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それぞれの12月

12月にはいり、初雪があった

風が冷たく、冬だ。でも、クラスの雰囲気が違ってる。

”ソワソワ”してるような。


期末試験が近づてる。

受験に関係ない教科が多いので、僕は、今一つやる気が出ないのだけど、内申点に

が気になるので、今頃あせって勉強してる。


受験勉強、就職のための準備、期末試験対策とそれぞれ忙しいのに、

最近、クリスマスの話題が出てくる。僕は話を聞くたびに”?”だった。


昼休み、脇坂は1年生女子数人に 拉致られてった。

脇坂になんの用だ?勉強でも教わる気かな。

少したって帰って来た脇坂から、予想もしない答えを聞いた。


「1年の中村さんだかいう人に告白されました。部でも委員会でも何のかかわりも

なかったんですけどね。僕の走る姿を見て、憧れてたのだとか」


脇坂は、イケてもいないし、黒縁メガネのどちらかというとダサい。

青野のように気さくでもない。

脇坂の走る姿ね。うん、確かに姿勢ただしく毅然として走る姿は 長距離選手の見本

だけど、中村さんって陸上部じゃないし。


「”憧れ”程度で 告白するんだ。女子って。」

「裕一は、世の流れに疎すぎですね。高校生最後のクリスマス。一度は恋人と

一緒に過ごしたいようですよ。男子も女子も。

それで、今は卒業生目当の子が、クラスに告白にきたりしてますよ」

ああそれで、クラスの雰囲気が ちょっと違うんだ。


「で、返事は?」

「無論、ノーです。好き嫌い以前に 僕は彼女の事を全然知りません。

これから付き合うなんてのは、無理です。

だいたい、”彼女の事を知ってほしい”って友達に言われましたが、

その結果、もし〝嫌いなタイプ”だったらどうするんですかね。」

午後の授業の用意をしながら、脇坂はそっけなくバッサリだ。


「あーあ。裕一は天然だけど、脇坂はわかっていてるからクールだな」

青野が脇坂を肘でこずいた。心外という脇坂を無視して

「俺も告白されたよ、2年のバレー部の女子から。

もう、筋肉もりもりでバッチリ労働力になってくれそうな女子。

もちろん、OKしたさ。

僕と一緒に、ウチの零細酪農業を立てなしましょうって 手をとったのに・・」

「で、その子に引かれたんですね。笑えます。超現実的なのは青野のほうですよ」

ハァ~とうなだれる青野の欠点は、なんでも先走しすぎることなのかな。


ちなみに僕は、誰にも告白されてない。二股プレーボーイ が僕の評価で

浸透したんだな・・・違うのに。

高校生最後のクリスマスか。それなら僕は友達と家族と一緒に過ごしたいな。

人が多いほうがにぎやかでいいし。


で、”クリスマスをウチで楽しく過ごす会”と銘打って、脇坂と青野を誘った。

家には山崎もいるし、男ばかりだけど。

ー・-・-・-・--・-・-・--・-・-・-・-・-・--・-


家でクリスマスの話をして、ばあちゃんに了解をとり、山崎にも話した。

ついでに東京での生活も話しあった。


「山崎、東京では、二人で自炊するかコンビニ弁当かにしよう。

僕は正月に帰るけど、山崎もいったん帰るんだろう?」

受験の事を考えると、帰らずに東京に残ってるのが正解なんだろうけど。


「都築さんにいろいろ聞いてみたんだけど、クリスマス休暇は長いけど 音楽家は

その時期、稼ぎ時らしい。来年以降、冬に帰ってくるのは難しいかも」

そうだそうだ。正月は 東京にいたころも、父母は家を起点にコンサートに

駆り出されることも多かった。


「ところで、美里ちゃんは、山崎のNY行の事、本当に承知してるのかい?」

「”お金を稼ぎに行き、夏休に帰ってくる”って言ってあるだけだ。

働く場所は言ってない。

泣いたってどうしようもないってわかってるみたいだ。

兄貴の話も俺はよくしてるしな」


山崎の兄は、やっと住所がわかった。

大手の自動車工場で派遣で働いてたが、体を壊し工場をやめる事になったそうだ。

今は、東京の小さな町工場で働いてると連絡のハガキがきた。


「俺、東京にいる間、兄貴に会いに行こうと思ってるんだ。

今は生活が苦しいらしいけど、派遣で働いていた時には、俺、援助もしてもらったし。」

僕には兄妹はいないから、兄妹がどんな気持ちかよくわからない。

今の所脇坂、山崎が兄みたいなもんなのかな

(青野は”手のかかる弟”だ)

