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音大受験5人会で

5人会は、暗い空気につつまれてた。


僕は15分遅れてたのだけど、河野君と湯川さんが険悪な雰囲気。

ピアノを弾く人もいず、それぞれ椅子に座って、話しもしてない。

発端は、河野君の受験の話だったそうだ。

河野君は、親の強い希望により、旭川教育大学で中学校の音楽の教師の資格をとりつつ

ピアノを続けるそうなのだけど、ここにきて、教育大への受験をとりやめたそうだ。


今になってか・・僕はコートを脱ぎながら、それって無謀かもって感じながら

とりあえず、河野君に話を聞くた。


「もう手いっぱいなんだ。模試の判定もBギリギリだったから、まだ勉強がたりない。

でも僕は、ピアノが弾きたいんだ。だから勉強の時間がむなしくて。それに、音楽教師に

なるのは、競争率が高くて、実際、4年受験して受からずに、教職をあきらめた

先輩の話を聞いて、余計、夏の終わりくらいから迷ってたんだ。

結局、思い切って受験をやめたのさ。

沖縄と京都の芸大を受けるよ。あと洗足も。」


河野君は、意志は固そうだけど、やはり心の余裕はないのだろう。

お菓子を食べながらって雰囲気じゃない。

口はヘの字に曲がってるし、銀縁メガネの目が吊り上がってた。


いつも平静に見える河野君も、 ぐちゃぐちゃ悩んでたんだ。

ピアノを弾いていたい 気持ちはわかるけど、親のほうは納得したのだろうか。


「なんか誤解があるようだけど、私の言いたいのは、河野君の

”ピアノを弾きたい気持ち”は何かの逃避かなと、思えなくもなかったから。

私は、ピアノが大好き。だけどそれ以上に、ピアノに苦しめられてる。

いつもいつも練習の事ばかり頭にあるし、指は思い通りにいかない。

弾けたと思っても、先生にダメダシされっぱなし。

ピアノの勉強のほうがつらいのよ。数値ででてこないから、不安だし。

その覚悟があるのかって、聞いてみただけよ」


湯川さんが、普段のうっぷん晴らしのように早口でまくしたてる。

ゴージャス美人の湯川さんが言うと、年上に言われたような迫力があった。

河野君が、”絶対に逃避なんかではない”と反論してる。

篠崎さんはハラハラして見てた。横田君はまだ来てない。


「ええと、まずその前に、河野君、納得してるの?

道外の大学へ進むことは、お金がもっとかかるってことだよ」

「強引に説得というか脅した。教育大を受けない。道外の公立の芸大を受ける。

当然、猛反対された。親としては、教育大を出て、資格をとり道内の教師になってほしい

らしい。ようするに、自分のそばにいさせたいんだよ。子離れできてないんだ。特に母親。

一応、教員採用試験がいかに難関か説明はしたけど、親の世代にとっては、

あまり現実味がわかないようだ。


どうしても許さない、お金を出さないなら、大学を受けずに就職して学費をためる

つもりだ。って宣言した。そこでやっと親が折れてくれた」


河野君は、親許から遠くはなれたいって気持ちもあるそうだ。


「今になってだよね・・本当は1年前くらいにでも、こういう話し合いを

しておくべきだったのね。」

篠崎さんが、控えめに話した。篠崎さん自身は、どうだったのかな。

「私はね、親には札幌の私大を受けなさいといわれたわ、本州へ行かせるのは

反対、まして音楽科なんて、将来がみえない。って。

私、ハンストしたのよ。倒れて病院に運ばれるまで。」


げ!!すごい。外見からはちっとも見えないけど、”炎の女戦士”だ篠崎さん。

気持ちが僕の顔に出てたんだな。

「そういう裕一君はどうなの?一度はピアノをやめたんでしょ?

