正月休みは、ノンビリと
一時よりでもないけど、脳内のBGMで第九の演奏は、消えてない。
先生のレッスンが再開するまで、なんとかしたい。
目先を変えて、僕はショパンやベートーヴェンの歴史とか、改めて
ネットで調べなおした。
ショパンは、39歳で結核で亡くなった。ポーランド・故国を愛しながらも、
音楽家としてはパリを起点にして、演奏会と作曲活動を行ってる。
課題曲の「練習曲」もショパンが一番最初にブームを巻き起こした。
(リストもショパンに対抗して、超絶技巧練習曲を作曲してる。ま、今の
僕には手が届かないけどね。きっと横田君あたりなら、ひけちゃうかも)
病弱ながらも、各地で演奏活動を行ったショパン。
音楽家というのは、旅をしなければ食べていけないようだ。
父母も音楽家の末端として、演奏旅行して暮らしている。もちろん、そうしたい
って欲求もあるのだろうけど。そうして、活動の本拠地は今はNYだ。日本じゃない。
ベートーヴェンは、ワルトシュタイン侯について、チラっと調べた。
ドイツの貴族で、有名な軍人・政治家、後年、軍隊にお金をつかいすぎて、没落。
ベートーヴェンは、一応、ハイドンが師匠だそうだけど、その取次をしたのが、
このワルトシュタイン侯。芸術家の養成に熱心だったんだ。
ピアノソナタ21番は、このワルトシュタイン侯に献呈された。
作曲されたのは、ちょうど交響曲「英雄」が作曲された時期。
ピアノの「英雄交響曲」とかって言われてる。
交響曲のほうもCDで確認したけど、確かに似通ってる。
指揮官が命令して軍隊が動いてるような印象だ。スポットライトはもちろん、指揮官に
あたってる。第九は壮大な曲であるけど、もっと内面的にくるんだ。
少しづつ練習も始めた。
最初は基礎の基礎。音階やオクターブ、分散和音などのテクニック練習から。
それから、ベートーヴェン、ショパンとも、フレーズ練習というより、
パッセージ練習のように、面倒そうな所を、ひたすらリズム練習、繰り返し練習。
とっくに、その段階はクリアしてるのだけど、脳内BGMを気にしないで弾くには、
より単純なほうがいいかとおもったので。
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脇坂は2日から、すぐ講習会でエンジン全開だった。
最後の最後の頑張りが大事なんだって。
他の受験生も必死に勉強してるこの時期に、勉強のペースをゆるめると、
結局、自分がおくれをとることになるからだと。
それは、僕も同じだけど、点数になって出てこないピアノの実技は、
よく実感がわかないんだ。
山崎は5日からの講習会にむけ、予習・復習に余念がない。
それでも、山崎と僕が食事作りを率先して担当した。
脇坂は、夜も遅いので必然的にそうなったんだけど。
今夜はカレー。僕たち二人は、イモやらニンジンの皮むきしながら
どうしても、これからの事についての話になる。
「裕一、俺、音楽を実際にやらないといけないかな?
高校でも、音楽は選択してないんだけど」
「いや、楽譜の記号さえわかれば、必要ないんじゃないかな。
それと、父の日本語が分かれば。
何か楽器を演奏する立場だと、かえって冷静に対処できないかも」
例えば、父がスケジュールを無視しても、”音楽家には必要な時間だから”
と、どこかへ行こうとする。
柿沢さんなら、冷たく笑って無視。即、仕事に連行だ。
都築さんなら、困った顔をしながら、だましだましスケジュール通りに父を操縦するだろう
山崎なら、一番下っぱで年上って事で、ちょっと困るかもしれない。
「山崎は、しばらくは事務仕事か、下働きだよ。
音楽に関係する事は、必要に応じて、覚えていけばいいさ。
この間の演奏会でも、少しはためにはなったろう?オーケストラの楽屋裏なんて、
初めてだっただろうし」
料理は、カレーは野菜を煮込み中。これで2回分の食事になるかな。
サラダをどうしよう。
話しながらも、カレーだけは、順当に出来上がっていく。
「高体連の陸上なら、その舞台裏はわかるんだけどな。正直、面くらう事ばっかりで、
結局、指揮者の付き人だったら、送迎とあと、送られてくる花束・プレゼントの整理、
楽屋への訪問客への応対、控室のセットといっても、
温度管理と時間管理くらいだそうだ。そう都築さんが教えてくれた」
都築さん、もしかして肝心な所を伝えてないかも。
問題は 完全に父の付き人になった時だ。あの父の行動を制御できるかどうか・・
「うんうん。営業は他の人の担当だろうし、ギャラとか日程とかはマネージャーの
仕事だから。でも、付き人になるって可能性もあるかもね。
普通なら、問題ないだろうけど、あの父だよ。
演奏旅行先での自由行動もいいけど、どうもそのあたり、父は休暇モードだと
怪しいというか、前の付き人さん、それで苦労したらしいし」
ちょっとは脅しとく。僕は事務所が何人の人がいて、どう仕事を割り振りしてるか
僕はよくは知らないけど。
山崎が父の付き人になる ってのは、なくはない かもしれない」
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5日、レッスンが始まった。
西師匠の所で 開口一番、
「裕一君、どうしちゃったの?かなり痩せてるけど、風邪でもひいたのかな」
確かにあの元旦ランニングの後、体調はいまいちだった。
それより、僕が痩せたということは、他の二人も痩せた?
食生活に何か問題あったのかもしれない。




