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元旦ランニング

3人で走った。ジョギング程度だけど。

僕は走りながら、高校で北海道へいくまでの、東京で暮らしてた時の事とか振り返ってみた。

(脳内に音をならさないためってのもある)


父母は殆ど仕事で不在、僕はお手伝いのテルさんが母親代わりのようなものだった。

東京の祖父母は、摩周の祖父母のように身近な存在。

祖母は、時々、体調を崩し、心も弱い人で寝込むことがしょっちゅう。


祖父は、とにかく厳しかった。勉強の成績が悪いと、すぐ、説教された。

”上野家の者として恥ずかしい”と。

今、思うに、あれは僕を跡取りとすべく、鍛えていたのだろうけど。

それでも、僕からは、教え指導するというより、管理されてるように思えた。


北海道にいる父の祖父母は、遠慮して東京に来る事はなかった。

資産家の上野の祖父母を、ある面、信頼してたのだろう。


考えながら走ってるうちに、体は熱いのに手足が冷えてきた。

東京の今日の気温はマイナスではないけれど、やっぱり寒い。

手袋もはめたし、帽子もかぶった。防寒はばっちりしてきたつもりなんだけどな。

だんだん息切れがしてきた。



僕が、祖父に反抗もせずに、まじめに学校へ行ったのは、

そのほうが、僕にとって楽だったからだ。

音大付属中学という環境の中で、指揮者の父、バイオリニストの母 というのは、

僕にとって、プラスに働いたんだ。多分だけど。

イジメに会う事のなかった。学校ではノホホンとすごしてたんだ。

当時はそう感じなかったけど。

ピアノは、今のような”必死の努力”で、練習してなかった。



考えに没頭して走ってる所、脇坂に肩を叩かれ、立ち止まった。


「裕一、ペースが速すぎです。後でばてますよ。それにしても、僕としたことが、

体が鈍ってました。裕一に追いつくのにペースを上げたのに、このざまです」


脇坂は、ハーハーと白い息をはきながら、それでもストレッチする余裕はあるようだった。

僕も、息が荒くなってる。

目の前が暗くなってきた。やばい、貧血だ。

あわてて、僕は屈んだ。滝のように汗がでてきて、ついに座り込んだ。


「おい、裕一、大丈夫か?顔が赤くて青いぞ」

山崎が来たんだ。赤くて青いだなんて、哲学的だな、はは・・


気がついたら、土手の道路に寝かされ、足は高くなってる。

一時、気を失ったんだ。

「やっと、顔色が戻ってきましたね。これなら救急車も必要ないでしょう。

スポーツ飲料あります。飲んで下さい」


僕が復調するのに、しばらく時間がかかった。

そのせいで、二人とも体を冷やしてしまったろう。。申し訳ない気持ちで一杯だ。


帰りは歩き。タクシーを使うほどでないと、僕が固辞したんで。

家で体でシャワーをあび、暖房を強くして、体を温めた。

僕が無理な走りをした理由を脇坂に聞かれた。


「どうしても、父のベートーヴェンの第九が、脳内から離れないんだ。

ショパンばっかり弾いて一時追い払ったけど、また、脳内をBGM

のようにながれるからさ。つい、音楽も入らないような考え事に没頭して

うっかりしてました。自分でペースが上がってるのもわからないなんて、

とんでもなかったです。迷惑かけて ほんとごめん」


脇坂は、ピンと来ないようだったが、山崎は、なるほどと聞いてる。

昼は、コンビニで買ってきたおにぎりと、冷凍スパゲティ。

あと他にも山のように食べ物をテーブルの上につみ、腹ごしらえ。


「おじ・・いえ、上野先生は、カリスマのようなオーラがあるんかな。

本番前の先生は、俺でも圧倒されるくらいだ。

演奏は都築さんと一緒に舞台袖で少し聞いたけど。

なんていうか、渦をまく風に翻弄されたような気分だった。

音楽がよくわからい俺でもそうだ。裕一は直撃を受けたんだ。

そのせいで、頭から離れないのかもな」


山崎は、舞台袖であの演奏を聴いて圧倒されたのか。


「そうだ。先生から年越しに飲みなさいって、シャンパンを渡されたんだ。

でも、俺は酒は憎いし、俺ら、未成年だろ?

何かあった時、笑いごとじゃすまないからな。冷蔵庫に入れてあるけど。

もしかして、それ飲んで寝たほうがいい って意味だったのかな」


いやいや、父はそんな深い考えはコレッポッチもない。演奏が終わって、

舞台から引っ込んだ時点で、父は休暇モードだ。

おそらく、僕らが未成年で受験生ってことを、考慮してない。

山崎の実の父親のDVは、酒を飲んだ時だけだったのかな。だから酒を嫌ってるんだ。


「そのシャンパンは、きっと、父の奇特なファンからの差し入れとかだろう。

父は、もともとお酒は飲まない人だ。酔って帰った日は特別。

仕事のようなもののようだったらしいし。

休暇モードの父の事はわかるだろ。あの天然さで、なんも考えてないで渡しただけ。」


山崎は、これから父に振り回されるだろうな。

深読みするだけ損だぞ。


「僕も勉強が進まない時には、前にさらった箇所を、おぼえてるかどうか不安で

やりなおしたり、ひどい時は、違う教科をとりだしたり。

でも、大抵の場合は、そんな時に勉強しても、その分の効果はあがりません。

脳がオーバーヒート状態になってるんでしょうね。そういう時は、体を動かすか

します。なるべく、そこまでいかないように、休憩時間を適当にいれてますが。


裕一、あなたは、少し脳がオーバーヒートしてるんです。

それでなくても、特訓で何時間も弾いてる所へ、あの演奏です。無理もありません」


そうか、オーバーヒートね・・かもしれない。

この間は、夢の中で、ひさびさにベンちゃんの大群がでてきたしな。

「で、どうしたらいいと思う?」

「僕はよくわかりません。脳内BGMも理解できないですから。ただ、もう少し

自然にまかせてはいかがですか?

無理くり封じ込めようとするから、かえって意識しすぎてしまう可能性もありますし」


意識しすぎか・・それは父の演奏だから?いや、ベートーヴェンの曲だからだろう

とりあえず、今夜は 練習なしで寝よう。

明日からの練習も、少し、ローペースでいくしかない。

意固地になって弾いても、かえって演奏が荒れるだけなのは、よくわかったし。


夜はピザを宅配してもらった。元旦営業して店=元旦から働いてる人 もいるんだ

当たり前だけど。感謝しつつ、目いっぱい3人で食べまくった。

夜は、夢も見ずに熟睡だった。

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