽になった」
「正確には、僕のピアノのヘタさ加減で、ホっと救われたとか?ははは」
自虐ネタだ。ベートーヴェンははっきり力の差を見せつけられた。
「まさか。いい演奏だったよ。特にバッハとベートーヴェンは何か
パワーをもらえた。裕一君、もしかして、これ誰かのために演奏してた?」
横田君は、聴いていてわかったんだ。
僕は山崎の事を簡単に説明して、彼を勇気づけてあげるつもりで、いつも弾いてると。
もちろん、名前も 里子で一緒に暮らしてることも、伏せてるけど。
「ははは、悪いな。僕がその”勇気”をもらちゃったわけだ」
そっか、横田君より劣った、僕のベートーヴェンは、
元気をあげたんだ。緊張して恥をかいたかいはあった。
駅で ”じゃあ”って、手をあげて別れた。
だいぶ元気になった横田君。それでも、夜になってまた悩んだりするんだろうな。
一度、落ち込んだ心は、バネのようにすぐ戻ってくるわけじゃない。
(横田。落ち込んだ時は、僕のヘタなベートーヴェンのワルトシュタインを思い出して)
夜は、ベートーヴェンのおさらい。
横田君の指摘したところと、自分の思う弾き方を比べてみる。
なるほどと、思うのが7割。いやそこはそうじゃないというのが2割
後は、わかってるけど弾けない(泣)箇所だ。
人をはげますと、自分も励まされるのか、その晩、僕は効率よく練習を終え、
ぐっすり熟睡した