ー・-・--・-・-・--・-・-・-・-・--・-・--・-・-・-・-・-

試験は週末、その次の日、八重子先生のレッスンだ。

僕は、受験のための曲もきまったし、練習も時間がふえた。

バッハの平均律は、2集の5番にした。難しい曲ではなけど、ベートーヴェンのソナタが

難しいので丁度いいそうだ。


基礎練習の後は、この5番から。

僕はこの曲の明るさと軽さが好きだ。前奏曲はノリよくテンポよく、反対にフーガは

しっとりと弾き、バランスをとりたい。


”ここは、あまりmfくらいで、オヤって思わせるリズムを出して・・”

”おっと、左手と右手のつなぎ目が上手くいかなかった”

”主旋律の裏で、こんなきれいな旋律がかくれてる。これを出したいな”


西師匠に”裕一はバッハが好きだろう”って言われて気がついた。

僕は大好きなんだ。いろいろ工夫したり、フーガで苦労しながらさらうのも

バロックだけど、すごくロマンチックな旋律があったりするのも。

1時間ほど、練習を終え、一休み。

ソファには、美里ちゃんが、座っていた。この子、本当にピアノの音が好きなんだ。


「美里ちゃん、聴いててどうだった?」

出来るなら、ピアノ習わせてあげたいけど、口をはさまない事にしてる。

僕は来年からいないし、美里ちゃんも母親のもとに帰るだろう。

無責任に”ピアノのお稽古”は勧められない。


「何回もおなじことくりかえしばっかり。裕一お兄ちゃんは、

弾いててイヤにならないんだ?」

「もちろん、ならないよ。すごく楽しいって時ばかりじゃないけどね。

少なくても、漢字の書き取りや算数のドリルより、ずっと好きだよ」


美里ちゃんに、ウケたらしく、キャラキャラ笑いながら、音楽室を出て行った。

ピアノ、弾きたくて待ってるわけじゃなかったんだ。

そこからは、ベートーヴェンのピアンソナタ ワルトシュタインを イヤというほど

練習した。

午前1時も過ぎると、"いい加減にすれ"とばかり、山崎がきた。

「俺はピアノの事はわからないけど、それって一種の”指の運動”って事だったろう?

運動すれば、筋肉も腱も疲労する。”練習のし過ぎは故障のもとだ”って、陸上部マネで

さんざん、言ってたじゃないか」


はい、兄さん、その通りです。どうも熱中すると休みを忘れてしまう。

「それより、山崎は英会話の特訓かい?」

「今日はビジネスレターの書き方ってのを 読んでた。向こうでの書類は英語が基本

だから、英語の書類とか書けないといけないな。

NY行に必要な書類は、都築さんがある程度そろえてくれるから、俺は勉強に集中できる」


仕事は有能な都築さんだ。ごく普通の会社に入っていれば、ばりばり仕事をこなすだろう。

あえて。父母のような”ある意味規格外”の人たちの世話もある仕事なんて、物好きなのか


「それより、美里、今日も音楽室にいたようだな」

お兄ちゃんはお見通しか。

「ああ、でも、黙って座ってただけだったよ。ピアノ弾きたいとも

言わなかったし」

美里ちゃんが音楽室に出入り禁止にならないよう。



「美里な、ピアノより最近、勉強に目覚めたらしい、本もよく読んでる。

そばに行っても、”お兄ちゃんは、アッチに行ってて”って言われて、

まったく、嫌われたもんだ」

僕は はあ?とアングリ。高校も来春卒業という男が、小さな妹に嫌われたと

どよんと、落ち込んでる。そんな愚痴なら聞かないよ

「山崎は口うるさいお母さんって役所だからね。煙たがられるんだろうな。」


”あれもこれも美里の事をおもってだな”といいだしそうな山崎を無視して、

僕は音楽室の電気を消し2階へ上がった

センター試験の国語の”漢字の書き取り”でもするか





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