トロイメライ
小説本文 「何度も言ってるけど、これは、私に与えられた仕事のようなもんだ。それに、児童心理に詳しいかもしれないけど、見えないだろ?幸男ちゃんには、無理だよ。若菜ちゃんは、隣に座ってるよ。」幸男ちゃんこと祖父は、すぐ「若菜ちゃんこんばんわ」と右をむいて言った。祖父は子供の相手はなれているだろう。でも、若菜ちゃんは、祖父の左にいる・・・
「管内の子供に関する事故・事件を調べてみるよ」そう言って祖父はピアノ室を出ていった。
僕は、シューマンの「子供の情景」から トロイメライを弾いてみた。静かで、気持ちが休まるかと思ったから。この曲はメロディラインと対になるような中声部があるので、そこはさりげなく(強調しすぎはこの曲にあわない
)、でも掛け合いは気をつける。
若菜ちゃんは、相変わらず、目を見開いたままだ。体の傷は少しだけよくなっている気がする。祖母に聞いたら、”痛かったろうね~”と言いながらさすってみたら痣が薄くなったそうだ。
祖母はぽつりぽつりと話しかけてる。でも、あまり反応はないようだ。
そろそろ夜中近くなってきた。東京では考えもつかないだろうけど、冷え込んできた。祖母は限界だったのか、若菜ちゃんと僕におやすみと言って寝室に言った。僕は、何度も繰りかえした「トロイメライ」の終わり4小節前まできて若菜ちゃんを見た。
若菜ちゃんの様子はまったく変わってない。幽霊は眠らないのだろうか、でも僕は、せめてトロイメライ=夢見心地 で、少しでも安らかな気持ちでいられればと思ったけど。。
でも、彼女はまだ悪夢を見続けてるのかもしれない。