新たに挑戦するって、パワーがいるんじゃない」


そうそう、あの時は、父親にだいぶ確認されたが、僕の意志がしっかりしてる

ってのがわかってからは、応援してくれてる(主に金銭面で)

「僕の場合は、ちょっと特殊で・・・僕にはピアノ以外なにもない小学校・中学校時代でさ。

後、5か月ほどで卒業って時、スランプやらなにやらで悩みまくったけどね。

音高にもいかず、普通高校に行って、普通の生活をしても、やっぱりピアノを弾かないと、

僕は僕でないんだ。

希望は、プロの演奏家だけど。それは遠い目標。

そこにむかって、第一歩を踏み出す努力をしてるしてる最中。まずは音大に入ることさ」


今日の5人会は、音楽の進路の話だけになりそう。

河野君のお母さんが、コーヒーをまとめてポットにいれて持ってきた。


「みなさん、どうも。うちの純一が世話になります。わからない所は

教えてあげてくださいませな。芸大だなんて私はよくわからないんですよ」

ホホホとわらいながら、音楽室を出て行った。


ひょっとして、芸大ってのを誤解してないよな。河野君のお母さん。

芸大=東京芸術大学 なんだけど、沖縄芸術大学も 芸大と略せるし・・

河野君に、耳打ちしたけど、”誤解してても、入ってしまえばこちらのもの”という

そのささやきが、他の二人に聞こえたのか、クスクス笑ってる。

メンバーの雰囲気がやっとよくなって、”今日は河野君特訓”とか湯川

さんがはりきってる。


これからピアノを河野君がピアノを弾こうって時に、チャイムがなった。

横田君が、ずず~んっと暗い雰囲気をせおって、入って来た。


「ごめん。遅れて」

「それはいいけど、どうしたの?雰囲気暗いけど?先生にダメダシされた?」


”・・いや、そういうダメダシじゃなくて、いや、やっぱりダメダシか”とか

ブツブツいいながら、座った。

また沈黙がながれ、みんなコーヒーを飲みながら、困ってる。

僕は、彼の落ち込みの原因は、ずばり失恋とみたけど。


ずばり直球で行こう

「そういえば、横田君、榎本さんは今日はいないんだね」

その言葉をまってましたとばかり、横田君が話し出す。

「榎本さんには、振られました。まだ告白もしてないのに。

”私は、受験勉強をするのに手いっぱいです。はっきり言って、これ以上

あなたの伴奏では、私にはあいません。今までありがとうございました”って」


榎本さんの言葉もわかる。横田君のピアノの音の主張が強すぎるんだ。

それに負けないだけの音を榎本さんは持ってない。

「それと、今日、僕は先生から、伴奏にかまけるのは辞めて、受験に集中しなさい

って言われた。そうしたら、榎本さんに会えなくなるって事じゃないか・・」


いやいや、横田君、榎本さんにはとっくに、伴奏者としては振られてるから。

他の3人もそうツッコミたそうな顔だ


「いっそ”音楽抜きでお付き合いしてください”って告白しちゃえば?」

湯川さん、斬新発言だ。

「そうそう、玉砕したっていいじゃん。スッキリするし」


横田君はしばらく考えてるふうだった。おもむろにスマホをとりだし

メールを打ってるようだ。

しばらくして着信音がなった。もしかしてメールで告白して、その返事とか。

かたずをのんで横田君を見てると、顔がみるみるうちに赤くなり、目が涙であふれてる。

どっちの涙だ?


「今日はすみません、かえります、エグ エグ・・悲しくて恥ずかしくて

いてもたってもいられない・・」

篠崎さんが、横山君のスマホの画面を覗きみる。マナー違反だけど、手でばつしるしを

送ってきた。


5人会は、もうそういう空気でなくなり解散した。後、次の会はそれぞれの受験が終わったら

連絡し集まる約束をして解散。


湯川さんは明日からでも「河野君を特訓」と息巻いてた。

なんだかんだいっても、河野君の事が気になるんだ。




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